This is my essay.



ヴィヴィアン・リー チャップリン オードリー・ヘップバーン



 休日に豊洲へ行ってみようと、地下鉄の日比谷駅で、有楽町線に乗り換えようとした。そうしたところ、改札を出てすぐのところに、映画のDVDをたくさん並べて売っていた。普通なら、そのようなものに全く気をとめずにさっさと通り過ぎるところだが、家内が「あら、名画だわ」と言って、立ち止まった。確かに、懐古趣味をそそる名画ばかりである。第三の男、ローマの休日、幌馬車、我が谷は緑なりき・・・なるほど、どれもこれも、かつて見て、とても感激した記憶のある懐かしい映画である。しかも、一枚500円という格安の値段となっている。著作権法改正による著作権の存続期間を延長する規定を巡る最近の裁判の影響か、それともそもそもこんな古い映画のDVDなどは値段が安いのか、よくはわからないが、いずれにせよ求めやすい価格であることは事実である。そんなことが私の頭をよぎっているうち、既に家内はどれを買うかと品物選びの真っ最中である。私も、並んでいるDVDのスタンドの前へと、ふと吸い込まれるように入っていった。

 よく考えたら、これらはいずれも50年以上も前の作品なので、年齢的に60歳までにはしばらく間のあるわれわれの歳からすると、これらを見たというには、いささか年代が古すぎると思われるかもしれない。しかし、われわれが懐かしがるにはそれなりの訳があるのである。というのは、私たちの二人の子供が小学校の高学年から中学校にかけて、世界の名画を100作以上を選んで、見せたのである。今から思うと、よくそんなことをしたと考えるのであるが、家内ががんばって、何年かをかけて、テレビで放映された世界の名画をまず録画した。当時は現在のDVDのような便利なものはなかったので、あの大きなVHSビデオテープを百数十本ため込んだのである。そうしておいて、子供の年齢に応じたものを選び、夏休みなどの暇なときに次々と見せていったという次第である。

 現在のハリウッド映画は、コンピューターのCGでできた派手なアクションや映像で作られた人工的な怖さを追い求めるものがほとんどである。ジュラシック・パークで有名なスチーブン・スピルバーグ監督の作品などは、その典型である。ところがこれらの作品は、見終わったら「ああ、こわかった」で、おしまいである。これに対して、昔の名画は、さまざまな人と人とが織り成す人間模様そのものを描いている。ペーソス、貧しさ、悲しさ、ジョーク、恋愛など、人が本来持つべき感情と感動が詰まっているから、見終わると、これらがすべて観客の心に残るというすばらしさがある。自分たちの子供の頭が、漫画やゲームなどで馬鹿になるよりはと思い、手間はかかってもこうした名画を見させることで、格好の情操教育ができたと思っている。ちなみに、これが功を奏したかどうかはわからないが、我々の上の子は医者になって博愛精神が旺盛であるし、弁護士となる予定の下の子は、人の心の機微をよく汲み取ることができる人間となったと思う。

 近頃の新聞をみると、家庭内暴力や引きこもり、児童虐待などが話題となっている。その原因として確かに学校教育にも過半の責任があるとは思うけれども、やはり教育の基本は、家庭の中にあると考える。そういう時代にあって、あなたの子供が多感な頃にこそ、この世界の名画100作品を見せるという試みをやってみてはいかがだろうか

 以上のようなことを、大学の講義で口にしたところ「先生、その世界の名画100って、どんなものがあるんですか?」と聞かれてしまった。そこでそれは次回紹介しようということになり、早速その週の金曜日の午後10時頃から、翌土曜日の午前1時まで延々とかかって、家内と一緒にリスト作りをした。家内は、映画の題名と主演俳優や監督を実によく覚えている。私が「ほら、ヘップバーンの切手のあれ、あれ」とか、「チャップリン」のこんな歌の映画」とかいう、そのわずかなヒントでも、次から次へとその映画の題名や俳優の名前が出てくるのには、ほとほと感心させられた。

 その一方、特に俳優さんについては、当然のことながら、お互いの趣味がすこし違っている。たとえば、私は女優ではカトリーヌ・ドヌーブやジュリア・ロバーツなどはいいなと思うが、家内はそうではないらしい。ところが、家内はジャック・レモンの雰囲気がいいとしているが、私はあんな惚けたおじさんがいいとは思わないといった調子である。それから、たとえばスタンド・バイ・ミーは、私は評価し、家内はそうではない。しかしこれなどは、12歳の少年の経験を描いている映画なので、男と女の相違からくる違いなのかもしれない。それから、昔の日本映画については、たまたま最近、小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督の特集をやっていたので、そこで再び鑑賞したのもある。

 なお、以下のリストでは、二人の意見が合わなくとも、また最近の映画であっても、これは見ておいたら面白いと私が思ったものを載せている。それは、ペリカン文書、エリン・ブロコビッチ(どちらも、ジュリア・ロバーツ)、フラッシュダンス、キューティ・ブロンド、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン、イングリッシュ・ペイシェント、鉄道員 (ぽっぽや)、千と千尋の神隠しなどである。しかし、これらは、アメリカの法律界の事情や風俗を知るには面白いが、さりとてこれから末永く語り継がれるべき名画という水準には未だ達していないものかもしれない。要するに、私が勝手に選んだものであって、これから半世紀後に残っているかは、保障の限りではないので、ご承知おき願いたい。



      世界の名画リスト

 
順不同。おおよそのジャンルに分けてある。

1.美男美女系

 ローマの休日     (オードリー・ヘップバーン)
 シャレード      (オードリー・ヘップバーン)
 ティファニーで朝食を (オードリー・ヘップバーン)
 おしゃれ泥棒     (オードリー・ヘップバーン、ピーター・オトール)
 静かなる男      (ジョン・ウェイン、モーリン・オハラ)
 誰がために鐘は鳴る  (イングリッド・バーグマン)
 カサブランカ     (イングリッド・バーグマン、ハンフリー・ボガード)
 紳士は金髪がお好き  (マリリン・モンロー)
 百万長者と結婚する方法(マリリン・モンロー)
 風と共に去りぬ    (ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲーブル)
 ジェーン・エア    (ジョーン・フォンテーン)
 プリティ・ウーマン  (ジュリア・ロバーツ、リチャード・ギア)
 
2.ハリウッド型

 ベン・ハー   (チャールトン・ヘストン)
 クレオ・パトラ (エリザベス・テーラー)
 八十日間世界一周(デビット・ニーブン、シャーリー・マクレーン)
 空中ブランコ(バート・ランカスター、トニー・カーティス、ジーナ・ロロブリジータ)
 大脱走     (スティーブ・マックィーン)
 パピヨン    (スティーブ・マックィーン)

3.青 春 系

 理由なき反抗    (ジェームス・ディーン)
 エデンの東     (ジェームス・ディーン)
 フラッシュダンス  (ジェニファー・ビールス)
 キューティ・ブロンド(リーズ・ウィザースプーン)
 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(レオナルド・ディカプリオ)

4.ミステリー系

 第三の男 (オーソン・ウェルズ)
 鳥    (ヒッチコック監督)
 めまい  (ヒッチコック監督、ジェームス・スチュワート)
 裏窓   (ヒッチコック監督、ジェームス・スチュワート、グレース・ケリー)
 疑惑の影 (ヒッチコック監督、ジョセフ・コットン)
 舞台恐怖症(ヒッチコック監督、ジェーン・ワイマン、マレーネ・デートリッヒ)
 レベッカ (ヒッチコック監督、ローレンス・オリヴィエ、ジョーン・フォンティーン)
 ガス燈  (シャルル・ボワイエ、イングリッド・バーグマン)
 歴史は夜作られる(シャルル・ボアイエ)
 ペリカン文書(ジュリア・ロバーツ)

5.名 作 系

 オセロ  (オーソン・ウェルズ)
 ハムレット(ローレンス・オリヴィエ、ジーン・シーモア)
 嵐が丘  (ローレンス・オリヴィエ)
 若草物語 (エリザベス・テーラー)
 老人と海 (スペンサー・トレイシー)
 クリスマス・キャロル(ディケンズ原作、いろいろな版がある)
 西部戦線異常なし(レマルク原作)
 イングリッシュ・ペイシェント(恋愛系、 レイフ・ファインズ、ジュリエット・ビノシュ)

6.チャップリン系

 モダン・タイムス
 黄金狂時代
 独裁者
 殺人狂時代
 キッド
 ライムライト
 街の灯

7.ミュージカル系

 マイ・フェア・レディ(オードリー・ヘップバーン)
 雨に唄えば     (ジーン・ケリー)
 オズの魔法使い   (ジュディー・ガーランド)
 ウェスト・サイド物語
 サウンド・オブ・ミュージック(ジュリー・アンドリュース)
 シェルブールの雨傘 (カトリーヌ・ドヌーブ)
 王様と私      (ユル・ブリナー)
 メリーポピンズ   (ジュリー・アンドリューズ)

8.社会派系

 自転車泥棒     (イタリア)
 屋根        (イタリア)
 道         (イタリア、フェデリコ・フェデリーニ監督)
 花嫁の父      (スペンサー・トレイシー、エリザベス・テイラー)
 招かれざる客(スペンサー・トレイシー、キャサリン・ヘップバーン、シドニー・ポワチエ)
 我が谷は緑なりき  (モーリン・オハラ)
 アパートの鍵貸します(ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン)
 白鯨        (グレゴリー・ペック)
 怒りの葡萄     (ヘンリー・フォンダ)
 スタンド・バイ・ミー(スティーヴン・キング原作)
 ブルックリン横町  (エリア・カザン監督)
 エリン・ブロコビッチ(ジュリア・ロバーツ)
 アバウト・シュミット(ジャック・ニコルソン)
 戦場のピアニスト  (ロマン・ポランスキー監督)

9.ディズニー系

 シンデレラ
 ピーターパン
 眠れる森の美女

10.欧 州 系

 ネバーエンディング・ストーリー(独)
 ショコラ   (仏、ジュリエット・ビノシュ)
 ぼくの伯父さん(仏、ジャック・タチ)
 戦争と平和  (ソ連、リュドミュラ・サベーリエワ)
 ウェールズの山(英)

11.アジア編

 山の郵便配達 (中国)
 初恋の来た道 (中国)
 リトル・チュン(香港)
 ムトゥ 踊るマハラジャ(インド)

12.日本映画

 東京物語 (小津安二郎監督、原節子、笠智衆)
 羅生門  (黒澤明監督)
 影武者  (黒澤明監督)
 近松物語 (溝口健二監督、長谷川和夫、香川京子)
 大阪物語 (溝口健二・吉村公三郎監督、市川雷蔵)
 めし   (成瀬巳喜男監督、原節子、上原健)
 驟雨   (成瀬巳喜男監督、原節子、佐野周二)
 やぶれ太鼓(木下恵介監督、阪東妻三郎)
 喜びも悲しみも幾歳月(木下恵介監督、高峰秀子、佐田啓二)
 二十四の瞳(木下恵介監督、高峰秀子)
 蒲田行進曲(松坂慶子、風間杜夫)
 鉄道員 (ぽっぽや)(高倉健、広末涼子)
 千と千尋の神隠し(宮崎駿監督)

(注) 洋画の内容は、下の淀川長治のサイトを参照するとよい。
  http://www.ivc-tokyo.co.jp/yodogawa/




(平成18年10月25日著)
(備考)冒頭の動く俳優のファイルは、「江戸の人」(ATNET)からいただいたもの。
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