This is my essay.








 土曜日の朝、たまたま早く起きてしまったので、ふと思いついて「ハウルの動く城」(宮崎駿 監督)を見に行った。私は別に映画の封切りなどにこだわるタイプでは全くない。だから普通なら、わざわざ映画館に足を運ぶことなどないのだけれど、たまたま今回は、もらった切符があったことを思い出したからである。自宅からほど近い映画館は、日比谷のスカラ座、つまり宝塚劇場の地下である。午前9時前に入ってみると、本当にガラガラの状態だった。7〜800人は入りそうな劇場で、100人もいたかどうか。私は中ごろの真ん中の席に腰を下ろした。

 内容は、時は19世紀末、とあるヨーロッパの王国での話である。しがない帽子屋の娘である少女ソフィーは、引っ込み思案の目立たない子だった。ところがある日、美少年で魔法使いのハウルにたまたま出会い、追われている彼を匿う形となった。そのため荒地の魔女によって、90歳の老婆に変えられてしまった。その老婆ソフィーは、ハウルの住む動く城に押しかけて、一緒に暮らし始める。そこには、暖炉に縛りつけられている火の悪魔カルシファーや、子供、それに別世界に繋がる扉など、ありとあらゆる不思議なものに取り囲まれていた。ソフィーは老婆になって、かえって積極的な性格になったので、これらの心を掴み、仲良くなる。その一方でハウルは、敵である荒地の魔女や、王宮の魔法の先生と戦う。映画に出てくる場面は、最初は石畳に囲まれた美しい旧市街から始まって、ハウルの隠れ家の緑豊かな草原など、なかなか綺麗なものである。それに、爆撃で燃える都市は、鬼気迫るものであった。全体を通してみると、ハウルの隠れ家で少年時代を過ごしたという緑豊かな草原の回想シーンは、とりわけ美しくて見ごたえがある。

 ただ、見終わった感想としては、私のような中年の男性からすると、どうもストーリー展開が甘すぎて、いささか物足りない。特に終わり頃などは、あれほどの戦争をしておいて、王宮の魔法の先生は、なぜあっさりとやめてしまうのか。それに、かかしは実は隣国の王子だったというのも、なぜ魔法が解けたのかと合わせて、全く唐突な感がする。最後にバタバタと始末をつけたみたいである。だいたい、ハウルは、何をやっているのだろう。ただ戦場を飛び回っているだけではないか。設定がさっぱり理解できないのである。というわけで、先に結論をいえば、子供なら安心して見られる映画ではあるものの、理屈のうるさい中年の男性がわざわざ見に行くほどの映画ではないと思う。

 それはともかく、私は宮崎駿監督の作品の中で良いと思うものを挙げると、第一は「となりのトトロ」、第二に「千と千尋の神隠し」、第三に「魔女の宅急便」という順番である。中でもとなりのトトロは、ともかくファンタジーに徹している。そもそもトトロという存在は意表を突いているし、母と姉妹との心の交流もよくわかる。

 しかし、これら三つ以外の作品は、まあ似たり寄ったりではないだろうか。もちろん駄作というものは少ないものの、全体的にまあ可もなく不可もないというところで、ハウルの動く城もそのひとつだろう。つまり「もののけ姫」のように、何がいいたいのか意味不明というわけではなく、それに比べるとこちらはまだマシであり、少なくとも作品に込められたメッセージは汲み取れる。それは要するに、ラブ・ストーリーと、やや反戦の意識ということだ。ただ残念ながら、いずれも日本的に薄く薄く味付けされているので、こういうのはあまり欧米では評価されないだろう。

 その点、千と千尋などは、あの時代ものの風呂屋さんという設定はいかにも強烈で、あれだけでも本当に面白いと思ったものである。ところが、このハウルの場合には、何しろ場所がヨーロッパなので、そういう土着性もない。ふわふわとして国籍不明というわけである。ちなみにこのハウルの筋立ては、千と千尋と天空の城ラピュタをあわせたようなものだと思えばいい。ソフィーとハウルの淡い恋という意味では、千尋と川の神様とのラブ・ストーリーとまったく同じである。それにこのハウルの城は、地上では4本足で歩くが空も飛べるので、天空の城ラピュタと似ている。

 ところで、宮崎監督というのは、主人公に空を飛ばせるのが好きだ。紅の豚、天空の城ラピュタでも、主人公を大空へ気持ちよく飛ばしていた。しかしその割にはこの人、反科学、反近代、反戦のような気がするが、それを作品中に明確なメッセージとして出すというものでもないようだ。強く出してしまえば、子供のファンタジーという域を出てしまうからではないだろうか。いずれにせよ、ファンタジーの幸せな世界に留まっている限り、どの世代にも楽しめる作品となるはずである。

 いろいろと評してしまったが、昨今、どぎつさばかり追い求める映画の中で、ファンタジーを求めてこのような作品にしてくれるこの監督は、日本の映画界では誠に貴重な存在だと思うのである。





(平成17年3月 6日著)
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