オランダには、実はあまり良い思い出がない。むかし、子連れで家族旅行をしていたときに、ホテルの、それも事もあろうにセイフティー・ボックスに預けておいた貴重品が盗まれてしまったからである。家族のパスポート、航空券、それに現金まで、すっかり消えてしまっていた。アムステルダムでの出来事である。ホテルの名は秘すが、ヨーロッパ中にあって良く知られているチェーン・ホテルである。困ってしまったが、これらがないと、旅行が続けられない。

 そこでわざわざ首都ハーグに行って大使館でパスポートを、シンガポール航空の事務所で航空券を再発行してもらった。しかし、困ったのは現金である。少なからぬ大金を持っていたので、ホテルの支配人にその額を告げて全額弁償してもらいたいと言ったところ、あにはからんやその支配人は「あなたのその主張する額の半分でどうか」などと言うではないか。これを皮切りに、丸二日間その支配人と延々と交渉し、とうとう全額弁償を勝ち取った。

 交渉妥結のとき、その支配人は、私の前でひとつひとつお札を数えながら「あぁ、これでウチのホテルの一ヶ月間の儲けが吹き飛んだ」とため息をついていたのには、こちらも苦笑してしまった。それ以来、やはり現金は持ち歩かないようにしている。アムステルダムの警察によると、一日一件は旅行者が盗難に遭っているとのことだった。






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