This is my essay.








 息子のアメリカ留学の話が具体化し、やあ目出度いというわけで、その留学する大学やその地域、それに留学がらみのもろもろの情報を集めようと、試しにインターネットで検索してみた。そうすると、いや驚いたの何のって・・・、A4にして約千ページ以上にもなる最新かつ貴重な内容の情報が、即時に入手できたのである。もっとも、ひとつひとつ吟味していったので、2〜3日はかかったが・・・。これが数年前だと、まずは誰か留学関係の本を書いた人はいないかと探して本屋に注文し、1週間ほどかけてやっと入手したその本はというと、数年前に出されたものであまり役に立たなかったり、あるいは伝手をたどって実際に留学した人を捜し当てて、話を聞きに行くということをしただろう。

 それが、机に座っていて、キーボードをちょっとさわっただけで、リヤルタイムでこれほどのまとまった情報を入手できるなんて、まるで夢のようである。しかも、どこの誰かはわからないが、ご親切な人がチャット・ルームとやらで、こちらの質問にも答えてくれるのである。時代は変わったということをひしひしと感じさせられる。これでは、世上よくいわれるデジタル・デバイドという現象は、決して誇張でも何でもない。パソコンを使えないような人間は、社会からはじき出されるようになってきたのだなぁ、ということを実感させられる出来事であった。同時に、最近、本が売れなくなったというのは、こんなところにも原因があるのだろう。何しろ、本にして出版すれば、十分に売れるような立派な日記というか、レポートがインターネット中にごろごろしているのだから。それに、実際に留学するアメリカの都市の街角の風景の写真や、あまつさえ留学する大学のレストランや売店の写真まである。ついでに、留学仲間の皆さんの写真まである! もう、いったいこれは、何なんだと思わず笑いがこみ上げてくるほどの、微に入り細をうがった情報が手に入ってしまった。

 これは、どうやったのかというと、検索エンジンとして、Google を使っただけである。無料のサービスだ。技術的にどういう仕組みとなっているのかは知らないが、ともかく検索結果の表示が早い。わずか0.0何秒の早業である。しかも、最もポピュラーな検索対象が検索結果表示の冒頭に来るので、当たりはずれがない。そして同じようなアドレスが続かない。自動的にカットしてくれているようだ。その画面上に、「留学 アメリカ」と打ち込んだり、「○○大学」と打ち込むだけだ。生活情報が見るためには日本人の観点からの記事がよろしいので、日本語で全世界を対象に検索してみる。すると、出てくるは、出てくるは。手当たり次第に開けていくと、留学中の個人の日記が多い。銀行員らしく緻密なもの、テレビ関係者で天衣無縫なもの、大学助教授らしく貧乏留学で慎ましいもの、夫婦で留学して誠にほほえましいもの、ロースクールの溌剌たる授業風景に詳しいものなど、いやいや面白かった(注)。まるで、自分が留学したかのようである。

 また、ML(メーリング・リスト)という仕組みがあり、同好の士を集めてリストを作り、その全員に電子メールが即時に配信されるというものであるが、そこでは、先輩に教科書やノートを貸してくれなどと頼むとか、あの先生の授業の感想はどうだったとかを知らせ合っている。誰かが何か聞くと、ご親切な誰かがさっと答えてくれるのである。また、仲間内でチャット(おしゃべり)をする感覚で、リヤルタイムで思ったことをやりとりしている仕組みもある。こういうものがあることは知っていたが、このような井戸端会議風になっているとは知らなかった。私も、一度はBBS(電子掲示板)を自分のホームページの端っこに貼り付けてみたが、ロクでもない広告を載せてくる人物がいるものだから、しばらくして止めてしまった。しかし、こういう良識ある人たちがやっていると、確かに、役立つものである。

 しかし、話はこれだけではない。こうやって読ませていただいた情報は、特に日記などは、書いている本人はあまり個人名を出してはいない。ところが、仲間内のチャットでは、お互い知り合っているので、フルネームを出すことがよくある。そこで、何の気なしに、そうした名前のひとつを、Google に打ち込んだ。そうすると、何というか、その人の出身大学、就職先、結婚時期、司法試験の受験歴などが、すべて分かってしまったのである。情報源のひとつは、その人の高校時代の同級生が、クラスメートの近況を載せていたものである。それにやけに詳しく書かれていた。友達のこととはいえ、ちょっと、やりすぎではなかろうかといいたくなる。またその人は、予備校のパンフレットの座談会に出ていて、それがそのまま予備校のホームページに載っていた。それで、また別の人についても同じように名前をGoogle に打ち込んだら、この人も、出身大学のパンフレット「活躍するOB」というものに個人情報が出ていた。しかも、顔写真付きで。

 もう、唖然としてしまった。個人の経歴や顔写真が世の中の人にこんな簡単にわかってしまうなんて、プライバシーも何もあったものではない。・・・と考えて、ふと思ってしまった。自分の名前はどうなっているのだろう。嫌な予感はしたが、意を決し、まるでパンドラの箱を開けるような気持ちで、自分の名前をGoogle に打ち込んだ。すると、出るは出るは、何とそれは103件もあって、愕然とした。私の名前はちょっと特殊なので、同姓同名はまずいない。すべてこれらは、私自身の記録であった。読んでみると、どうやら自分の書いた本の書評ばかりである。大学生が私の本をその個人ホームページに引用しているのまで載っている。あれぇ、これは私がある所で講演した内容だ。あっ、某新聞に書いた私のエッセイまで載っている・・・んんん。ちょっと待ってくれ、やりすぎではないか・・・。103件全部見てみたが、幸い、悪評はないようだ。ふうっ・・・。いや、参った、参った。おそろしい世の中になったものである。

 しかし、ここで私が感じたインターネットの威力は、全体像のごくわずか一部なのかもしれない。インターネット電話は固定電話の世界を一変しそうだし、企業界ではサプライ・チェーン・マネジメントを世界的に構築しつつあるし、音楽や映画をインターネットを通じて配信するようになるとレコード屋はいらなくなるし・・・、ついでに個人のプライバシーもなくなりそうだ。こちらの方は、インターネットの魔力ではないか。

(注)面白かった留学日記のアドレス

  @ http://member.nifty.ne.jp/tokyo-wind/hand/index.html
  A http://www.suzukinet.com/
  B http://www.jura.niigata-u.ac.jp/~yamada/ryugakutop.html
  C http://www.pluto.dti.ne.jp/~hmotake/






(平成14年 2月 7日著)
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