This is my essay.








 おいしそうなマスク・メロンが生っていた。場所は近所の農場といいたいところだが、私の家のほど近い東京は神田の神保町本屋街にある花屋さんの店先である。私は、実際にメロンが生っているところを見るのは初めてなので感動し、しばし余韻にひたった。

 そういえば、バブルの頃に静岡県磐田市に招かれて講演をしたことがある。そのときの帰り際、桐の箱に入ったお土産をいただいた。家に帰って開けてみると、芳香を放ちながら白い紙に包まれたマスク・メロンが出てきた。磐田市は、その有名な産地だったらしい。ご親切にも、食べごろまであと何日というカウント・ダウン付きだったように記憶している。その当時、このような進物用のマスク・メロンは、1万円とか3万円とか、とてつもない値段が付いていた。それを食べてみて、どうだったかというと、もちろんこってりと甘くておいしかったのは間違いないが、別にそれ以上、たとえば天国のような味がしたわけでもなく、要するにメロンはメロンである。

 日本の農業の方向を見ていると、ともかく手をかけ、見た目がよく甘くておいしいものを作り、そして高く売ろうとしている。特に、果物や野菜は、ほとんどと言ってよいほど、こういう路線である。しかし、外国にしばらく住んで、これは明らかに誤っていると思った。まず、外国の農産物の値段は、日本のそれのおそらく10分の一程度ではないだろうか。その代わり、見た目はあまり良くないし、味も決して甘くはない。しかし、それでいいのである。スイカなど、日本のはとっても甘いが一個2500円はする。しかし東南アジアではそんなに甘くはないが、一個20円もしない。だから、食べようと思えばいつでも毎日好きなだけ食べられる。そもそも安くて豊富な食料は、庶民の大きな味方なのである。ところが日本では、確かに工業製品は世界で最も安いけれども、農業産品は、単に果物や野菜にとどまらず、牛肉や米も含めて世界一高いのである。自由化して世界的競争を生き抜いた産業界は成功したが、保護一辺倒で競争のなかった農業界は、自己変革に失敗したことの証左ではないだろうか。

 それに、外国の農産物の方が、もっと人間的であると思う。野菜ではあるが外国で食べたトマトは、私が小さい頃に経験した青臭い味そのものであった。聞いた話だが、日本のトマトの品種のひとつに、桃太郎というのがある。これは、見た目も堂々と大きくて、しかもつやつやと美しい。それに、収穫してから一週間は持つというのである。これは流通させるうえで非常に大事な要素で、普通のトマトが2〜3日しかもたないのに比べれば、この一週間というのは、いかに意味があるかがわかるであろう。ところが世の中は、そううまい話ばかりではない。トマトが含む各種の栄養素を比較すると、この桃太郎というのは、在来品種のわずか3分の一程度だというのである。換言すると、桃太郎は、栄養を犠牲にして、見た目と流通に都合のいいように改良されてしまった品種だというのである。

 この話が本当だとすると、日本で収穫されている果物や野菜のうち、いつの間にか営業上の理由で変えられてしまったこの手の品種は、それこそヤマほどあるのではないか。私の小さい頃と比較すると、たとえば、あの酸っぱい夏みかんが、すっかり市場から消えてしまった。葡萄も、例の巨峰とかいう、砂糖の塊りのような品種が、幅を利かせている。いや、最近は、もっと糖分の高い品種らしい。こんなものを食べ続けると、かえって健康に悪いのではないかという気がする。

 もっとも、われわれ消費者の嗜好にも、相応の問題があるのかもしれない。ひん曲がったキュウリやトマトより、すっきりとした姿形でつやつやとしたものを選ぶ傾向にある。こういう小さな選択行動が積もり積もって、生産者にそういうものばかり作らせるという結果になっている。それにつけても、外国人が来日して驚くのは、リンゴである。バブルの頃、やってきた外国人が「日本のリンゴは、一個一個白いクッションに包まれていて、ひとつ800円、場合によっては1000円もする」といって、私は来る人ごとに何回も同じような話を聞かされたものである。そうだろうなと思う。何しろあちらでは、1000円も出せば、100個以上も買えるから・・・。その代わり、変なリンゴも混じっているので、ひとつひとつチェックしながら買わなければいけないけれど・・・。

 時代の要請に応じて、減農薬の有機栽培品を作るというのも大事なことである。しかしその前に、この手の「見た目や甘さを異常に気にする品種改良」や「凝りに凝った果物」を作って付加価値を追求するという手法は、やめてもらいたいと思うのだが、どうであろうか。そして私たち消費者に、こういう「質より量で安く勝負」というジャンルの実用本位で売られるような果物を供給してくれないかと期待している。衣料品の安売りで急成長したユニクロが、2年ほど前に野菜の販売に参入するというニュースを聞いて、やっとそういう時代になったかと思った。しかし、それは早合点だったようで、実は高額の有機野菜を販売する計画だったらしく、やはり1年半ほどして立ちゆかなくなり、店じまいをしたようだ。

 この世界でも、革新的企業が出てこないかと思うのだが、保護色の強い農産品という分野が分野なだけに、はてさて、どうなのだろうか。それとも、東京や大阪のような大都市以外の地方では、そういう実用的な農産品が主体に売られているのだろうか。一度、誰かに教えを請いたいと思っている。







(平成17年8月 3日著)
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