This is my essay.








 8月に入って、東京は、連日気温が36度を超すなど、暑い夏の日が続く。甲子園では高校野球の熱戦が、真っ盛りである。加えて、8月8日には衆議院の郵政民営化解散が行われた。政界も暑い夏を迎えている。

  官から民
  参で蹴らるる 郵政の
  乾坤一擲   大勝負


 ということで、小泉首相は衆議院解散という一世一代の勝負に出て、9月11日にその投票日を迎える。その日は私は旅行の予定なので、不在者投票をしようと思っている。

 それはともかく、暑い夏に少しでも涼風を求めようと、この「悠々人生」の表紙の写真としてしばらく熱帯魚シリーズを続けたので、ここでそれらを一括してとりまとめておくことにしたい。まずは熱帯魚の楽園、ティオマン島から始めよう。



1.ティオマン島

 私が熱帯の海中に魅せられたのは、南太平洋に浮かぶ、ティオマン島という南国の島でのことである。シンガポールなどからセスナ機が出ており、簡単に行ける。ここは、映画「南太平洋」のロケが行われたところとして有名であり、まさにあの映画のように、小さな滝もある。

 島の周囲は、もちろん珊瑚礁に覆われていて、ここから漁船で沖合に出ると、さらに小さな小島が点在している。漁船を一日借り上げ、家族でそのひとつに上がった。砂浜は、真っ白な砂で覆われ、その奥には椰子の木が何本も生えている。その椰子の木の陰に寝ころんで、どこまでも青い空を眺め、それが飽きるとシュノーケルを付けて海中に潜る。すると、そこはまさにこの写真のような色とりどりの珊瑚と、熱帯魚が泳ぎ回る世界である。ゆったりとした波に身を任せ、ぷかぷかと海に浮かび、いつまでも水中を眺めていたいと思ったほどである。

 水中から顔を上げ、太陽の光をまぶしく感じながら、ふと家族は大丈夫かなと思って周りを見た。すると、家内はといえば、体にぴったりとした水着を着て、入道雲がもくもくと上がっている青い空を背景に、海中からすっくと立っている。「おお、まるで資生堂のポスターだ」と、褒め言葉とも何ともならない感想が浮かんだ。息子と娘は、頭に黄色いシュノーケルを付けているものの、海に潜るというよりは、ビニール袋で小魚を捕まえようとして、大騒ぎである。何万匹もの大群で泳いでいるので、簡単に捕まえられそうだが、その大群中に手を伸ばしても、するりと逃げてしまう。

 お昼時になり、漁師が釣ってくれた鰹を、椰子の木の落ち葉の焚き火であぶって食べた。その、おいしいこと、美味しいこと。一生の記念に残る南国の休日であった。



(ちなみに、冒頭の写真は観賞魚フェアのもの、以下の写真はサンシャイン水族館のものである。)




2.笛奴鯛


 真夏の暑い日、連日35〜36度の猛暑続きではあるが、私は、平日はエアコンの効いたオフィスに一日中いるので、あまり痛痒を感じない。ところが、休みに家でエアコンの下でごろごろしていて、さあ外出しようとすると、カンカン照りの太陽を見上げて、辟易してしまう。最初は、水元公園にでも行って、オニバスでも見てこようと思ったものの、すぐにそういう気が失せてしまった。そこで、近場で涼しげなところということで、池袋のサンシャイン水族館に行くことにした。

 この熱帯魚たち、真夏の盛りに見るのにはもってこいのものである。色とりどりの珊瑚がちらばる海水の中を、これまた姿形こんなに様々な熱帯魚が自由自在に泳いでいる。水の色は涼やかであるし、何よりも魚たちの極彩色と模様と形が良い。しばし、飽きずに眺めていて、デジカメのビデオを撮っていると、なんと、一匹の魚が近寄ってきた。そして、左右二つの目で交互にカメラを覗き込んだあと、「変なヤツ」とばかりに、プィッと背を向けて、去っていった。これでわかったことは、われわれ見物人は、水槽の中を覗き込んでいるけれども、それと全く同じように、水槽の中からも、魚たちが見物人を眺めているということである。昔、我が家で飼っていた錦鯉が、私が近づくと餌をもらえると思って尻尾を振るというように、人の顔を見分けているのではないかと、家の中でひとしきり話題になった。やはり、それは本当だったようだ。

 ちなみに、この写真に出てくる黄色の魚は、おそらく、笛奴鯛(フエヤッコダイ、スズキ目 チョウチョウウオ科 フォルキピゲル属)であろうと思われる。それにしても、何とまあ、気楽に泳いでいてくれることか!




3.道化魚


 このクマノミ(熊之実)、ディズニーの映画のニモくんとして有名である。スズキ目スズメダイ科、学名は、Amphiprion clarkiiという。その愛らしい姿形から、英語では、Clownfish、つまりピエロ魚という。また、Anemonefishという別の英名もあるけれど、ニモくん(Nemo)というのは、ここから来たのかもしれない。

 もともと、珊瑚礁のイソギンチャクと共生している魚で、他の魚は毒性のあるイソギンチャクの触手の刺胞に刺されるが、このクマノミは、その体表から出る粘液がイソギンチャクと同質なため、大丈夫ということらしい。

 しかもこの免疫性は、生来あるのではなくて、イソギンチャクとの接触によって徐々に得られるとのこと。小さい体で生きるための訓練ということか。いずれにせよこれによってクマノミには、大きな魚に食べられないという有り難いメリットに恵まれるが、どうやらイソギンチャクには迷惑な同居人ではないかといわれている。

 ひとつのイソギンチャクに何匹かのクマノミが共生していて、一番大きいのが雌、二番目が雄となって繁殖するが、一番目が死んだりすると二番目の雄が雌に性転換し、三番目が雄となるとのこと。そればかりか、他のイソギンチャクから大型の雄が侵入して、それが乗っ取ることもあるらしい。あまりに合理的すぎて、何やら味気ない限り。クマノミの世界も、結構たいへんである。




4.花 笠


 これがハナガサくらげで、まるでネオンサインのように派手なクラゲである。学名は、Olindias formosa。バックを暗くして光を当てると、もっと色がはっきりと出てネオン管が光っているように見える。こういう派手なクラゲは、強い毒素を持っているので刺されると要注意である。幸いなことに、私はこのクラゲを、海で実際に見たことはない。もちろん、あまり出会いたくもない。

 私が学生だった頃、友人と富山県氷見市の雨晴海岸というところで泳いでいた。白砂青松の美しい海岸である。遠くに立山連峰を望む位置に、海中から松を載せた奇岩が突き出しているという、有名な写真のスポットがある。のんびり泳いでいたら、二人とも例のミズクラゲというのに腕や脚を刺されて、赤く腫れ上がったことがある。医者に行って手当てをしてもらったが、クラゲは、もうこりごりである。




5.箱河豚


 このフグは、本当に面白い。四角形の顔に、ヒョットコのようなおちょぼ口がついているだけでも愉快なのに、背中にチョコンと付いている背びれと、その真下にある尾びれの二つをぐるぐる動かして泳いでいる。まるで、出来損ないのヘリコプターがホバリングしているようである。可愛いというか、間が抜けているというか、何とも表現のしようがない。しかし、やはりフグの仲間らしく、これで結構、毒をもっているという。たとえば、過度のストレスで体調が悪くなったりすると、体の表面から粘膜状の毒素を分泌し、それで同じ水槽の他の魚を殺してしまうらしい。可愛いだけではなく、恐ろしい魚である。人も、魚も、どうしてどうして、あまり見かけによらないのである。ちなみに学名は、Ostracion という。




6.菫長花鯛


 このピンクの魚は、いったい何というのだろうと思って調べてみると、菫長花鯛(スミレナガハナダイ)という愛らしい名前が付いていた。学名は、Pseudanthias pleurotaenia、英名は、Square-spot fairy basslet、という。やはり英名でも、この魚の側面にある四角い模様に注目されている。何でこんな模様があるのだろうと考えても、無論よくわからない。目立つためか、その割には簡単にすぎる気もする。ただ、この四角い模様があるのは成長した雄だけで、雌はオレンジ一色らしい。雄を中心にハーレムの群れを作るというが、最初から雄の個体と、群れの中で一番大きな個体の雌が雄になることもあるという。何ともややこしい限りである。西部太平洋からインド洋にかけての、水深20〜70メートル程度のやや深い崖に生息する。




(平成17年8月11日著)
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