悠々人生のエッセイ



板橋区立熱帯環境植物館





 2月の寒い時期で、天候もよくないことから、室内で熱帯の雰囲気を味わいたいと思い、板橋区立の「熱帯環境植物館」というところに行ってきた。都営地下鉄三田線の高島平駅から歩いて、7分のところである。そこにある清掃工場の排熱を利用して温水プールに併設されているので、その工場の煙突を目指して行けばよい。平成6年9月に設立されたという。

タカアシガニ


 入ってまず地下1階に行くと、そこには熱帯の海底を再現した水族館があって、魚やカニが展示されていたが、最初に目につくのはタカアシガニである。深海に生息し、世界最大の現生節足動物で、生きている化石とよばれるらしい。

ウーパールーパー


 その次に目にとまったのはウーパールーパーで、久しぶりに見てしまった。これは、イモリの仲間である。陸上で肺呼吸する普通のイモリであれば、幼生の時だけに持つ外鰓を、幼形成熟(ネオテニー)といって、この種は成体になっても持っていて、一生を水中で生活するというのである。大人になるのを拒否したというわけだ。正式な名をメキシコサラマンダー(Ambystoma Mexicanum)というらしい。

パフィオペディラム


 その水槽が並ぶ地下を過ぎると、いよいよ地上2階までの吹き抜けとなる大空間が現れ、熱帯低地林の展示となる。ちなみに、そこを一周すると、今度は中二階のようなところにニッパヤシの葉で屋根を葺いたマレー風の家があって、熱帯の果物や芋類の木々があり、そこを過ぎると熱帯の高山植物の展示となっている。

パフィオペディラム


 それでまず、熱帯低地林の展示であるが、ランの一種であるパフィオペディラムがあった。これは別名を女神のスリッパといって、確かに花の前方にそれこそ鼻のごとくにスリッパのようなものをぶら下げている。なかなか愛嬌があって、私の好きな花である。説明によると「東南アジアを中心に約70種が分布。袋状の唇弁(リップ)が特徴的な地生ランの一種。組織培養による増殖技術が確立されておらず、野生種はワシントン条約で国際取引が規制されている。現在では株分けか、同一品種同士での交配で増やすしか方法はない。花の寿命は一般的には1ヵ月は持つ。名前の由来はビーナスのスリッパの意。日本への渡来は古く、水戸徳川藩のコレクションは有名。食虫植物ではない」。そうそう、見かけによらず平和な花なのである。そうはいっても、ミッキーマウスが大きな舌を出しているような奇妙な形の花なので、私はつい、能面の翁の顔を思い出してしまう。だから、まじめに見つめていても、時として笑い出したくなるような、不思議な雰囲気を持っている。

カカオの実


 次にあったのは、カカオの実で、木の幹から実が直接生っている。HPの説明によると、「カカオの花は、直接、枝や幹に無数の花が年に何回も咲きます。生育のよい1本の成樹で、花は年に5千〜1万5千個咲くと言われています。そのうち実になるのは1/100以下の確率で300個程度と、かなり低いです。また、花をつけてから約半年かけて、収穫できる大きさの実になります。カカオの実は“カカオポッド”とも呼び、緑から黄色、そして赤褐色へと変わっていき、色が濃いほど熟しています。カカオ豆はこのカカオポッドの中にあります。白いパルプに覆われ、1つのカカオポッドに20〜40粒ほどのカカオ豆が入っています。白いパルプごとはがし、発酵・乾燥の過程を経て、チョコレートなどの原料となるカカオ豆となります」ということである。そうすると、きょう見たこのカカオの実は黄色なので、あともう少ししたら、豆がとれるというわけだ。ちょっと中を開けて、見てみたいものである。

ハイビスカス


 それから、ハイビスカスをひとしきり見て回った。これは、いかにも南国の産らしい大きく堂々としている美しい花である。花の中央からカブトムシの角のように派手に突き出しているところが何ともいえず、これがこの花のチャームポイントである。ハワイのレイ(花の首飾り)に使われているから、てっきりハワイが原産地かと思っていたら、インド洋や太平洋の島々が原産地で、ハワイに持ち込まれてから広まったらしい。

コエビソウ(小海老草)

 これは、コエビソウ(小海老草)で、正式にはベロペロネ(Beloperone)という。我が家の近所でも、小学校の庭に植えられていたほか、栽培している家が三軒ほどあった。メキシコ原産で、日本へは1931年に渡来したらしい。その形からして、確かに海老のような妙な雰囲気である。ところで「季節の花」によると、「原語のギリシャ語でベロペロネいうのは、『矢のとめ金』を意味する」らしい。これも変ではあるが、狐の孫(きつねのまご)科に属しているというから、ますます怪しい。
 

『絞め殺し植物』ガジュマル


 このガジュマルという植物の名は、これまで聞いたことはあったが、現場にあった説明書を読んで、そんな恐ろしい植物だったと初めて知った。これは、『絞め殺し植物』だというのである。つまり「ほかの木の上で発芽したガジュマルは、気根を垂らして伸ばし、やがて元の木を気根で包み込んで締め殺してしまいます。また、根ばかりでなく葉も元の木をおおうように茂り、やがて同化作用を妨げられた元の木は、枯死してしまいます」とのこと。別の場所にあった説明書によると、これは「イチジクの仲間で、一般に成長が早く、鳥や動物によって食べられた種子は宿主の樹上で発芽して、上に枝葉を、下に気根を伸ばし、根が地面に達すると、一気に成長して樹冠を広げ、幹の周りを気根で取り巻き、光や養分を断ち切り、やがては枯らせてしまう植物を絞め殺し植物といいます・・・恐ろしい名前で呼ばれますが、幹に直接つく、果のうと呼ばれる実は、森では鳥や動物たちの、とても大切な食料となっています」とあった。確かに、枯れた木を包み込んで成長している。ジャングルでの生き残り作戦のひとつであろう。いやはや、植物の世界でも、凄腕の殺し屋がいたとは知らなかった。
  

グラマトフィルム・スペキオスム

グラマトフィルム・スペキオスムの花托


 グラマトフィルム・スペキオスムという世界最大のランの花托とその全体像である。現場の説明書によれば「バルブ(茎のように見える部分)の長さが3mを超える巨大種。岩や樹木に着生する。花は褐色と黄色の斑模様で直径10cm以上、一度に数百つける株もある。この株はまだ若く開花を見ていないが、今後が期待される」とのこと。

チランジア・ウスネオイデス(和名:サルオガセモドキ)


 これがまた、すごいの一言である。チランジア・ウスネオイデス(和名:サルオガセモドキ)で、説明によれば「パイナップルの仲間でも少し変わり種のこの種は、アメリカ東南部からアルゼンチン中部にかけての標高3000メートル付近の高地に分布しています。木にぶら下がって生活しているため、根は退化しており、養水分は細長い葉の表面から吸収しています」という。それにしても、水分はともかく養分まで空中から得るとは・・・高温多湿の熱帯雨林ならではの種である。

ジャックフルーツの若い実


 おお、これはジャックフルーツである。現地にいたときに、ドリアンがないときには、ときどきこれを食べていた。この写真はまだまだ若い実であるが、成熟した実は、フットボールくらいの大きさである。両端はあれほどとがっていない。独特の臭いがあって、ドリアンとまではいかないが、それに次ぐほど強烈なものである。これも説明によれば、「原産地:インド、マレーシア。高さ20mに達する常緑高木で、20kg前後にもなる大きな実を付けます。よく熟した果実は生食されます。甘くて柔らかく、強い香りがあります。種子にはデンプンが多く含まれ、煮たり焼いたりして食べられます」ははあ、種子はいつも捨てていたが、食用になるとは思わなかった。

パキスタキス・ルテア


 これは、面白い形をした花である。東南アジアの現地では、よく咲いていた。パキスタキス・ルテアといって、南米ペルーの原産らしい。黄色の花穂本体の両脇から白いものが出ているが、この白いものが花だという。「パキスタキス」は、「季節の花」によると、太い花穂のようすからギリシャ語のパキスタキスつまり「pachys(太い)+ stachys(穂)」が語源らしい。

ウツボカズラ


 これは、いうまでもなく、ウツボカズラで、この袋の部分に虫を採りこんで消化してしまう食虫植物の代表格である。栄養分の少ない熱帯高地での、植物の生き残り戦術である。「季節の花」によると、「袋のフタのあたりに蜜(みつ)があり、それで虫をおびきよせて、袋の中に落とす。袋の内側の壁はつるつるで、袋のなかに雨水をためておき、落ちてきた虫をおぼれさせて消化する」とのこと。

ポインセチア


 この花は、ポインセチアである。一度、マレーシアのハイランドのひとつであるフレーザーズ・ヒルに遊びに行ったとき、ホテルの前庭にこの花があって、何だろうと思ったことがある。とりわけその中心には、まるでおもちゃのような可愛い形がいくつもあって、しばし見とれたものである。

トウワタ(唐綿)


 さてこれは、トウワタ(唐綿)の花である。HPの説明によると、「トウワタ属は約120種あり、おもにアメリカに分布しています。果実の中の種子に白い綿毛があること、また外国から来たということから“唐綿”と名がついたと言われています。この植物の花はユニークな形で色鮮やかですが、茎に傷をつけると乳白色の汁を出し強い毒をもっています。また、カバマダラという蝶はこの毒を利用して共生しています。この蝶はトウワタに産卵し、トウワタをエサとして一生をすごします。こうして毒性を帯びることでほかの生きものに食べられにくくなるという、生きるための知恵をうまく取り入れています」とのこと。そういえば、ファインディング・ニモで有名になったクマノミも、有毒のイソギンチャクのそばで育ち、子供の頃からその毒に慣れた体になって自らを守るというから、同じような生き方をしているわけだ。

ゲンペイカズラ(源平臭木)


 これはゲンペイカズラ(源平臭木)というのだそうだ。妙な名前を付けたものだと思っていたら、「季節の花」を読んで納得した。それによると「西アフリカ原産。明治中期に渡来。『がく』は白い5角形で、 夏にその内側に赤い筒状の花が咲く。不思議な形。この紅白の対照を、平家の赤旗と源氏の白旗に見立てた」しかし、もう少しロマンチックな名前を付けられなかったものか・・・たとえば、愛のキューピッドとか・・・。

小さなパイナップル


 上は、いうまでもなく、小さなパイナップルで、これがあの大きな実になるのかと思うと、自然の力は偉大だと思う。

 ところで、館内で熱帯の高山植物の展示を過ぎたところに、喫茶室クレアというレストランがあって、マレーシアの料理を出している。とりわけ、懐かしいナシゴレン(マレー風の焼き飯)があったので、頼んでみた。ところが、スパイスのチリが全くといってよいほど、効いていなかった。日本人好みの味に改変されている。そういう意味で、ちょっと、物足りなかったが、まあ、ここは日本、こんなものだろう。まあまあ、それなりにおいしかった。

 ところで、最後に気がついたのだが、果物の王様であるドリアンの木がない。あれはマレー半島が原産地だというのに・・・もしかして、成った実があまりにも臭すぎるせいかもしれない。天国の味、地獄の臭いというくらいだから、敬遠されたのだろう。

 桃栗3年、柿8年というが、ドリアンが実を付けるまで、柿と同じく8年の歳月がかかる。私はあるとき、自宅の庭に自分が食べた中で一番おいしかったドリアンの種を植えた。そうしていつも大きくなっていくのを楽しみにしていたのだが、インド人の庭師の不注意で、切られてしまった。あれほど、くやしかったことはない。





(平成22年2月28日著)
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