悠々人生エッセイ



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           目 次
    
       
     大規模修繕事件の背景
     大規模修繕工事の談合事件
     修繕積立金の着服事件
     修繕積立金の食い潰し事件
     理事会の乗っ取り事件
     委員のなりすまし事件
     応札での素人騙し事件




1.大規模修繕事件の背景

 日本の分譲マンションの数は年々増えていて、全戸数は704万戸(2023年末)という。だから、大雑把に100戸で1棟だとすると、日本全国で7万棟にもなる。そのいずれのマンションも、管理組合を結成して、日常の管理を行っている。

 マンションは一般に、建設後、10数年ごとに大規模修繕をしないと、建物の価値を維持できないし、それどころか水漏れなどが発生して安心して住むどころではなくなる。だから、マンションの管理組合は、どこも日頃から修繕積立金の積立てをし、時期が来たら大規模修繕委員会を立ち上げて、これに本格的に取り組むのが普通である。

 しかし、そのマンションの規模にもよるが、高層だと工事費として億円単位のお金がかかるし、しかもそれを扱う管理組合側が素人揃いのことがよくあるケースである。だから、この巨額の積立金や工事費を狙って業者が暗躍することになる。

 そういう背景があるのか、最近立て続けに大規模修繕に関わる6つの事件があった。後々の参考になると思われるので、ここに合わせて記録しておきたい。


2.大規模修繕工事の談合事件

 2025年3月から4月にかけて、公正取引委員会が関東地方で大規模修繕工事に伴う談合があったとして立入検査を行った。検査対象は30社にも及び、工事の見積もり合わせや事前の受注予定者の決定など、不当な取引制限をしていた疑いである(日本経済新聞2025年4月24日付け)。

 事情を聞かれたのは、シミズ・ビルライフケア(清水建設系列)、SMCR(三井住友建設系列)、長谷工リフォーム、大京穴吹建設、建設塗装工業、シンヨーなど、大規模修繕業界の名だたる会社ばかりである。

 まだこの事件がどう発展するのか、排除措置命令や課徴金の賦課にまでつながるのかは不明であるが、業界のかなりの奥深くまで、談合体質が及んでいるものと思われる。


3.修繕積立金の着服事件

 マンション管理組合の修繕積立金を着服したとして、管理会社の元課長の男が業務上横領の容疑で逮捕された。9年間で14もの管理組合から計9億円を超えるお金を着服していた。大半の管理組合は、男を信用して銀行印と通帳の両方を預けていて被害にあった。

 ところが、理事長が銀行印を保管しながら被害にあった管理組合もある。男の手口はこういうものだった。口座から必要経費を出金する際に「消せるボールペン」で金額を書き込み、理事長の印をもらった後でその金額を消して勝手な金額を書き込んで、その差額を着服していた。そして、あたかも残額があるかのように偽の通帳の写しを管理組合に示していた。

 こういう手口は、毎年の監査で銀行残高証明書を確認すれば、容易に不正が判明しそうなものだが、一体全体どのような監査をして見逃していたのだろうか。おそらく、管理会社に任せっ放しで、監査もおざなりなもので済ませ、自己の財産を守るという意識に欠けていたのではないかと思われる。この事件の場合には、男が雇われていた管理会社が損害賠償をしたらしいが、それにしてもお粗末な話である。


4.修繕積立金の食い潰し事件

 そうかと思うと、これは私の経験したことだが、管理会社がその修繕積立金を狙ってくることがある。前に居住していたマンションで、13階の部屋の洗面所の天井から汚水が漏れてきた。そこで、管理会社が真上の14階の部屋を訪れて室内をチェックさせてもらったが、漏れの原因箇所ではないかと思われる台所の流しや洗面所の下を見でも、特に異常はなかったという。

 それで管理会社はどうしたかというと、「これは直上の部屋からの漏水ではなく、外壁のタイルの防水が不完全なことによる漏水だ」と管理組合に報告して、そのための防水工事を提言した。それで、管理会社自身の施工部門により、320万円もかけて工事をした。で、どうなったかと言うと、結論として、漏水は全く収まらなかった。

 次に管理会社は、上階のベランダからの漏水を疑い、その防水工事を提言してきて、理事会はこれを認めて230万円で同様に工事をさせた。それが完成したにもかかわらず、やはり漏水は続いた。試しにベランダや外壁に青色の水を掛けても、中に浸透して来ないから、漏水はこの二つが原因ではないことは明らかだ。これを聞いた私は、私の知人の一級建築士に相談したところ、「それは、真上の部屋をまず疑うべきです。私なら、真上の洗面所の床を剥いで、そこにある主配管を調べますね」ということでした。

 そこで、ちょうど開かれた総会で、私は「このままだと管理会社は無駄な工事ばかりをして、管理組合のお金を次々に吸い上げられるばかりとなる。そもそも漏水の原因究明が不十分だ。洗面所の天井から漏れてきているのなら、真上の部屋の洗面所の床を剥いで主配管をチェックすべきだ」と主張した。

 ところがその時の理事長が事勿れ主義で、「もし、何ともなかったら誰が責任をとるのか」などと消極的なことばかりを言っていた。しかし、更に1年を過ぎてもまだ漏水は続いた。

 そこでようやく管理組合は、私が言っていたように、真上の部屋の洗面所の床を剥いでみるように指示した。そうしたところ、やはりそこにあった主配管から分岐する配管が外れて、そこから水が漏れていたことが判明した。その対策工事は、80万円で済んだが、ここに至るまで1年半も要した。と当時に、管理組合は、550万円もの不要な出費を強いられた。

 これからも分かるように、管理会社は管理組合の理事会メンバーが素人ばかりということに乗じて、必要もない工事をして、修繕積立金の食い潰しをさせるという傾向にあるから、よくよく注意すべきである。たとえ小さな工事でも、管理会社任せにせずに、専門家に聞くのは当然であり、とりわけ工事をさせる時には数社から相見積りをとるべきだろう。


5.理事会の乗っ取り事件

 神奈川県にあるマンションで、本来の理事会・理事長とは別の偽理事長がいて、しかもそれが理事長印、預金通帳、キャッシュ・カード、理事会の記録などを持ち出して返還してくれないという事件が発生した(YouTube「楽待」の「マンション管理組合を”乗っ取り”」より)。

 前理事長が、356万円で屋上防水工事をしたというが、現地を見てみると、とても1〜2年内にその工事がされたとは考えられないもので、おそらく工事はされなかったと推察される。しかも、この程度の工事の相場は120万円程度であるのに、なぜ3倍もかかっているのか何の説明もない。その他、管理組合の口座から理由なく280万円も引き出されている。何に使われたか全く分からない。

 加えて、前理事長は、前のマンションでも理事長に就任し、背任罪で調べられたという過去がある。そうこうしているうちに、前理事長は、自分の部屋を別人に売却してその人が、いわば偽理事長として、理事長印、預金通帳、キャッシュ・カード、理事会の記録などを持って行ってしまった。

 本来の理事会がそれらを取り返すのに、訴訟をし、告訴するなど大変な時間と手間をかけているという。


6.委員のなりすまし事件

 朝日新聞の記事(2025年6月27日)によると、神奈川県にあるマンションの大規模修繕委員会の席で、住民の一人が、ある出席者に対して「居住者とは違うんじゃないか」と指摘した。

 名指しされた男は、心外だと言ったが、身分証の提示を求められると部屋を出ようとし、そのまま走り出して逃げてしまった。通報を受けた警察官が来場し、その理事会には逃げた男とは違う人物もなりすましていることがわかり、その場で住居侵入の容疑で現行犯逮捕された。逃げた男も同容疑で、これまた逮捕された。どうやって委員会に入り込んだかというと、居住者にお金を渡し、その夫や息子になりすましていたという。

 その後、朝日新聞の続報によると、彼らは修繕工事会社の従業員で、修繕工事の受注に際して自社が有利になるために委員会の議論の誘導を狙ったという。この件は、詐欺未遂と偽計業務妨害の両容疑で捜査が継続中である。


7.応札での素人騙し事件

 (1) 企画監理会社の応札で素人騙し

 これは私自身が経験したことで、これを見つけた時には、「あの財閥系の不動産会社の子会社でも、こんなことをするのか」と、心底驚いたものである。そういえば、上記4.修繕積立金の食い潰し事件も、財閥系ではないが大手マンション開発業者の子会社だった。

 私が大規模修繕委員となり、最初の会合で、私は「どこかの会社に丸投げするやり方(責任施工方式)は、工事費が高くつくので、企画監理会社と施工会社のそれぞれにつき入札をするやり方(企画監理方式)にすべきだ」と主張して、その通りになった。ちなみに、マンションの大規模修繕工事のおよそ8割が企画監理方式である。

 企画監理会社の募集に応じて、実質的に4社が応札してきた。説明資料を出してきたのは、次の4社だった(これらの数字は、税抜)。理事長の采配で、この4社全部につき、ヒヤリングを実施することになった。ちなみに応札金額は、A社 の約300万円から始まって、B社とC社が約390万円、D社が450万円であった。

 そのヒヤリングをする準備として、各社に対する質問事項を整理している時、私はD社の説明資料の最後に、次のようなとんでもない資料を発見し、これは正に素人騙しの手口だと愕然とした。

 「当社があらかじめ品質、コスト面で信用できる施工会社を2社紹介し、施工会社選定における管理組合さまの労力と時間と費用を軽減します。

 (1) 昨今の建築業界全体の人手不足により、公募では中堅施工会社が手を挙げてこない傾向があります。本方式であれば元請実績の少ない『安かろう悪かろう』の施工会社を選ぶリスクを低減し、実績と品質に信頼のおける施工会社を確保することができます。紹介施工会社は、年間を通しての発注量と失注による無駄な経費を削減させることで、工事費用を抑えることができます。

 (2) 先行して施工会社を確保することで、人手不足の現状の中で良質な現場監督、良質な専門工事業者を早期に抑えることができます。

 (3) この弊社独自の『施工会社選定先行方式』による減額提案は、次の通りです。

【元お見積もり】 ⇒ 【減額提案お見積もり】
  合計 495万円 ⇒   合計 310万円 (△185万円)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
内訳
 @ 建物現況調査 ⇒ @簡易建物現況調査 △ 24万円
 A 企画提案業務 ⇒ A施工会社見積利用 △132万円
 B 施工会社選定 ⇒ B公募せず不要に △ 29万円」


 実はD社は、当管理組合が委託している管理会社なのだが、それが、今回の大規模修繕工事の企画監理業務に応募していたのである。私は、最初それを聞いてどうかと思った。というのは、我田引水の現象が起こりかねないからだ。つまり管理会社に工事部門があると、強引に自社に大規模修繕工事を持ってこようとするからである。それをD社に確認すると「自社には工事部門はない」と答えたので、まあ良いかと放置したおいた。

 ところが、それにもかかわらず、D社の上記のとんでもない説明資料が出てきたというわけである。これは、明らかに素人騙しの策略である。

(2)委員会でD社の素人騙しを指摘

 それを発見してからしばらくして、大規模修繕委員会が開かれた。そこで私は、文章と口頭で、今回の企画監理会社の選定において管理会社のD社の案を取るべきではない理由を述べた。

 この管理会社D社の提案の問題点は、4つある。第1は、これは入札なのだから、自社が提示した入札額が高ければそれで潔く諦めるべきである。それなのに、たまたま管理会社という立場を利用して他社の入札情報を取得し、それを僅かに下回る額を提示してくるというのは、不公正の極みである。

 第2は、D社が施工会社を選ぶ立場にあるから、D社はその施工会社からリベートをとる可能性がある。あくまでも可能性を申し上げているだけであって、実際にとるとは言わないが、仮にとるとなると、D社はこのように管理組合に対して185万円値引きしたとしても、その分、簡単に取り戻せて、しかも結局はそのリベート分が管理組合に対して請求してくることになってしまうという仕組みではないか。

 第3として、D社の案は、要はロクな建物現況調査もせず、企画提案業務は施工会社に丸投げし、募集業務もせずに済ませようということだ。本来の企画監理会社のあるべき姿は、分厚いちゃんとした設計図書を作り、施工会社がそれに従って工事を進めるというものだ。こうして両者の間の監督と施工という適度な緊張関係があってはじめて立派な仕事ができる。それなのに、何もかも施工会社に丸投げをしていては、D社自体はちゃんとした仕事はしないと言っているようなものだ。

 第4は、これが一番の問題なのだが、D社は公募によらずに施工会社を指名するので、その施工会社はライバル会社を気にすることなく、管理組合に高額の請求をしてくることは、目に見えている。場合によっては数千万円も高額になることも考えられる。それなのに、「発注量と失注による無駄な経費を削減させることで工事費用を抑えることができる」とか、「人手不足の現状の中で良質な現場監督、良質な専門工事業者を早期に抑えることができる」とか、素人騙しの言葉を書き連ねて管理組合のお金を狙うなんて、とんでもないことだ。


 管理会社の係員は、「ウチは、リベートをとるようなことは、コンプライアンス違反だから絶対にありません。」などと口をパクパクしていた。

 そういう経緯があって、いよいよヒヤリング当日を迎えた。ヒアリングは、A社とB社が午前中、C社とD社が午後であり、私は、D社との対決を楽しみにしていた。

 管理組合を通じて予めD社に渡した質問内容は、こういう内容だ。

「前々回の理事会・大規模修繕委員会の会合で、『企画監理方式』つまり、企画監理会社をまず選んでそれを通じて競争入札を行って工事会社を選定するという話になっていたはずです。その方が競争入札をするから、工事費用がはるかに低く抑えられるからです。

 その過程で、もう一つの『責任施工方式』つまり、企画監理と工事会社を一体として工事をさせるというやりかたは、工事代金が吊り上げられて非常に高くなるから採用しないとなっていたはずです。

 ところが、今回の御社の提案は、工事会社を二つ用意するとはいっているものの、実質的には既に排斥された責任施工方式を復活させようとするもので、到底受け入れられるものではありません。

 やはり、新聞広告から始めて工事会社を募集して競争入札にかけるべきだと思うが、如何がお考えか。」


 というもので、これに対して、D社が書いてきた答えは、「組合さまの方針通り、企画監理方式で対応させていただきます。」であった。私は、「あれあれ、諦めたのかな」と内心思って、D社担当者の説明を聞くことにした。しかし、諦めたにしては、その説明資料の目次(次の@からCまで)を見ると、次のCのような項目がある。これは、一体どういうことなのだろう。

 @会社概要と弊社の強み、A貴マンションの特徴と修繕ポイント、B企画監理業務の内容、C企画監理業務の減額提案

 若い担当者が@から順に説明していって、Bが終わり、Cの表題に移ったところで、横にいた上司が「もう良い」止めた。そこで私が、「減額提案をしないということは、御社の応札価格は税抜きで450万円のままでよろしいのですか。」と聞いた。するとその上司らしき人が頷く。「では、185万円の値引きと、おっしゃる施工会社選定先行方式というのは、セットになっていたのですね」と畳みかけたら、それにも頷いた。だから、いわば全面降伏したというわけだ。これ以上は、武士の情けで、私も追求しないことにした。







(令和7年7月18日著)
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