This is my essay.



茶芸職人と八宝茶




四川料理は「香り」の料理 (お店のHPより)

 四川は、黄河と揚子江に挟まれ、古くから南北文明の中間地点として佐多えてきました。四川料理は、各地から運び集めた麻辣(マーラー)、花椒(ホアジャオ)、唐辛子などの香辛料を多用することが特徴です。中国全土の風味を網羅する『香り』の料理として知られています。

 「四川豆花飯荘 東京店」は、食文化の東西交流地であるシンガポールで育ったグローバルな新しい 中国料理レストランです。一般的には“四川=激辛”というイメージが定着していますが、当店は四川料理をベースに広東・上海・北京、そしてアジア各国のテイストを織り交ぜることで、幅広いお客様に対し、新感覚の中国料理をお楽しみいただけることをめざしています。よだれ鶏や四川麻婆豆腐、担担麺といった四川の定番料理、豆腐料理に加え、フカヒレや鮑、スッポン等の高級素材を存分に使った料理、豆花(中国の柔らかな豆腐)からスイーツまで90種類以上のバラエティーに富んだ料理でお客様をお迎えします。



 去年の秋に、東京駅前の新丸ビル6階に「四川豆花飯荘」なる中華レストランがオープンした。私は、ここが気に入ってしまい、最近では忘年会、新年会、それに私のオフィスの事務員さんたちの慰労会を開いたりした。その上、近く一族郎党・・・といってもわれわれ夫婦と娘夫婦、それに息子であるが・・・その新年会を開こうかと思っているので、まさに入り浸りの状態である。このレストランは、まず、四川料理と名乗っていながら、それにとどまらずに、あちこちの味が混ざっている。あっさりした広東料理のような、ちょっと気取った北京料理のような料理も出てくる。店の説明書きをみると、もともとはシンガポール・ベースのレストランとわかって納得した。確かに、東南アジアの高級ホテルにある中華レストランの味に近い。

 料理の出し方は、我々のような年配者に合わせて、ひとつひとつの料理を、量は少ないものの、次々と持ってくる懐石料理風である。最初のオードブルは、あたかも京懐石のごとく、ちょこちょことしたものが六品も添えられている。ふかひれスープも量は手頃でしつこくなく、すっぽんのカップスープも味は良し、豆腐花もちょっとだけだが雰囲気はあり、季節の野菜と蟹肉の和え物に至っては、野菜ばかりが目立ってどこに蟹があるんだと宝探しをやっていたが、まあそれもご愛嬌。どれも辛くはなかい。ただ、その合間には、四川料理らしく、激辛料理がさりげなく出される。それは、途中で出てきた唐辛子まみれのエビ天ピーナッツと、最後に出てきたご存じ麻婆豆腐である。これらは、唐辛子の辛さに加えて、胡椒の辛さも混ざっていて、ああ、辛かった。眼から涙がこぼれ、そればかりか顔から火が吹き出そうなくらいである。この記事の最後に、最近食べたコース料理「壽寶コース」(¥10,500)のメニューと写真を載せておく。どれも、見て美しく、食べて納得というものばかりである。

 それに、このレストランで何よりも気に入ったのは、「茶芸職人(Tea Master)」のパフォーマンスがあるところである。これは面白いのひとことに尽きる。黄色いチャイナ服を着て、じょうろのお化けみたいなものをあやつり、1メートルはあろうかと思われるその細長い注ぎ口の先を客の茶碗に向けて注ぐという趣向である。最初は、右手を引いて下向きの斜めに注ぐだけであるが、だんだんエスカレートしてきて、頭の上から注いだり、両腕を背中にVの字のようにして注いだり、いやまあ、さまざまなパフォーマンスをみせてくれる。それでまあ、不思議なことは、あの細い注ぎ口から流れ出るお湯は、周囲に少しもこぼれたりせずに、ちゃんとお茶碗の中に全部入るのである。演じているお兄ちゃんに聞こうと思ったら、日本語はダメらしい。そばにいたウェイトレスは、この人は、8年間の修行をしたという。

 その茶芸職人が入れてくれたお茶も珍しい。ジャスミン茶をベースとして、乾燥した菊の花、百合根、クコの実、紅棗、龍眼、胡桃、氷砂糖みたいなものが入っていて、茶芸職人がお湯を注ぐごとに味が変化する。最初はジャスミン茶そのもの、三杯目くらいから氷砂糖が効いてきてやや甘く、それが過ぎて五杯目くらいからは菊の苦味を感じ、そしてだんだんと味が抜けていく。八宝茶というらしいが、まあ、百聞は一見にしかずである。

 ところが、新年会に再び四川豆花飯荘に行ったときに、問題が発生した。肝心の茶芸職人が、いないという。それも、ひどいのである。新年会で予約していて、さあオフィスから出発しようかというときに、支配人から電話があり、「今日は茶芸職人がいません。」という。「いったいどうしたの、去年の終わりには二人いたではないか」と支配人を問い詰めたところ、ひとりは契約切れ、もうひとりは旧正月で中国に帰ってしまったとのこと。いま、新しい人と契約しようとしているが、ビザの手配の問題があるし、2月初めの旧正月が終わらないと来ないらしい。

 というわけで、がっかりしてしまったが、その代りウェイトレスのお姉さんたちが短い注ぎ口の如雨露のような薬缶をもって右へ左へと大活躍をしていた。つい、軽口が出てしまって、「お上手だから、これからは皆さんがパフォーマンスをやればいいのに」というと、「いやいや、10年近い修行が必要ですし、そもそもあの薬缶はたいへん重くて、女性には務まりません。中国にも、女性茶芸職人がいないわけではないのですが、とても少ないんです。特に女性の場合は、皆、この職業に就く前には、筋トレをするということです。それに、茶芸職人は、重心や注ぎ口の長さなど、それぞれが自分の体に合った薬缶を特注するようで、その面からも日本人がそう簡単に用意できるものではありません。」などと説明をしていた。

 そうそう、紹興酒を頼んだのだけれども、いやこれも、たいへんおいしかったことを付け加えておきたい。私は、酒を飲むと翌朝の睡眠が浅くなるので最近はめったに飲まないが、このときばかりはおいしい料理と面白い会話を肴に、しこたま飲み、飲んでも酔わなかったしぐっすりと眠ることができた。

 さて、お勘定という段になって、支配人が、今日は申し訳なかったといって、ひとり千円も勘定をまけてくれた。なるほど、これぞ商人道の鑑、心憎い気配りである。店を出るときには、ゆったりとした満足感に包まれた。また行こう。



  壽寶コースの内容

1. 富貴福禄寿 海の幸、山の恵みの四川六味前菜
 (Six Delicacies Combination)
 

2. 干貝魚翅羹 フカヒレと干し貝柱の醤油煮込み
 (Braised Shark's Fin with Dry Scallop)
 これは、紹興酒

3. 正宗乾焼蝦 車海老の四川チリソース炒め
 (Fried Prawns in Si Chuan Style)
 正宗乾焼蝦 車海老の四川チリソース炒め → 激辛!

4. 椒麻蒸蛤蜊 三河湾産大浅蜊の青山椒香り蒸し
 (Steamed Large"Mikawa"Short-necked Clams with Fresh Pepper)

5. 酸菜牛柳豆花 あつあつ豆腐と牛フィレ、酸菜のあんかけ
 (Stewed Beef Fillet with Fried "Tofu" in Preserved Vegetables)
 

6. 冬蔬炒蟹肉 旬の野菜と蟹肉の炒め
 (Stir-fried Seasonal Vegetables with Crabmeat)
 

7. 十全燉甲魚 スッポンと伊達鶏のすまし滋養スープ
 (Double Boiled Turtle with Chinese Herbs and Chicken)
 

8. 麻 婆 豆 腐 四川豆花飯荘 麻婆豆腐
 (Beancurd with Spicy Minced Beef Sauce)
 四川豆花飯荘 麻婆豆腐 → 激辛!

9. 鴛 鴦 甜 品 あたたかい豆花と冷たいスイーツ
 (Home-made Fine Beancurd in Syrup and Cold Dessert)

 




(平成20年1月20日著)
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