邯鄲の夢エッセイ



北陸新幹線




 本日、平成27年3月14日(日)は、北陸新幹線の開業の日である。なんでも、始発電車の切符は売り出しとともに5分で売り切れたというから、相当に注目されているのは確かだ。かく言う私も、開業初日に乗ってみたかったが、なかなかそうもいかず、乗るのは来月の帰省の時にして、とりあえずどんな車両なのかと確かめたくて、近くの上野駅に見に行ってきた。

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 上野駅の中央改札口に、「北陸新幹線開業」という幕が掛かっている。しかし、大きな荷物を抱えた乗客や通行人がひっきりなしに通り、そんなものを見ている暇な人は、ほとんどいない。これで本当に開業したのかと疑問に思うほどだ。ともあれ、その脇にある切符の自動販売機で入場券を買い、中央改札口を通る。新幹線改札口を抜けてから下りのエスカレーターを2回乗り継ぎ、やっと新幹線のホームに着いた。北陸方面の20番線へと行ってみる。 。

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 すると、このホームは、東北新幹線、秋田新幹線、上越新幹線、長野までの北陸新幹線も使っていて、わずか20分の間に数本の電車が発着する。しかもそれらの電車が形も色も様々だから面白い。鉄道ファンなら我を忘れて眺めるはずだ。東北新幹線は、ロングノーズで緑色のE5系「はやぶさ」、それと向かい合わせで連結されていることが多い濃いピンク色の秋田新幹線E6系「スーパーこまち」、二階建て車両が周囲に威圧感を与える上越新幹線のE4系「Maxとき」、長野までの北陸新幹線のE2系「あさま」が、次々に発着している。その中に混じって、北陸新幹線のE7系の車両がいよいよやって来た。先頭の顔は、すっきりした流線型で、近頃の新幹線車両によく見られるアヒルのクチバシのような妙に入り組んだ形をしていない。車体全体の色調はアイボリーホワイトで、それに銅色のラインが描かれている。車両の顔は青空のような鮮やかなブルーで、銅色のラインと鮮やかな対比を見せる。これは、なかなか素晴らしいデザインである。

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 これまで、東京から富山に行くには、上越新幹線に乗り約1時間で越後湯沢まで行って「ほくほく線」の特急「はくたか」に乗り継ぎ、そこから約3時間で富山に着いた。乗り継ぎ時間を含めると、合計4時間15分くらいだった。「ほくほく線」の線路はそもそも狭軌だし新幹線のようなしっかりした作りではないから、車体が結構揺れる。だから、落ち着いて本を読むことなどできない。さりとて酒を飲んだりつまみを食べたりすると太るから控えなければいけない。それで3時間だと、することがないので手持無沙汰で困る。それでも「ほくほく線」は以前に比べれば距離的にまだマシになった方で、直角三角形の斜めの長辺に当たるルートをなぞっていく。その「ほくほく線」がまだ出来ていなかった頃は、上越新幹線で長岡まで行って在来の北陸本線に乗るというルートだった。これで行くと直角三角形の直角のところが長岡で、それを回るように二辺をたどっていくのである。だから、距離はもっと長かったし、山あいの草深い線路だった。途中で荒れ狂う日本海の荒波を見ながら親不知の近くを通ると、誠に物寂しい気がしたものである。さらにその前、つまり上越新幹線すらなかった頃は、東京から信越本線経由で行くしかなかった。軽井沢を通って北陸本線回りで走る特急白山なるものがあって、それに延々と6時間半も乗って富山に着いたものである。これは、実に遠かった。それがどうだろう、これからは2時間ちょっとのところになってしまった。とても便利で、やっと現代に生きているという感すらするのであるが、反面、途中の旅情というものを感ずる暇もないのだろうなという気がする。たとえば、最後の特急白山の6時間半コースというのは、長くて嫌だったけれど、ひとつだけ楽しみがあった。それは、軽井沢の手前の横川駅に長時間停車し、機関車を連結してスイッチバックを行う準備をするのだが、そのときに有名なお弁当「峠の釜めし」を買って食べることである。これは美味しいだけではなくて、食べた後の素焼きの釜も、家に持ち帰ってサボテンを植えるなどインテリアとして楽しんだものである。

峠の釜めし


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 もちろん、羽田空港から富山空港まで飛行機で行くという選択肢は昔からある。しかし、冬場は天気が荒れたり雪になったりすると、しばしば欠航になる。加えて私の場合は空港からさらに1時間かかるところにあるので、あまり飛行機を利用するメリットはなかった。それでも、かつて日本航空が倒産する前には、全日空と2社の便が乗り入れていた時代があり、そのときは競争のために飛行機代がどんどん下がって片道わずか8千円というのでびっくりしたことがある。しばらくはそれを利用させてもらっていたが、良い時代はそう長く続くものではなく、日本航空が不採算路線の整理で撤退してしまったとたん、料金は確か2万数千円に跳ね上がってしまったので驚いた記憶がある。その点、今回は北陸新幹線という手強いライバルの出現で全日空がどう出るかと思っていたら、開業に伴い、対抗値下げをするという。つまり、北陸新幹線の東京・富山間の料金が1万2,730円に対し、全日空の飛行機は、羽田・富山間の料金を3,300円引き下げ、1万2,700円と、30円だけ安くするそうだ。とりあえず、3月14〜28日まで・・・というのが前年11月21日の全日空の発表だったが、その後さらに分が悪いと思ったのか、本日ANAのサイトを見てみたら、普通運賃2万7,390円に対し、特割なるものがその便によって1万1,290円又は1万2,290円と、更に引き下げられていた。それどころか75日前に予約する旅割だと、9,190円又は10,190円と、昔並みの料金に戻ってしまった。競争は、やりすぎでなければ良いことだが、この低水準の料金を長く維持してくれるかどうかが問題だ。

 本日開業した北陸新幹線は、先行開業していた東京〜長野間のさらに先へと、上越妙高駅、糸魚川駅、黒部宇奈月温泉駅、富山駅、新高岡駅そして金沢駅という6つの駅を設けて延伸したものである。列車のタイプは4種類で、最速の「かがやき」(東京を出たら大宮、長野、富山、金沢駅にしか停車しない。)下り方面6時16分始発、21時04分最終。各駅停車の「はくたか」、富山・.金沢間往復の「つるぎ」、東京・長野間往復の「あさま」がある。すべてE7系の車両だが、あさまだけは、E2系車両を併用する。最高速度は260キロで、原則これで走るのだそうだ。車両は全て12両編成で、グリーン車と普通車のほか、プレミアムブランドであるグランクラスが設けられる。豪華な座席といっても、わずか2時間の旅なので、あまり有り難みは感じないとは思うが、話の種に、こんど乗ってみるつもりである。


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 いずれにせよ、「故郷は遠くにありて思ふもの」ではなくなり、ごく近くに来てしまった。父が生きていたら、なお良かったと思う。北陸新幹線を見終わった後、上野駅を出て上野公園に向かうと、正面にある桜の木が、もう満開だった。桜の花も、北陸新幹線の開業を祝っているようだ。

小鷺


 上野公園から不忍池に出て、その周りを歩いて帰る途中、小型ながら白くて美しい鳥を見かけた。頭の後ろから白い羽が数本出て垂れているし、嘴は黒で足指は黄色い。これは、小鷺(こさぎ)である。水面をにらみながら岸辺を、抜き足差し足、そろりそろりと歩いて魚を探しているようだ。一瞬立ち止まり。背を低くした。何かを見つけたようだ。首をゆっくり伸ばして確認し、また歩き出した。どうやら、違ったか取り逃がしたらしい。その姿を私がカメラで追う。残念ながら超望遠レンズではないので、顔をアップで撮ることはできないが、かなりがっかりしたような歩き方である。「そうがっかりするな。また直ぐにチャンスはあるさ。」とでも、声を掛けてあげたい気分である。技術の粋を集めた北陸新幹線のすぐ脇に、こんな小鷺の日々の生活の営みがある。

小鷺








(平成27年3月14日著)
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