湯島の絵馬(1)


湯島神社の絵馬
東京都文京区の湯島神社で絵馬を書く受験生たち


 近くの湯島神社にお正月の初詣に出かけた。天気はいいが、吹きすさぶ北風が冷たく、耳が痛くなった。ちょうど北陸の方は一晩に何十センチも積もる大雪のようなので、そちらに雪を降らせてから山越えをしてきた寒風に違いない。フード付きのダッフル・コートを着てくるべきだった。

 そんなことを思いながら15分ほど歩いて、湯島神社に着いた。もう1月の6日なので、神社の中は、初詣客というより、受験生でいっぱいである。「確か、うちの子たちの受験の年には、心の中でドキドキしながらここで絵馬を書いていたっけ」と思いながら見ると、もう絵馬を掛けている場所は鈴なりである。そちらにフラフラと近づいてみると、いくつかの絵馬が裏返しになっていて、願い事が読める。これを何枚か読んでいると、本当に面白いのである。いや、受験生を笑っているのでは決してない。私のような歳になると、この年頃の若い人たちの「生の作文」を目にすることは絶えてないので、そういう意味で実に勉強になったのである。

 そこで、それらの一部をデジカメで撮って、家に持ち帰った。こういう絵馬にも著作権があるかどうかはむずかしいところであるが、いずれにせよ、プライバシーの問題があるので、個人を特定できる部分はしっかりと消しつつそれらの写真を掲載し、それぞれの筆者の願い事なり、人生感なりについて考察してみることとしたい
>(なお、原版のデジタル写真はすでに消去済みである)。

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お正月の人出で賑わう湯島神社

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 この絵馬は、書くのにかなり時間がかかったはずである。文章も図柄も非常によく書き込んでいるし、今年の干支の蛇を二匹も描いている。それにしてもこの子は思考のスケールが大きい。「世の中の」とか、「世界中の」という言葉をたくさん使っている。「世の中の受験生が全員合格出来ますように」とは、受験生の数が減った最近だからこそ説得力がある言葉で誠に結構だが、ベビーブーマーであった私の時代には、そんなことを思いもつかなかった。いまや競争がなくなって、平和な時代に入ったようだ。「世界中の皆様の健康状態を良好に!!」と「世界中のサラリーマンの給料UP!!」というスローガンも良い。日本国憲法の精神が行き渡っているとみえる。「今年はおみくじが初めて大吉だったので、きっと幸せな一年だろうと思っている」というのには、笑ってしまった。この子は本当に今まで、おみくじに縁がなかったのだろうか。いずれにせよ、大吉、誠に結構である。引き続き楽しく、この一年をすごしていただきたい。

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 これは、もちろん女の子の絵馬でスチュワーデスになるのが希望のようである。これは昔から、女の子のあこがれの職業だった。海外旅行が今ほど日常化していなかった時代には、自在に海外に行けて、かつ英語をしゃべるスチュワーデスは、一種の社会的エリートであったといっても過言ではない。ただ最近では、航空自由化の荒波を受けて、給料は下がるし、パートタイム的な勤務形態も増えるし、仕事はきつくなるしで、昔ほど優雅な職業ではなくなったと思う。まあそれでも、このように志望する若い女性がいることは、たいへん結構なことである。この人は、二機の飛行機を描いているが、上にはJAL、下にはANAと書き込んである。なかなか配慮の行き届いた人とお見受けする。ただね、「TOEC」ではなくて確か「TOEIC」だから、受験願書では間違えないようにね。それから、この人の書いている「カラーコーディネーター」って、何だろう。公的な資格でもあるのだろうか。ともあれ、こういう人には、ぜひ頑張っていただきたい。

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 これは、おもしろい人である。Love Song がいきなり出てきたり、英語も使ったり、平和の鳩の絵まで描いてある。発想がいろいろと飛ぶ方らしい。そのくせ「かぜをひかないように」などと、案外用心深いところもあったりして・・・。ただ、「センターで実力はっき」とあるけど、「発揮」と漢字で書いたら、センターの点数がもっとよくなるのではないかと、よけいな心配をした。

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 この絵馬を見た瞬間、これを書いた学生さんの人となりや性格がわかった。きっと、何事もきっちりと処理しなければ、気が済まない人なのであろう。この調子でバリバリ勉強していけば、大丈夫、あなたは必ず合格すると私が太鼓判を押したい。しっかりやってね。

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 会社員のカップルが書いた真面目で楽しい絵馬である。何とも心の中が温かくなった。こういうカップルがいると、日本という国も、まだまだ捨てたものではないと考える。まず「おばあちゃんが元気になりますように」という。いいお孫さんだ。次に「私の初仕事の□□□本がたくさん売れますように」と書かれてある。初々しい会社員一年生かもしれない。三番目に「仕事やいろんなことを通してたくさんの人に出会い、自分を成長させることができますように」である。たいへん良い。最後に、「5下の彼氏とずっと仲良くできますように」とのこと。「5下」とは何かと思ったが、5歳下という意味ではないか。まあ、あまり気にするほどのことではあるまい。
 その下にその彼氏が付け加えた一文がある。「みんな健康で楽しく過ごせますように、あと、彼女とは仲良く。他人には厳しく。いつもどおりで楽しく生きていけますように」とある。ただ、このうち「他人には厳しく」というのは「優しく」の間違いかどうか、こちらの方がいささか気になるところである。

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 私は、この絵馬が一番面白かった。まず本人が大きく「合格祈願」と書いた。その下にお父さんが「最後まで気を抜かずに全力を尽くすこと」と訓辞を垂れた。その下におばあちゃんが「希望の医学部へ合格出来ますように」と、心をこめて書いた。ところが最後にたぶん弟であろうが、「なるように なるさ」と書いてしまって、全体の雰囲気をぶちこわしてしまった。ただ、この家庭の暖かな雰囲気がただよってくるような良い絵馬である。今年の絵馬大賞をさしあげたい。

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 これがまた今はやりの海外留学組らしい。650点とは相当な高得点であり、これは遊び組ではなくて、どうやら本物らしい。ただ、その得点を実際に取れるのであれば、狙っている大学をもう少し高いものにしてはどうかと思う。いずれにせよ、海外に雄飛し、頑張ってほしい。なお、左隅に遠慮しながら小さく書いて、彼の合格を祈る彼女の姿がほほえましい。

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 これは、技術職の会社員の方であろうが、たいへんな勉強家のようである。高圧ガス保安責任者、電気主任技術者、電気エネルギー管理士それに消防設備士。いや、これだけかたっぱしに受験して、果たして受かるものなのだろうか。人ごとながら、心配する次第である。こういう資格の取得は、それこそ若いうちにしかできないので、体を壊さないように、やっていただきたいと祈るばかりである。

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(平成13年 1月 6日著)
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