The Nostalgic World presented by Mrs. Ishii



石井美千子 作




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授 乳

かまくら

肩たたき

添い寝

親子三代

井戸端

入学式

しかられて

農村の子

ビー玉

祭りの日

喧 嘩

水浴び

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 ふと駅のポスターを見ると、セピア色の昔の家を背景にして、男の子のあどけないながらも聞かん坊のような顔が写っている。その下には、泣いている子、うなだれている子、それに子供の取っ組み合いのシーンが載っているポスターがあった。「昭和のこどもたち」という題で、石井美千子さんという人形作家の作品である。それぞれの子供たちの顔には、何ともいえない表情がある。取っ組み合いをしている子の顔は、必死の形相であるのは当然として、その周りではやしている子たちも、「もっとやれ」と言っている奴、愉快そうに手を組んでいる奴、下からのぞき込んでいる奴、「可哀想だわ」という表情の女の子などである。そうだ、小学校の頃には、こんな目に遭ったこともあったなと思い立ったら、とてもなつかしくなり、早速、家内といっしょに江戸東京博物館に出かけた(注1)

 ああ、とってもなつかしい風景や人々が並んでいる。この30年から40年くらいをタイムスリップしたみたいだ。心の中でそれぞれに好きな題名をつけて、昔をなつかしんでいった。鑑賞している周りの人たちからも、「まあ、昔そっくり」、「こうだったよねえ」などと言いながら、中には感激のあまり眼がうるんで赤くなっている人が多かった。

 ところで、これほど感動的なすばらしい作品を生み出したのは、一体どういう人なのだろうかと思っていた。会場にあった作者の顔写真を見ると、46歳というが、おだやかな心優しい「お母さん」という感じがいかにもするご婦人である。いい夫と子供に恵まれて、何の不自由もない幸せな一生を過ごしてきた人なのか、たぶんそうなのだろう。しかし、そうだとしたら、これだけの創作意欲が自然に湧いてくるものなのか。何かしら、モノに突き動かされるような面がないと、なかなか大成できないものなのになどと非常に気になっていた。ところが、まもなく出た朝日新聞のインタビュー記事で、その疑問は氷解したのである
(注2)


石井さんへのインタビュー記事

 「30歳のとき、それまで3年間介護をした祖母が亡くなったその翌日に結核で倒れ、生きるとは何だろうと悩みました。そのうち、娘が小学校に不登校となってしまいました。うろたえ、ひたすら手だけを動かしている時だけが幸せで、気が付くと独学で何かに背を押されるように人形を作っていました。悩み、苦しみ、自分を見つめる時間がカタチとなって現れたのが人形たちです。

 何にもとらわれなくなった時、人形の表情が輝いてきました。すると、見る人がみんな喜んでくれて、「そうだよね、人間がこんな表情をしていた時代があったよね」。泣いたり、笑ったり、怒鳴ったり、わめいたり、人々があけっぴろげの表情で生きていた時代、生活する人々の時代、それは私たちが子どもだった時代なのです。昭和30年代が舞台なのは、そういう理由からです。

 多くの人が見てくれるのは、はじめは心地のいい風景だろうと思っていました。胸が痛むような懐かしい風景ですから。でも、私よりずっと人生経験のある人たちが涙を流して見入ってくれる。何かもっと普遍的なものがあるのではと思うようになりました。『これはかつてのあなたであり、私なんですよ。貧しかったけど、不幸でしたか。豊かになって、いま幸福ですか。』 現在を生きる人の心を写す鏡かもしれません。

 私は母を知りません。仮死状態の私を生んで、母は亡くなりました。育ったのは福祉施設。戦争で痛手を受けた女性たちが面倒を見てくれて、痛い思いをした人はやさしくなれることを知りました。決して不幸ではなかった。でも、孤独でした。いつも母親の姿を追い求めていない時は、『お母さん教えて』と心の中で願っていました。人形を作ったのも、病気になって、『これがお母さんだよ』というものを子どもたちに残したかった。いなかった理想の人、探していたお母さん像・・・私の作りたいのは、きっと母性本能そのものなのです。

 娘の不登校をきっかけに、周囲の子どもたちをよく見るようになりました。すると、どの子も表情がないんです。大人の管理が、子どもから活力や本能の様々なものを奪っているのではないですか。今の社会を作っている大人は、昭和30年代の子どもたち。本当に大切なことをいつの間にか忘れてしまったのでは。

 私は悲観しません。不登校の子は、国の福音、問題を教えてくれる。引きこもりの子も同じです。娘は最終学歴は幼稚園卒だけど、16歳になりコンピューターの仕事をしています。子どもで悩まない親はいない。だから、子どものことで変わらない社会はないんです。」


 石井美千子さん(昭和28年生)は、生まれたときから今日まで、誠に大変な一生を歩んでこられた人だった。その苦しみの中から生み出されたのがこれらの理想のお母さん像や天真爛漫な子どもたちだったのである。やはり芸術というものは、出来るべくして生まれるものである。努力もそのひとつであるが、このように苦しみの中で理想の姿を探し求めてやっと生み出されるものもあるということか。


 サライ2000年24号によると、2000年12月までに、この人形展は、全国で43ヶ所において開かれ、述べ73万人が訪れたという。
 人形展の問い合わせは、昭和の子どもたち実行委員会事務局まで(03−3562−3767)
 また、最近この人形に関する解説本が出版された。題名は「われら腕白小僧」小学館(1600円)。



(お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。)
(注1)「昭和のこどもたち」石井美千子(人形と当時の品々で時代をたどる) 江戸東京博物館 平成11年12月23日〜12年2月13日
(注2)手元に朝日新聞の夕刊のコピーはあるが、日付が確認できない。おそらく、平成12年2月か3月のもの。「時の贈り物」「こんな表情の時代があった」という題で、聞き手は、渡辺延志氏。



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