悠々人生エッセイ



甲冑競馬で疾走中




 相馬野馬追祭り( 写 真 )は、こちらから。


1.相馬野馬追祭りの全容

 福島県南相馬市まで、「相馬野馬追(そうまのうまおい)」を見物に来ている。見るもの聞くものが全て荒々しく勇ましい祭典である。戦国時代の合戦は、さも斯くもありなんと思うほどの荒ぶる行事であった。その全容を知るには、これを説明している南相馬観光協会のガイドブックが非常にわかりやすかった。それによると、

 一千有余年の歴史を経て、今なお勢いづく伝統の祭り 血湧き肉躍る戦国争乱のドラマ

 甲冑に身をかためた五百余騎の騎馬武者が、腰に太刀、背に旗指物をつけて野原を疾走する、力強く勇壮な時代絵巻。伝説によれば、相馬野馬追は今から千年以上も昔、相馬氏の遠祖とされる平将門が下総国小金ヶ原(千葉県西部)に放した野馬を敵兵に見立てて軍事演習に応用したことにはじまったと伝えられています。そして捕らえた馬を神馬として氏神てある妙見に奉納したのです。
 その後、相馬重胤が奥州行方郡(現・南相馬市)に移ってからも代々の領主がこの行事を伝承。野馬を奉納し、相馬地方の平和と安寧を祈る神事として、怠ることなく野馬追いが行われてきました。現在は国の重要文化財となっています。旧藩領あげての最大の祭典として、今も熱気あふれる行事がくりひろげられています。
妙見とは仏教でいう妙見菩薩のことであり、北極星・北斗七星を神格化したものです。家紋『九曜』も、これに由来すると伝えられています。相馬氏は初代師常公の時代から妙見信仰を守り続けてきました。下総国から陸奥国に移り、はじめの地であった太田、続く小高城、そして中村城に妙見宮をお祀りしています。これが今に至る太田神社、小高神社、中村神社で、合わせて『相馬三社』と呼ばれ、現在も地域の人々の信仰を集めています。」


 旧奥州中村藩の領域は、太平洋に沿って走る浜街道沿いに連なる5つの郷で、それぞれが相馬三社に供奉する。北から南へ見ていくと、宇陀郷と北郷(中村神社)、中ノ郷(太田神社)、小高郷と標葉郷(小高神社)であり、これによって野馬追の組織を構成する。相馬野馬追祭りは、次の3日間の日程で行われる。

【第1日】お繰り出し「総大将の下知により出立」相馬三社のそれぞれにおいて、陣笠、陣羽織、甲冑姿で集まり、出陣式を挙行し、隊列を整えて「お繰出し」。騎馬隊は各自のコースで雲雀ケ丘祭場地に向かい、馬場清めの儀式の後、宵乗り競馬を開催する。


甲冑競馬でこれから出番



甲冑競馬でこれから出番



【第2日】お祭りのハイライトで、お行列(おぎょうれつ)、甲冑競馬、神旗争奪戦、火の祭りが行われる。

 [お行列]総勢500余騎が、甲冑姿で太刀を持ち、先祖伝来の旗指物を風になびかせながら、総大将、軍師、侍大将、軍者、組頭、螺役長などの順で威風堂々と雲雀ケ丘祭場地まで行進する。殿様の行列なので、観覧の心得として、行列を横切らない、2階など高いところから見下ろさない。

 「甲冑競馬」法螺貝の音とともに、鎧武者が10騎ずつ10回、一周千メートルの競走を行う。

 「神旗争奪戦」相馬三社のご神旗を数百騎の騎馬武者が奪い合う。

 「火の祭り」騎馬行列が雲雀ケ丘祭場地から帰る頃、住民が沿道に提灯や松明をかざしたことから始められた行事で、行列が小高神社に到着する頃に花火が打ち上げられる。

【第3日】野馬懸けで、多くの馬の中から神の思し召しにかなう馬を捕えて奉納する「上げ野馬の神事」である。まず、騎馬武者が馬を小高神社境内に追い込む。目印を付けた馬を御小人(おこびと)という10数人の白装束の男が総がかりで捕え、神社に奉納するというもの。


2.甲冑競馬と神旗争奪戦

(1)第2日後半のハイライトのみ見物

 私は、このお祭りの事情がよく分からなかった。そこで、そういう場合の常道であるツアーに乗った。日帰りコースだから、見られたのは甲冑武者競馬と神旗争奪戦だけである。後から思うと、騎馬武者隊列をじっくり写真に撮るには、お行列が良かったのだが、その出発は午前9時半であるのに対して、我々が東京駅から東北新幹線で出たのが午前7時8分、雲雀ケ丘祭場地到着が11時半頃だったから、とても間に合わない。

 しかも、その当日は、雨模様のためにお祭りがどうなるか、とても気をもんだ。というのは、3日前の木曜日に日本列島のすぐ南の海上で台風が発生し、いきなり北上をはじめたからである。翌日には三重県に上陸し、相馬野馬追の第2日目の日曜日には、天気予報によれば、会場を直撃しそうな雰囲気だったからだ。

 多少の雨なら挙行するだろうけど、それにしても雨対策は必要だろうと思って、リュックの中の物は全て小分けにしてビニール袋に包んだ。特に全身がずぶ濡れになることも考えて、雨合羽はもちろんのこと、シャツ、ズボンから下着に至るまで着替えを準備した。また、カメラも、買ったばかりのソニーα7の超望遠レンズは200mmと短いので、キヤノンEOS70Dの300mm(フルサイズ換算460mm)を持っていくことにした。結果的には、この判断が正解だった。

 日曜日の当日朝、家から出てみると、無常にも大雨だ。「現地では晴れてくれないかな」と思いつつ、その中を傘をさしながら駅に向かった。ところが、福島駅に到着した頃には雨が上がっていて、その代わりカンカン照りの夏日和だ。その暑い中、駐車場から道を歩いていくと、カッポカッポとお馬さんが通る。ときどき、道には馬の落とし物があるので、踏まないようにしなければならない。


会場の雲雀ケ丘祭場地



会場の雲雀ケ丘祭場地の観客席



 会場の雲雀ケ丘祭場地に到着した。牛来口(ごらいぐち)ゲートから入ると、目の前は一周千メートルの大きな馬場だ。段々になっている観客席の小山(本陣山)の坂が、これまた広大である。そこに、3万人もの見物客が集まっている。暑くて日除けの傘をさしたいが、後列の観客席の人の視界の妨げになるので、それもできない。頭には、つば広の帽子を被っているから、まあまあ大丈夫だが、背中から長袖のシャツを貫いて日光の熱が身体に入ってくる。このままでは、日射病になるかもしれないので、水をどんどん飲むことにした。この日で、合計2リットル半は飲んだと思う。しかもその半分は、塩分入りのものだったから、何とか身体が持ってくれたようなものだ。この日見られたのは、甲冑競馬と神旗争奪戦である。

(2)甲冑競馬

 お昼の12時になった。ブオー、ブオーーという法螺貝の厳かな音色が鳴り響く。甲冑武者姿の競馬が始まるようだ。「総大将に申し上げる。10騎中、8騎が揃い、出発するー」。総大将「承知!」などというやり取りがあって始まる。ところが、出走馬がなかなか来ない。アナウンスがあって、「この競馬には出発ゲートがないので、全騎が息を合わせて出発しないといけません。フライングがあったようです。」などと言うので、観客がどっと笑う。その中を一群の甲冑武者騎馬軍団が、やっと走ってきた。


甲冑競馬



甲冑競馬



甲冑競馬



甲冑競馬



 一周千メートルの馬場は早朝の雨でぬかるんでいる。そこを旗指物を背中に括りつけて、ドドドッとばかりに集団で走ってくる。これは凄い迫力だ。土くれが巻き上がり、武者の顔が泥だらけである。あっという間に目の前を通り過ぎて、コーナーに向かう。やがてコースの向こう側に廻り、いやもう走るは走るは。そしていよいよ最後のコーナーに差し掛かり、ゴールに向かう。遂に通り過ぎた。勝者は嬉しくて嬉しくて、拳を何回も突き上げる。そして、ゆっくりと戻ってきて、審判役から着順の証明をもらう。それから、本陣山の観客席の真ん中をジグザグに貫く「羊腸の坂」(この名前がまた良い)をその馬で一気に駆け上がって、頂上の神社か本陣かに、その栄誉を報告に行くそうだ。

甲冑競馬で勝って手を挙げる武者



甲冑競馬で勝って羊腸の坂を駆け上がる



 観客席に座っていては、写真にならない。そこで、一番下に降りて行って走って来る出走馬を撮る。スポーツモードだから、コンティニュアス・フォーカスと連射の組合せだ。これで甲冑武者を連射したところ、何とか見られる写真が撮れた。ただ、もう少し良い撮影ポジションがなかったかどうかが反省点である。振り返ってみると、最初から観客席ではなくて馬場に近い所で撮っていた方が良かったのかもしれないし、加えて牛腸の坂にも行けば、甲冑武者とその馬を間近に撮ることが出来たと思う。もっとも、あの暑い中を大きく動き回ると、日射病にかかっていたかもしれないので、何とも言えない。

(3)神旗争奪戦

 午後1時になり、次にいよいよ神旗争奪戦が始まる。1発の花火中に2つの神旗が入っていて、高さ150mに打ち上げる。それが地上へ降りてくる途中で、騎馬武者が鞭に絡めて取る。地面に落ちたのはカウントしない。神旗を取った武者は、例えば「中ノ郷地区の谷口」などと名前が告げられる。その栄誉を称えて、取った武者には、羊腸の坂を駆け昇ることが許される。神旗には、赤、青、黄色の三色があり、それぞれ、神社が違う。


神旗争奪戦で神旗入り花火を打ち上げ



空中を降りてくる赤と青の神旗



空中を降りてくる青の神旗



空中を降りてくる赤の神旗



 さて、ズドーンという花火の音で、始まった。空を見上げると、花火が破裂する白い煙が数ヶ所見える。それから、青い神旗と赤い神旗がゆらゆらと降りてくる。中に書かれた字が読めるほどだ。地下では、風向きを読んで沢山の騎馬武者が旗指物を左右に揺らして待ち構えている。あっ、地上までもう少しというところで武者群にはっきりと動きがあり、皆我先に鞭を空中に伸ばしている。ああっ、神旗が誰かの鞭に包まれてしまった。取られたのだ。

神旗争奪戦で騎馬武者の頭上に降りてくる赤い神旗



赤の神旗を取り合う騎馬武者



 これを20回、40本の神旗について繰り返す。中には、鈴木さんという「女性武者」がいて、この人もちゃんと神旗を取っていたから、笑ってしまう。戦国絵巻での女性の活躍だ。なかなか良いではないか。ある時は、黄色の神旗も降りてきた。それとペアの青い神旗も降りてきたが、あれあれ、こちらの方は、風に流されて場外に出てしまった。これはノーカウントらしい。

甲冑武者が落馬



甲冑武者が落馬して、馬がそのまま走って行ってしまう



そのまま走って行ってしまう馬が取り押さえられた。



 それから、乗り手の甲冑武者が落馬して、馬がそのまま走って行ってしまうこともよくあった。危ないので、無主の馬は、すぐに取り押さえられていた。

(4)やはりお行列を撮りたい

 というわけで、本日のハイライトである2つの行事が終わった。期待していた通りのお祭りだったが、次の機会があれば、前日に一泊して「お行列」の写真を是非とも撮ってみたいと思っている。







(令和元年7月28日著)
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