湯島の絵馬 (2) 



前回と同じ場所の絵馬の山


 前回は、お正月に湯島神社に参拝したばかりである。そのついでに奉納されている絵馬を見て、最近の若者気質にいたく感心したところである。それを写真とともにこの欄でご紹介したところ、親類中での評判がよかったので、たいへんに気をよくした。そこで今回、節分の日に再び湯島神社に参詣したので、梅の見物もほどほどにして、折からの受験日程のまっただ中の受験生の皆さんはどうしているか、絵馬を見て回った。
 前回の写真と同じところで撮ったのがこの写真であり、一見してわかるように、絵馬の量が非常に増えた。前回はわずか一月前であるが、それでも動物園のキリンさんの胴体のような感じであった。それがどうだ、今回の絵馬の量は、まるでゾウさんの胴体のごとくである。あふれてこぼれ落ちている絵馬もある。おっと「落ちて」などというのは禁句であった。
(なお、原版のデジタル写真はすでに消去済みである)。

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梅が咲き始めた湯島神社の境内


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 境内に入って目に入ったのは、この馬鹿でかい巨大絵馬である。かわいいマンガの人物(キャラクター、略して「キャラ」というそうな)が描かれていて、その下には虫眼鏡で見るような名前が並んでいる。その回りを中年のおじさんが三人ほどたむろしている。

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 さて、いったい何が起こるのかと見ていたら、その中の頭の薄いおじさんが、かわいい女子中学生が通りかかるたびに何か話しかけて、にべもなく振られている。それでもくじけないで続けていると、そのうちようやく何人かと話がついたようだ。その子たちは、きゃあきゃあ言いながら巨大絵馬の前に並んだ。なんだ、撮影会の手の込んだ無料モデル探しである。どうやら、某新聞の中学生版の編集者とカメラマンだったらしい。しかし、今は中年になっているこの人たちも、昔は希望に燃えて新聞社に入社したであろうに、まさか20数年経ってこんなことをしているとは、想像もしなかったのではないか。

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 さて、絵馬の中で真っ先に目に付いたのは、この「絶体絶命のピンチをお救いください」というものである。なになに「もう留年できないのです。進級させてください」だって。慶応の大学生の子である。私がこの子の父親なら「このバカ!」といって、頭の上をコツンとやるところである。それだけでなく、来年の就職までちゃっかりこの機会にお願いしているという甘ちゃんである。しかし、「どうか道真様−−」と呼びかけていたり。いとこ達の受験も頼んでいるところなどは、なかなか愛嬌のあるヤツである。いや、いけない、いけない。情けは人のためならず。慶応の先生、こういうヤツは退学させるべし。

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 これはもう、切なくなるような母心を感じる。今回の数ある絵馬の中でも白眉である。2月1日 女子学院中学校と書いてそのあとに「こんなに努力した子はいません。合格できますように。お願いいたします。」とあり、その横に再び受験日らしき2月2日のあとに慶応湘南中等部という受験校を書いて、さらに同じ文句を書いている。別の子について同じ文句を繰り返すのならともかく、受験生ひとりの受験校ごとにおまじないのように二度かくのであるから、これはもう、すごいのひとことである。まさに、お母さんのお母さんによるお母さんのための(?)鬼気迫る合格祈願である。

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 これはどうだ。「精一杯の努力をした。喜びもいっぱいに抱きたい。私立高校の合格を 祈願」だって。これを書いたのは、まだ中学生なのである。私にも書けないくらいの立派な文章で、しかも達筆である。まさに、脱帽というところである。大丈夫。あなたは絶対に合格すると、私が太鼓判を押す。それにしても、将来は詩人になってはいかが。

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 これはまた、医学部らしい。几帳面に「48回 卒試」「95回 国試」などと書いている。なぜ、こんなどうでもいい数字を知っているのか不思議である。そのあとの「禁忌」を踏みませんように、というのは業界用語である。医師国家試験には、出来の悪い医者を排除するために人命にかかわるような誤答したときは、大きく減点することにしてある。しかしそれにしても、この絵馬の表現は、まるで地雷か落とし穴のようであり、よく感じがでている。

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(平成13年 2月 3日著)
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