悠々人生エッセイ



名古屋城(昼)




 昨年の秋も深まった頃のことだった。退官直後に出掛けた海外旅行から帰ってきて、一人でのんびりと街を散歩していた。すると、突然、名古屋市長から電話が掛かってきたのである。何かと思ったら、「あいちトリエンナーレについて、名古屋市としてどう対処すべきかを検討する第三者委員会を立ち上げるので、座長になってほしい。公平な目で自由に判断していただき、名古屋市としてはその結論を尊重します。」と名古屋弁でおっしゃる。

 実は、市長は私の高校の1年先輩で、弟さんも2年後輩という関係であり、先輩が困って頼って来ているときに無下にお断りするのは良くないと思って、内容もよくわからないままに、その場で引き受けた。本件は、東京ではあまり報道されていなかったことから、ほとんど知識がなかったので、家に帰って調べてみたところ、これは容易でない案件であることがわかった。

 その公式ホームページによれば、「あいちトリエンナーレは、2010年から3年ごとに開催されている国内最大規模の国際芸術祭です。国際現代美術展のほか、映像プログラム、パフォーミングアーツ、音楽プログラムなど、様々な表現を横断する、最先端の芸術作品を紹介します。また、まちなかでの作品展示や幅広い層を対象としたラーニングプログラムがあることも大きな特色です。」という。「情の時代」という題で、その年の年8月1日(木)から10月14日(月・祝)までの75日間の会期で行われた。

 ところが、このあいちトリエンナーレ2019では、その中の「表現の不自由展・その後」の展示内容をめぐって短期間に数多くの抗議電話を受けたばかりか脅迫すらされるなど、尋常ではない経緯があって、わずか3日間で中止に追い込まれた。その後、約2ヶ月の中断期間を経て再開したものの、それに関して愛知県と名古屋市との間でいろいろとやり取りがあったようだ。

 愛知県が設置した「あいちトリエンナーレのあり方検討委員会」調査報告書(2019年12月18日付け)によると、本件の中止に至る経緯について次のように記述されている。

1.8月1日〜3日は、展示室内はおおむね冷静だったが、入口の外には抗議の人が集まり、職員が止めた。見ていない人がSNS上の断片画像を見て、抗議を超えた脅迫等の犯罪行為や実行委員会事務局のみならず県庁さらには学校等を含む出先機関への組織的かつ大量の電凸攻撃に及んだ。

 − 学校や福祉施設の脅迫まであり、県警が注意喚起。逮捕者2名。
 − 電凸攻撃(電話 3,936件、FAX 393件、メール6,050件 合計10,379件 2019年8月1日 から8月31日までの件数)による業務妨害、精神的苦痛等
 − 名古屋市長や作品を見ていない県外政治家の抗議が報道され、抗議が拡大

2.批判内容は「芸術の名を借りた政治(あるいは反日)プロパガンダ」「展示が政治的に偏向」「昭和天皇や特攻隊員への侮辱」「公金、公的施設の使い方としておかしい」等が多かった。

 − 作品レベルでは主に3つに批判が集中:@キム・ソギョン/キム・ウンソン「平和の少女像」、「平和の少女像ミニチュア」、A大浦信行「遠近を抱えて PartII」、B中垣克久「時代の肖像―絶滅危惧種idiot JAPONICA 円墳―」
 − 県庁のあり方批判:公立美術館で、あるいは公金を使って政治性の強い(あるいは偏向の)展示をすべきでない。

3.二次的影響にも配慮が必要な状況
 − 安全上の理由から不自由展はやむなく中止(8月3日) (以下 略)


名古屋城(夜)


 以上のような複雑かつ困難な経緯のある事案であったが、名古屋市から「あいちトリエンナーレ名古屋市あり方・負担金検証委員会」設置要綱で課題が示された。それに5人の委員と全力で取り組み、第1回(12月19日)、第2回(2月14日)、第3回(3月27日)の3回の審議を経て、次の委員会報告書等を取りまとめるに至った。ただ、問題の広範さと困難さに比べて、審議する機会が、わずか3回しかなかったことから、全員が一丸となるまで擦り合わせるのに十分な議論の時間がなく、報告書の採択は多数決にせざるを得ないことになった。それに伴い、各委員の個別意見を合わせてとりまとめて、報告書とともに公表することになった。それは、次の通りである。






報告書及び個別意見

 (1)あいちトリエンナーレ名古屋市あり方・負担金検証委員会報告書

 (2)その他当委員会の委員の個別意見





(令和2年3月27日著)
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