北京へは、仕事で一回、家族旅行で二回行ったことがあるが、まあそれぞれに面白いことがあった。特に仕事の点では、中国人との交渉のコツみたいなものを会得した。こちらから、ある要求に行ったのであるが、中国自身の統計を見せても「そんなもの知らない」と平然という。「しかし、あなたも政府機関のひとつでしょう。知らないはずがない」と言うと、「同じ政府機関が作ったものでも、(日本円で)200万円出さないと買えない」と返答されて、まずびっくり。お金がものをいう国なんだ。それにしても、統計なしで、どうやって統治するのか。

 次に本番の交渉を始めて丸二日たっても、先方はまだぜんぜん降りて来ない。そうこうしているうちに、私の帰国予定日時が迫ってくる。私から「早く妥結しないと、あなたも困るでしょう」と水を向けても、やはり譲歩の気配すら見せない。「まあ、いいか、日本より困るのは中国の側だから」と思って、最終日の最後の交渉に臨んだが、それでも先方は譲らない。とうとうこちらも匙を投げて「では、この交渉はこれで打ち切ります」と宣言して車に乗り込み、空港に向けて走り出した。出発まで少し時間があったので、空港近くのホテルの四川料理のレストランに入り、食事をしていた。

 するとそこへ中国の交渉相手がいきなり現れて「さっきの件、この数字でどうか」と聞く。「だめだめ、こちらにして」というと、それであっさり決まった。この中国の交渉相手は、我々の車を尾行してきたのである。それくらいなら、この三日間で譲ってくれていればいいものを、まったくこの無駄な時間は何だったんだという気がしたものである。本当に妙な交渉だった。








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