邯鄲の夢エッセイ








 早春の横浜散歩( 写 真 )は、こちらから。


 3月もお彼岸となり、もうこれから日差しは暖かくなる一方だが、まだ風は冷たい。だから、東京の桜の開花宣言は今日か明日かという微妙な段階にある。ということは、今日はどこへ行っても桜の染井吉野にはまだお目にかかれない。昨日は、不忍池の周辺を散歩したから、今日こそは、少し遠出をしたい。家内は美容院だから、そちらを気にする必要はない。でも、山歩きには風が冷たそうだ。ということで、簡単に行けて気持ちがすっきりするところとして、横浜に行ってみることにした。昨年の秋以来である。愛用のキヤノンEOS−70Dを肩に掛け、明治神宮駅乗り換えで横浜に向かった。元町・中華街駅に降り立った。このまま中華街に向かってもよいが、お昼にはまだ早い。山下公園に向けて歩いて行った。


 おやおや、公園内で、枝垂れ桜が咲いている。満開ではないが、5分咲きというところで、なかなか美しい。2本の枝垂れ桜が並んでいて、その真ん中に、まるで図ったかのように停泊中の氷川丸が見える。その船尾にはためく日の丸がアクセントになる。しかも、空は晴れて青い。これは絵になると思い、カメラの設定をあれこれ工夫しながら撮ってみた。そのまま撮ると、晴天に負けて桜の花の色が黒っぽくなる。これではいけないと、露出補正をして明るくすると、桜の花の色は美しくピンクになるが、今度は空の青さが薄くなって色の対比が出なくなる。それに氷川丸を綺麗に撮ろうとすると、三次元方程式を解いているようなものだから、なかなか難しい。三方が成り立つようにするには、設定を適当にいじってその内どれかが当たるだろうという精神でやるしかない・・・実は、HDR(High Dynamic Range imaging)機能を使うのを忘れていただけである。



 しばらくそうやって頑張っていたが、そろそろお昼近くとなってお腹が空いてきた。そうだ、公園前のホテル・ニューグランドでスパゲティ・ナポリタンを食べようと思い付いた。このホテルは、スパゲティ・ナポリタンの発祥の地だそうだ。この料理は日本では全国津々浦々に広がっているが、実はこれはこのホテルの創作料理であって、イタリアに行ってもそういう名前のこれと同じような料理はないのだそうだ。ホテルのレストランに入り、それとコーヒーを注文した。しばらく待ち、出てきたのは、風味豊かなスパゲティ・ナポリタンである。町の食堂のナポリタンのようなトマトケチャップを食べているかのごとき味とは全く違う料理である。大いに満足したものの、やや量が物足りない。そこで、ケーキを注文したところ、目の前に持ってきていただいた。ウェイトレスさんが順に説明してくれたが、その半分もいかない内に、サバランが目に入り、それをお願いした。ケーキの頂上には、生クリームの上に赤いラズベリーとオレンジの果物が乗っている。それらを平らげてからケーキ本体を口にすると、しっとりとして、実に美味しい。これはリキュールとシロップが相当入っている。下の方までスプーンが届くと、ケーキのスポンジ部分が、確かに黄色いお酒にどっぷりと浸っている。だから、口に入れると「じゅわっ」という感覚があるのかと納得。それにしても、昔々に食べたサバランって、何だったのだろう。リキュールが乾ききっていたのかもしれないし、もっとはっきり言えば、安物のまがい物だったのかもしれない。



 大いに満足して、また山下公園に向かう。港に浮かんでいる氷川丸に近づくと、自転車で来たどこかのおじさんが、港の水面に向けてお菓子らしきものを空中に撒いているではないか。それにカモメが群れを成して集まり、おじさんの周辺を乱舞している。野生の鳥に餌をやってはいけないと、不忍池あたりでは厳に戒められている。ここ横浜港でも同じではないのかと思うが、おじさんはただ黙々と投げ与えているばかり。一瞬、これは注意すべきかとも思ったが、中学校の風紀委員でもあるまいしと思いなおす。しばらくそれを見ていると、こちらも、鳥が可愛く思えてくるから不思議だ。カメラを持つ私の手が自然に動いて、飛行する鳥を高速連射モードで撮り始めた。カモメはどこから飛んで来るのかわからないし、来たと思ったら意外な方向へと飛び去ってしまう。最初はなかなか上手くいかなかったが、そのうちに慣れてきて、何とか写真になった。中には、投げられた餌を空中でキャッチしたものの、何かの拍子に口を開けてしまって餌を取り落すというそそっかしいカモメもいて、まるで人間と同じである。




 それから、公園内をブラブラと散歩した。サンディエゴ市から送られた水の守護神、赤い靴を履いてた女の子の像を見ながら、最後にインド水塔を後にして、お散歩デッキを渡り、横浜大桟橋の客船ターミナルの前に来た。ちょうど、飛鳥IIらしき豪華客船が入港していた。陸側を振り返ると、神奈川県庁(キング)と横浜税関(クイーン)それに開港記念館(ジャック)の建物が見えた。象の鼻テラスに立ち寄った後、横浜赤レンガ倉庫へと歩いて行った。ここは昨年、ベトナム水中劇を見たところである。さらに進んで、横浜ワールド・ポーターズの建物を経由して、みなとみらい地区のぷかり桟橋、帆船の帆のような形をしたインターコンチネンタル・ホテルから、クイーンズ・スクウェアに入った。




 しばらく建物の中を歩いた後、横浜美術館に方へ目をやると、遠目ではピンクの花の木が満開のように見えた。これはひょっとして桜の木かと思ってそちらの方へと行ってみると、それは紫木蓮の木で、今まさに満開だった。とても見事である。しかも、上を見上げると69階建てのランドマーク・タワーと木蓮の花が重なって見えて、近未来的な感じがする。道行く人たちも、口々に「すごく綺麗だね」などと感嘆の声を上げている。私もいたく感じ入って、しばらくはそれを撮るのに専念した。今度は、山下公園の枝垂れ桜のときとは違って、最初からHDR機能を使ったところ、まあまあの写真が撮れた。先ほども、最初からこうやればよかった。また、なるべくF値を小さなものとして、ねらった木蓮の花だけが浮き上がり、その周囲はボケるようにしたところ、まあまあの写真となった。そういうわけで、ここでも30分ほど色々と試した写真を撮り、ある程度、それに満足して、桜木町駅を経由して、今度は京浜東北線で帰京したのである。









(平成27年3月22日著)
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