悠々人生のエッセイ  秩父市の羊山公園の芝桜



羊山公園の芝桜と武甲山





 ゴールデン・ウィークの初日、ニュースでは秩父市の羊山公園の芝桜が8分咲きというし、先の日曜日には山梨県忍野村の桜が満開で、桜越しに見える富士山が美しいとも報じられていた。そこで、前日になってどちらに行こうかと迷ったものの、結局、お昼頃には天気が一時崩れるという天気予報を信じるとすれば、曇り空では富士山は見えないだろうと思い、秩父に行くことにした。そう決めたのは、前日の夜10時頃だったが、秩父観光のサイトで、秩父鉄道のお花畑駅でなくとも、西武鉄道の西武秩父駅のひとつ前の横瀬駅で降りるとよいことがわかった。そこで、こんな時間に特急レッドアロー号の予約ができるかと思いつつ、試しに西武鉄道のサイトを見てみたところ、朝9時半の列車を簡単に予約できてしまった。また、帰りの列車は、携帯でも予約できるらしい。なるほど・・・これがインターネット時代か・・・本当に便利なものである。

 翌朝、遠足前夜の小学生のように、朝早く起きてしまった。「あなたって、仕事の日は起こさないと起きないけれど、遊びに行く日だけは、早く起きるんだから・・・」などと、家内に冷やかされる。家から池袋駅に行き、そこで券売機に会員番号を打ち込んでお金を入れると、特急券が出てきた。今月の初めに奈良に行ったときは、近鉄でも同じようにウェブ経由で特急券を買ったけれど、そちらの場合は予約時点でクレジットカードで購入していた。だから、券売機にはそのクレジットカードを入れるだけで済んだ。しかし、この西武鉄道の場合は単なる予約にすぎないから、いちいち会員番号を覚えておかなければならない。その会員番号は鉄道会社が勝手に付けたものだから、利用者にはこれが面倒であるし、そうでなくとも誰かがいたずら半分で予約を繰り返したら、システムが動かなくなるのではないかと心配する。だから、このシステムは便利ではあるが、そのうち欠点が目立ってきて、あまり長続きしないのではないかと思う。近鉄のようにすべきだろう。

 それはともかく、池袋駅からは、レッドアロー号に乗るとわずか1時間15分で着いてしまった。冗談のようだが、ゆっくり寝ている暇もない。さて、横瀬駅というところは、普段はまったく人通りもないのではと思うほどだが、この日は違って、ハイキング・スタイルの人が多い。皆、歩いて15分の芝桜を見に行くらしい。駅の周辺では、小学生たちが緑の募金を呼び掛けていた。さて、歩こうと思った瞬間、空が俄かにかき曇ったかと思うと、雨が降り出してきた。これでは仕方がないので、雨宿りを兼ねて駅の食堂に入った。蕎麦やうどんしかなさそうなので、とりあえずそれを注文して食べていると、都合のいいことに雨が上がってきた。それで、羊山公園を目指して、歩き出したのである。

 しかし、何しろつい先ほど食べたばかりなので、家内も私もお腹が一杯で、これ以上はないほどゆっくりと歩くしかない。途中、回りは山道そのものなので、一休みするところなどない。我々の脇を元気な小学生の一団が通り過ぎたと思ったら、我々よりはるかに年上らしきハイキング集団にも抜かれるという有り様だった。しかしながら、回りは農家が点在するのどかな田園風景である。ああ、きれいだなぁと思いながら歩いていると、道端の野草の花も美しかったので、その写真をあちらこちらで撮っていたから、思いのほか時間がかかってしまった。

羊山公園の芝桜


 しばらくして、羊山公園に着いたようだ。道が細くなり、緩やかな坂を上がって入場してみると、そこが芝桜のお花畑となっていた。それが目に入っただけで、思わず「わぁー! これは!」と声を出してしまうほどである。入場したところが、いわば三角点の尖った場所に辺り、そこを起点にして広大な窪地にピンクや紫や白の花の海が一面に広がっている。これはすごいと思って二人で茫然と立っていると、無情にも、雨が降ってきた。それほど強い雨ではないが、濡れても困るので、そのまま芝桜の丘の片面の高台へと急いだ。その場所は、たまたま高い木が何本か植えられていて、雨宿りができそうだったからである。ところがここは、たまたま一面の芝桜を見渡せる絶好の撮影スポットだったので、そこでしばらく見物をしていた。やがて雨は小降りとなって止んだので、また芝桜の海に沿って歩き始めた。

羊山公園の芝桜


 芝桜は、事前の情報のとおり8分咲きといったところであろうか、ところどころにまだ咲いていない緑の部分があるので、その分が画龍点睛に欠けるところではある。まあそれでも、ピンクや白や紫色の芝桜の海を堪能した。花がまるで大きな波を描くように、うねって植えられているところが秀逸である。その花の波を見ていると、優雅で幸せな気持ちがする。ところで、この丘はすり鉢状になっていて、今居るところからすり鉢へと下り、そこから対岸に登ってみた。すると、芝桜の向こうの背景の雲が晴れてきて、そこに大きな山があるではないか・・・これが秩父市と横瀬町にまたがって位置する武甲山だった。秩父を代表する山なのに、石灰岩が採れるということで、どんどん削られてきている。そのせいで、山の上の方は、階段状になっており、まるでピラミッドのごとくである。まあ、その傷ついた姿を見ると、痛ましいこと、この上ない。目の前の優美な花の曲線のハーモニーとは大違いである。雲が晴れなければよかった・・・・。

 言葉をなくしてもう帰ろうということになり、そのまま芝桜の丘を出ると、すぐにタクシーを拾って秩父市内に向かった。我々は秩父は初めてなので、市内を見てみたいと思ったからである。秩父については、明治期に民衆が蜂起した秩父事件、日本三大曳山祭の秩父の夜祭りくらいしか知識がないので、まずはその秩父まつり会館に行ってみた。

秩父まつり会館の屋台


 秩父まつり会館に入ると、一階には屋台・笠鉾コーナーがあり、実物が展示されていた。よくテレビで見る屋台は、たとえば京都や高山の山鉾とは少し違って、何というかもっとオープン形式で、外から中がよく見える。特に周囲にずらりと並ぶ提灯が美しい。笠鉾というのも、まるで大きなクラゲのようなものだが、外見はいかにも優美である。これら二つを背景としてちょっとした映像が投影されるが、それよりも隣の映写室で見られる秩父夜祭りのビデオは、実によく出来ている。最後の難関の団子坂をようやく上がった山鉾が、ドーン・バーンなどと上がる打ち上げ花火を背景に、乗っている人が団扇を振るシーンは忘れられない。山鉾が曳きまわされる実際のお祭りを見てみたいところであるが、毎年12月3日というから、残念ながら私の繁忙期に当たるので、そのうち引退してからにしよう。

秩父神社


 そこを出て、道の向かいにある秩父神社に行った。こちらは、既に平安初期の典籍に載っている由緒ある社だそうで、なるほど、かなりの歴史を感ずる。とりわけ、ご本殿の脇にある「つなぎの龍」は、あの江戸時代の彫刻師、左甚五郎の作であるとの由。境内で売られていた薔薇などの花が美しかった。

左甚五郎の作「つなぎの龍」


 神社の前から番場通りという道をお花畑駅の方向に向かって歩いていった。何か青梅駅の近くを散歩しているような気がするほどに、雰囲気がそっくりだった。かつては大いに繁栄し、今はその余香にひたっているという感じの街である。それだけに、大正時代そのものの古い商店の外見を目にすると、いささか痛々しい気もするほどである。しかし、住んでいる方のレベルはなかなか高いようで、その証拠に家の前を彩っている花々が、これまた実に美しかった。

ハナミズキの花




(平成22年4月29日著)
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