一泊旅行で四国・松山の道後温泉に行く機会があった。梅雨の季節ではあったが、最初の日は晴れで、翌日は曇り時々雨だった。松山は中心にお濠に囲まれた城跡の公園(湯築城跡)のある、こぢんまりとしたのどかな町並みである。その周囲を市内電車が走り回っている。それに乗っていると、街中を見物しながら目的地に連れていってくれて、誠に便利である。最近の市内電車は、LRT(Light Rail Transit)というらしくて、昔の市電と比べると、騒音振動が軽減されて、しかも低床だという。この新型の電車と昔ながらの電車、それに坊ちゃん電車と称して、昔に走り回っていた蒸気機関車を模した型の特別車も走っていて、観光客としては、なかなか楽しめる。ところがこの坊ちゃん列車、昔ながらの客車を意識しすぎて、客車の中の肝心の座る長椅子がすべて木製なので、いささかお尻が痛いのが難点である。

 同じ伊予鉄道の観光バスで最初に連れていかれたのが子規堂で、小説「坊ちゃん」に出てくるマッチ箱のような客車の現物が置かれていて、面白い。堂内に入ると、子規の遺品が並んでいる中で、やはり俳句がいろいろと記されている。別の観光バスのガイドさんが、それについていろいろと蘊蓄を傾けていて、ヘチマの句などの由来を語っていた。その次に我々の番と思ったところ、実は我々の観光バスの運転手さんは若い女性なので、当然に知っているかと思ったが、「私は運転手ですから」といって、逃げられてしまった。自分で勉強せよということか。

 松山城は、たまたま改修中で、工事用の幕に囲まれていて、全容は見えなかったが、天守閣に登ると、その再建築の様子の記録映画を映していて、これには知的好奇心をくすぐられたのである。木材の選定からその製材の様子、設計の工夫から建て方、瓦の焼の過程とその積み方から壁の作り方などを懇切丁寧に説明した記録映画である。

 有名な道後温泉は、市内の東北にあり、明治に建てられた温泉建築がそのまま残っていた。その周りには、明治の警官やマドンナ姿の女性がいて、観光客のお世話をしている。聞くと、市から委託されてやっているとのこと。従来の温泉一本やりから、子規の俳句と漱石の坊っちゃんを売り出しているようだ。ただ、三本柱というまでには、まだまだ育っていないようだ。歳をとって、ちょっと夫婦で温泉に一泊という使い方だろうか。

              (平成18年6月25日記)





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