佐倉の秋祭りに行ってきた。佐倉は、江戸時代には堀田家11万石の所領だった地で、今なお武家屋敷が残っている。京成上野駅から、電車でわずか1時間強のところに、こういうところがあるとは知らなかった。10月16日の日曜日午後2時半すぎに京成佐倉駅に降り立ち、地理が右も左も分からないまま、インターネットの公式サイトからダウンロードしたお祭りの地図と、グーグルマップの道案内の矢印を頼りに新町通りに向かった。なだらかな登り坂である。2本の道があって、そのうち寂しい道を選んだせいか、駅前近くを過ぎると道の両脇に草ぼうぼうのところがある。普通どの町でも、駅の周辺には繁華街が広がっているというのに、これはどうしたことかと思いつつ、10分ほどで新町通りに着いた。なるほど、ここが繁華街のようだ。
私の目の前には「おはやし館」があった。そこで係の女性から、どこでお祭りを観ればいいか、見所は何かを教えてもらう。この祭りでは、各町から出る21もの「山車」と「屋台(御神酒所)」と「御輿」が、練り歩くそうだ。「山車」は、てっぺんに人形を据えた3層構造の山車(だし)である。この人形は、いずれも江戸時代の名工の手によるもので、天上から降りてくる神様の目印となるという。道を山車が進行中、前方に電線などがあると、その人形がスルスルと山車の中に収容されて消えてしまうから、面白い。次に「屋台(御神酒所)」というのは、唐破風の屋根を持つ舞台(囃子台)のある屋台で、先月観た岸和田のだんじりと同じようなものである。その屋根の上には2人ほど乗っていて、両手に持った団扇などをリズミカルに降り、全体の調子をとる。それにしても、屋台を「御神酒所」というなんて、変わった呼び名だと思っていた。すると、かつてこれは神様に御神酒などを奉納する場所として、三宝を置いて現に奉納していて、その名残りだそうだ。
要は、人形が乗っているのが山車、そうでないのが屋台(御神酒所)。その他、お神輿があり、威勢良く担いで回っている。しかし考えてみると、京都の祇園祭りなら山車だけ、川越祭りなら屋台だけ、神田明神の神幸祭ならお神輿だけというのが一般的なのに、この3つが全部揃っていて同じお祭りのときにそれらが入れ替わり立ち代わり出てくるというのは、佐倉独特のものではないだろうか。見物客からすれば、通りに立っているだけでこれらを次々に見られて、面白い。
麻賀多神社まで歩いて行って、参拝して再び中心街に戻ろうとしたら、ちょうど屋台(御神酒所)が出発するところだった。屋台の屋根の上に2人の人が乗っていて、そのうちの1人がピンク色の傘を持っていた。それが真っ青な空の色に映えて、実に美しい。綱を引っ張る時の掛け声は、「エッサーエッサーエッサッサ、エッサーバラバラエッサッサー」と聞こえた。まるで、童謡の「お猿の籠屋」とそっくりだ。
夕暮れになると、屋台(御神酒所)の提灯に灯りがともる。暗い中、それが美しい。お囃子台の中に、おかめ・ひょっとこが現れて、剽軽な踊りを披露してくれる。山車や屋台は、2本の白い綱で引っ張るが、その引っ張る人には女性が多い。中には赤ちゃんを背中に括り付けて先頭に立って引っ張る若いお母さんの姿もあった。これに対し、男性はおおむね山車や屋台の周りにいて、方向転換を受け持っている。全体的にどう見ても、男性より女性の数の方が多い。佐倉は、女性で持っているらしい。
それから山車や屋台(御神酒所)に付いて行った。すると、向こうからもやって来る。こんな狭い道をどうするのかなと思っていると、まるで挨拶をするように、山車や屋台(御神酒所)が向き合う形で斜めに止まる。そして、先に行く方が挨拶をするように、お囃子と、女の子たちによる雀踊りのような可愛い踊りを披露してから、動いて去って行く。これがもし角館だと、交渉の話し合いをまず行い、それが決裂すると、ぶつける実力行使に出るから、それに比べれば誠に平和的だ。また、屋台(御神酒所)が各町の会所を通る時や商店などから祝儀が出たような時には、「角付け」といってわざわざ正面に向け、同じようにお囃子を奏で、女の子たちの踊りを披露する。それだけではない。交差点に達した屋台(御神酒所)が、合図とともに、囃子台がぐるぐると回り始めたので、驚かされた。遠心力で、提灯が吹っ飛びそうなほどである。これは、「はなぐるま」という技だそうだ。
通りに麻賀多神社の大神輿がやってきた。町内の神輿に比べて、ひときわ大きい。大神輿が各町内に到着すると、これを待っていた氏子の皆さんが恐縮した姿勢をとる。そうすると「さらば久しい、さらば久しい、さらば久しい」の掛け声を上げながら担ぎ手が大神輿を天高く突き出す。しかる後に、大神輿の先端を屋台(御神酒所)の欄干にちょっと掛けてから、去っていく。これは、習慣らしい。
いやいや、このお祭りは、非常に面白かった。このお祭りを、江戸時代から何百年にわたって営々と受け継いできた、佐倉の皆さんに、心から敬意を表したい。
(平成28年10月16日著)
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