This is my essay.








 2001年3月16日の朝日新聞朝刊の「声」において、「説明不十分な銀行の対応」という投書があった。「住宅ローンを完済し、待ちに待った抵当権抹消の手続をしに行くと、抵当権抹消の手続申請書に署名するようにいわれた。法務局への届出に15,600円もかかるので、署名は保留した。司法書士が手続きすることになっているという。ところが法務局に聞けば、3000円程度かければ誰でもできる手続とわかった。ところが銀行から電話があり、サインもしていないのに手続が終わったので手数料を払えという。怒りを爆発させて、結局大幅に値引きさせたが、なぜ選択肢を明示して顧客に任せるという方法をとらないのだろう」ということである。

 最近、この種のことが銀行に多い。かつて銀行員といえば、社会的信用があり、およそミスがなくしっかりしていて何事にもそつがないという評価であった。ところが近頃では、慇懃であることは相変わらずであるにしても、ともかく無礼で不親切で、そもそも気が利かなくて、困ったことにミスが多いのである。私の友達がある都市銀行で口座を開設した。2〜3日のうちにその担当者から電話があって、印鑑を押してもらうのを忘れたので、もう一度支店に来てくれといわれて、思わず怒りを爆発させたという。そりゃ、そうだろう。私も同じようなことを経験したが、さすがにそのときは、印鑑を押していない書類を郵送してきて、それを返送してほしいというものだった。新人が支店に配属される五月などは、要注意の季節である。

 私も銀行員に対して一度だけだが、語気を荒げたことがある。近くのM都市銀行の支店にもう25年近くも口座を持っているが、そこで今のマンションを買うために住宅ローンを借りた。そしてそのマンションに移り住んだので、ただちに通帳の転居届をその支店に出しに行った。すると担当者は無表情にこう言ったのである。「お宅は住宅ローンを借りているので、そういう人が転居届を出すには住民票が必要だ」と。私は思わず「何をバカなことを言っているのか。その住宅ローンを借りた対象のその家自体に移り住むのだから、何で今更そんなものがいるんですか。常識で考えたらわかるでしょ!」 するとその担当者はあわてて住宅ローンの担当のところへ飛んで行き、しばらく戻って来なかった。これ以上こんなことで待てるかと思ったそのときに、やっと帰ってきて、消え入るような声で「やはり、要りませんでした」という。当たり前である。

 これを機に私は、近頃の銀行の能力とサービスに疑問を持ち始め、それ以来この銀行について注意して観察していると、最近特にサービス内容が低下しはじめたのに気が付いた。たとえば、支店を猛烈なスピードで閉鎖しているのである。正確な月日までは知らないが、ここ2〜3年をとってみると、近くにあった5つの支店のうち、何と3つも廃止されて、残っているのはたった2つである。下にそのリストがある。こうして廃止された支店のあとには、申し訳程度のわずかな数のATMが配置されているだけである。しかも、かろうじて存続している支店に行くと、これらの廃止された支店のお客さんをも引き受けているせいか、ただでさえ込み合っていたのにますます混雑するようになり、座る椅子すらもない。だから、つまらない手続で、延々と待たされることも珍しくなくなってしまったのである。


 【閉鎖された支店 】@赤坂支店  (アメリカ大使館前)
           A溜池支店  (ATTビル内)
           B新橋駅前支店(新橋駅前)
 【存続している支店】@虎ノ門支店 (虎ノ門交差点)
           A内幸町支店 (内幸町の内堀通寄り)


 思い出してみると、そういえば住宅ローンを借りるときも、この銀行は非常に無礼であった。そのときは、まだこれほどの低金利時代となるとは思いもよらなかったので、変動金利ではなく長期固定金利を借りたわけであるが、それを5年物とするか10年物とするか、私は迷っていた。金利は、確かそれぞれ3.2%、3.75%である。するとその融資の担当者が「そりゃ、お客さん。自分がいつ辞めるかですよ。短くてもいいんじゃないですか」などとズケズケ言う。もう頭にきて、「それじゃ、長い方の10年」と決めてしまった。思えばこれが間違いの始まりである。

 しばらく経ち、多少は返済に余裕ができて、繰上返済をしたいと思うようになった。すると、細かくは忘れたが、たとえば100万円返そうとすれば、手数料が一回で3万円近くもかかるのである。単純計算してこれを実質金利に換算すればおよそ3%である。これを毎年しようとすれば、私は年6.75%の金利を支払っていることになる。この低金利時代にあっては、全くもって暴利というほかない。

 そうこうしているうちに、金利がどんどん下がりだした。それでも住宅ローンだけは、ちゃっかりと3%台で下げ渋っている。税金のみならず、国民負担で銀行の不良債権処理をやってあげているようなものである。私もその一人で年3.75%も寄与していたが、これでは銀行は、あまりにも虫がよすぎるではないか。昨年の石原慎太郎・東京都知事の決断で銀行に対する外形標準課税が決まったときには、内心思わず拍手を送ったというのが国民の大方の反応である。私も、銀行への個人的補助金はもうやめたいと思っていた。

 ちょうどそのときである。新聞上に外資系のシティ・バンクが面白い広告を始めた。要するに、住宅ローンを返済しようと思えば、いつでも何時でもできて、しかも月3回までは無料でよろしいというのである。加えて金利が低い。7年後の見直しまでは年2.8%である。そればかりか、銀行のローンのように毎年保証会社に払う保証料も不要だという。この間に死なない自信がある人には、絶対にお勧めというわけだ。私も今後7年もあれば、何とか繰上返済できそうだと思い、こちらに乗り換えることにした。結論として、これは大成功だったと考えている。

 ともかく手軽なのである。真夜中の午前0時を過ぎて、ああそうだと思い出し、0120で始まる電話をかけると、かわいい声のオペレーターが出てきて、ちゃんと返済を受け付けてくれる。何と、24時間OKなのだ。それに、本当に返済に振り替えられたかを確認するには、わざわざ銀行に足を運ばなくとも良い。翌朝インターネットで自分の口座を覗けば、ただそれだけでよいのである。窓口の応対の悪さに気分を害されることもなく、長く待たされて貴重な時間を浪費する必要も全然ない。

 ただまあ、シティ・バンクはもちろん日本の銀行ではないので、預金は保証されていないから、たとえ大金を持っていてもそれを預ける気にはならない。しかし、今の私には住宅ローンを返すことこそが最大の貯金を意味するので、せっせと返済するだけだから、そんなことは全然関係がない。それよりも、この銀行の機動力というか、発想の自由奔放さにほとほと感心している毎日である。つまり、企画の発想が若いし、固定観念にとらわれないで柔軟なのである。

 私はそれでも、公共料金の振り替えで、まだM銀行を使っている。先日、通帳の記載が一杯になったので、新しいものをもらうために支店に行ったが、番号札をとらされて28人待ち、それだけで40分以上もかかった。もう、ほとほと愛想がつきて、ふと近くを見ると、Direct何とかというパンフレットが目に入った。この銀行もようやくインターネット・バンキングをはじめたと見える。気を取り直してそれをもらって、家に帰り、申し込みをしようとした。ところが、どうだ。記入要領が複雑怪奇すぎて、書き込むのが嫌になった。たとえば、アルファベットを記入するのに、いちいち字体が指定されているのである。役所関係ならたまにこの種の書きにくい申請書があるかもしれないが、会社関係で、こんなバカな申込用紙は見たことがない。かくして、またこの銀行にはがっかりさせられたのである。私とこの銀行は、よほど相性が悪いらしい。しかしいずれにせよ、このような調子では、世界の競争に付いてはいけないだろうなあと思うのである(注1)

 昨日の新聞記事を見ると、このM銀行は、どこかの消費者金融と手を組んで、サラ金を始めようと計画しているらしい。うーーん。都市銀行としての誇りは、どこかに消えてしまったらしい。政府からの公的資金の注入を断った時までは、それなりに矜持があったようにも思えたが。それから内部で何かがプッツンと切れてしまったようだ。やみくもに支店を廃止して顧客に不便をかけ、従業員の首切りに給与カットだけをやればいいというものではない。私の友人でこの銀行に長く勤めている人は、毎年、給料が百万円単位で下がっていくので、やっていられないとこぼしていた。ますます顧客の不満は増大するし、行内の人心も荒廃していくばかりではないか。

 そういえば、明日4月2日からは、いろいろな銀行の合併や統合が行われる。少し調べてみたところ、

 @ みずほファィナンシャルグループ
    35,700人(第一勧銀、富士、興銀)
 A 三井住友銀行
    27,500人(さくら〔三井・太陽神戸〕、住友)
 B UFJホールディングス
    25,500人(三和、東海、東洋信託)
 C 三菱東京ファィナンシャルグループ
    24,700人(東京三菱、三菱信託、日本信託)

 ということになり、四大グループが誕生する。古式豊かな「みずほ」の国の名前から、アメリカのテーマパークのUSJと間違うようなローマ字の名前まで、色とりどりでわけがわからないが、これらが在来型のオールド・バンクである。しかしこのほかに、ジャパンネット銀行(三井住友系)、イーバンク銀行、ソニー銀行、IYバンク銀行(イトーヨーカ堂系)などがネット・バンクとして始動する。一方で郵貯のATMネットワークの開放と利用も飛躍的に進んできている。これに投入済みの公的資金7兆円の行方や景気低迷と円安にからむ不良債権の増加など、とうとう銀行界も戦国時代の後期に突入したようである。これでは、M銀行に限らず、いずこも大変なことには違いない。

 振り返ってみると日本の銀行は、まずバブル期の絶頂が真珠湾と破竹のマレー進撃というところか。そして不良債権の早期処理に失敗した頃が、さしずめミッドウェイの敗北で大きな転機を迎えた頃に相当する。これが、銀行戦国時代の幕開けから中期であろう。続いて金融工学の導入でアメリカ勢に大きく遅れをとったが、これはさしずめガダルカナルの反攻で防戦一方に追い込まれたようなものである。そして劣勢を回復できないままに、とうとう沖縄戦を迎えたのが、この仁義なき合従連衡の時代というわけか。するとこの先、打ち方ヤメという敗戦もないのであるから、やがて本土決戦によってこのままあと数年もすると、すべて雲散霧消してしまい、もはや銀行という業態そのものも消えてなくなっているかもしれない。

 私などは、日本の銀行といえば、住宅ローンの借金と公共料金の引き落としでしか利用していない。だから、個人的には銀行がどのような業態に化けようが大した違いはない。しかし、それにしても公共料金その他もろもろの引き落としのサービスだけは、今後とも存続してほしいものである。というのは、これは諸外国にも例をみない誠に便利なシステムだからである。

 外国で暮らしていたらわかるのだが、あちらではこういうシステムがないし、仮にもしあったとしても銀行員の能力など最初から誰も全然信用していないから、あまり使う人がいないであろう。そこでいちいち小切手帳を取り出して、金額を記入しサインをするということになる。月末近くになるとこれが面倒で仕方がない。電気、電話、クレジット・カード、ゴルフその他のクラブなど何枚もの請求書のひとつひとつに金額を英語と数字で二重に書き込んでそれにサインし、角に二重の線を引いてそれらを郵便で送るのである。楽しい週末がフイになること請け合いである。こればかりは、日本の銀行のシステムが勝っている。しかし、それも個々の銀行員の力量にまだ信頼が置けるからである。仮に、でたらめな引き落としがされたりすると、その瞬間からこのシステムは崩壊しかねない。銀行の合併統合もリストラもよいが、このような基礎的なンフラを、ぜひとも大事にしてほしい(注2)



(注1)

 日経新聞2001年4月3日の夕刊にローン・ボールドウィン(GEエジソン生命社長)さんの記事があった。その趣旨は「製造業のシックス・シグマが金融サービス業に役に立つのかと聞かれて、当然と答える。アメリカではこんな質問をされることは考えられない。GEでは5年前から全事業部でやっており、その基本は『どんな業務も必ずプロセスから成り立っている』ということである。この品質管理方法でそのプロセスの質、経営の質を改善することが可能になる。多くのプロセスの各段階で、欠陥率やサイクル・タイムのコストを測り、欠陥の発生率を百万分の3.4未満にすることが目標である。生命保険会社の場合は、保険契約を結ぶ際のプロセスがあり、まずお客様に保険契約書に記入いただき、それを営業社員が審査に回し、審査と承認を済ませて保険証券をお客様に渡すという一連のプロセスがある。たとえば、このプロセスのそれぞれをチェックして、お客様が記入しやすい書式の帳票を作成したり、お客様が記入する箇所を減らして、サイクル・タイムを短縮する工夫をいくつも施している」というものである。そうだろう。こういう視点が、M銀行に欠落しているところなのである。

(注2)

 インターネット取引が進展すると、いま私が述べた銀行による公共料金などの引き落としシステムも、実はそれほど必要ではなくなるかもしれないのである。つまり、いつも行っている振り込みであれば、あらかじめその設定を行っておいてある自分のパソコン上でその支払い金額だけを打ち込めば、それで送金できてしまうからである。しかし、その数字の入力も面倒だという人には、やはり現行の我が国の引き落としシステムは便利であろう。ただし、その支払い上のミスがなければ、という前提付きである。もし、銀行員の能力やモラルがもっと落ちていってしまうと、ミスや犯罪が続発するようになり、そうするとこのシステムは、崩壊しかねないからである。
 ところで、話は変わるが銀行がキャッシュ・カードとしてICカードを1990年から発行してきているフランスでは、いまや3500万枚が累積の発行数となっている。これには、いわゆるデビット・カードという即時決済機能が付いていて、これによる決済が年間23億件にのぼっているという。他方、従来からの小切手決済は年間60億件というのであるから、ITにより外国でも時代は変わりつつある。






(平成13年 4月 4日著)
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