This is my essay.



ブラックホールにおける弦の凝縮状態を示す模式図。(出典)高エネルギー加速器研究機構HPより




 もう8月になってしまった。月日が経つのは早い。連日、暑い日が続いていて、これで東京は、熱帯夜が23日間も続く。エアコンをつけっ放しにしないと、体が自然と熱をもってくる。普段の年は、お休みタイマーをセットして、寝込んでから1時間でエアコンが切れるようにしていたが、今年はそんなことをしたら、すぐに体中が汗だくになって、起きてしまう。せっかくの土日なのに、こんなに暑いのでは行楽地に行く元気もない。ということで、八重洲ブック・センターに行き、読む本を物色してきた。金曜日のお昼、ブック・センターに着くと、なんとまあ、入口で大学時代の同級生と会う。「やあ、元気か・・・」と言葉を交わしていると、何年も会っていない元の仕事仲間がすれ違い、「やあ、お久しぶり」と、言葉を交わす。なんのことはない。暑い時の暇つぶしは考えることは、皆同じだった。同じ世代だなぁ。

 エスカレーターに乗って2階の法律・経済コーナーに行ったけれども、これという本が見当たらない。余談だが、私の書いた本はまだ置いてくれているかなと思って見に行ったら、ちゃんとあった。でも、ライバル本がずいぶん増えている。あとしばらくは、このままで持ちそうだが、そのうちまた、改訂版を書かないといけないようだ・・・あぁ、たいへん、また土日がつぶれるのか・・・と思いつつ、ここはパスして、再びエスカレーターで、3階の自然科学コーナーに移った。ワゴンに並べてある本の中で、ふと目に入ったのが、雑誌のニュートンの別冊、「次元とは中か」である。パラパラめくっていくと、、「ワープした余剰次元モデル」のリサ・ランドール博士へのインタビューも載っている。そうか、これがあったと思って、ひも理論のコーナーに行ってみた。

 「超ひも理論」と題していろいろな本があったが、まだ読んでいないものとして、「超ひも理論への招待」(夏梅 誠著)と、それから、図表でもあれば、理解が深まるだろうと思って「図解雑学 超ひも理論」(広瀬立成著)の2冊を買い込んだ。前者の夏野さんの本は、超ひも理論に寄与してきた研究者、特に日本人研究者の業績について、縷々述べたものだ。ひも理論の研究者について述べているところは親しみを覚えるが、読者は超ひも理論のなんたるかを、(多少の数式があってもよいから)手っ取り早く知りたいのに、それがあまりない。従って、これまでの読書を通じて知っていることが多く、いささか期待外れだった。しかしそれでも、2008年の時点で、超ひも理論が着実に進展している様子がわかる。ただ、この本の中で、私にとって興味深いコメントは、次のとおりである。

 「計算によると、超ひも理論は10次元でなければならないことがわかった。しかし、なぜ10次元でなければならないのか、その基礎となる理論 〜 たとえばアインシュタインの一般相対性理論であれば、等価原理(重力と慣性力とは区別できない。)のようなもの 〜 が、まだわからないということが、超ひも理論の抱えている根源的な問題である。」

 なるほど、確かにそのとおりである。「何だかよくわからないけれど、リーマンのゼータ関数を使ってあれこれ計算してみたら、なんとまあ、時空は10次元になっちゃった・・・」という、いい加減な態度では、科学の世界の批判には耐えられないことだろう。これに対し、超ひも理論のファンとしては、「そう、小うるさく言いなさんな。そのうち、わかってくるだろう。」とでも言いたいところであるが、そうもいかないだろうなぁ。 

 ところで、後者の2冊目の本「図解雑学 超ひも理論」は、そのいいかげんそうな表題とは裏腹に、これまでの知識を改めて整理することができて、非常によかった。かいつまんでいうと、こんなこととなる。

@ われわれの住む現在の宇宙は、137億年前に誕生し、引き続き膨張を続けていて今やおそろしく広大なものとなり、その温度は摂氏マイナス270度と、極めて冷たい世界である。つまり、低温、低密度、低エネルギーで、極めて大きい。そこには、物質を構成する素材(クォークを包みこんだハドロン=陽子、中性子など)が存在し、その物質について基本的な4つの力(電磁力、弱い力、強い力及び重力)が働いている。

A ところが、宇宙の膨張を時間的に遡っていくと、限りなく小さく、かつ高エネルギーの世界になっていく。そして、今の宇宙の要素は、誕生後1秒にもはるかに満たないごくわずかの時点に、すべて出来上がったとされる。その「1秒にもはるかに満たない時間」をどんどん遡っていくと、現在の宇宙において、いわば「分化」してしまっている4つの力が次第に統合されていき、またしっかり結合していたクォークやハドロンも、その構成要素が徐々にばらばらとなっていく。驚くことに、その各段階が、これまで考えられてきた力の統一のための理論で、ひとつひとつ説明できるというのである。そして、その宇宙が誕生した瞬間の直後を説明できそうなのが、「超ひも理論」というわけである。それでは、宇宙が誕生した瞬間までを、これまで判明した理論に基づいて遡ってみよう。

B 宇宙の誕生から10のマイナス4乗秒後には、これが最終となる4度目の真空相転移というものがあり、それまで高エネルギーの下で自由に飛び回っていたクォークが、宇宙全体の温度の変化によって次第に動きが不活発となり、ハドロン中に閉じ込められるようになった。これにより、現在の物質の元となる粒子が生まれた。

C 宇宙の誕生から10のマイナス11乗秒後には、3度目の真空相転移があり、エネルギーが100GeV(宇宙の温度が摂氏1000兆度、大きさが10の12乗cm)で、弱い力のゲージ対称性が回復して、電磁力と統合される。これで4つの力が3つの力となった。これを説明しているのが、標準理論として確立している統一理論の世界である。

D そこから更に時間を遡ると、エネルギーがどんどんあがっていく。そして、宇宙の誕生から10のマイナス36秒後には、2度目の真空相転移がある。エネルギーが10の15乗GeV(宇宙の温度が10の28乗ケルビン、大きさが10の28乗cm)において、強い力と電弱力とが統合される。これで4つの力が2つの力(大統一力と重力)となった。これを説明しているのが、大統一理論の世界である。ところが、大統一理論はまだ不完全なもので、これに超対称性という概念を持ち込むと、10の16乗GeV付近で電磁力、弱い力、強い力の3つの力の大統一を果たし、加えて重力をも取り込めるのではないかといわれている。ちなみに、この理論は、超対称性粒子(たとえば、ニュートラリーノ)が発見されれば、その正しさが証明できる。今年から稼動する予定の欧州連合原子核研究所(CERN)のLHCでは、その発見が期待されている。

E 更に時間を遡っていく。宇宙の誕生から10のマイナス44乗秒後には、最初の真空相転移があり、エネルギーが10の19乗GeV(宇宙の温度が10の32乗ケルビン、大きさが10の33乗cm)で、重力と大統一された力とが統合される。これで4つの力がようやくひとつの力となった。そして、これを説明することができる最も有力な理論が、超ひも理論というわけである。


 超ひも理論を特徴付けるのが、プランク世界にのみ存在する「超ひも」で、長さは10のマイナス33乗cm、太さはなく、質量と張力がある。この張力によって、素粒子が生まれ、力と時空の次元の元となる。

 超ひも理論は、ニュートン力学、相対性理論、量子力学を統合できる。その関係は、

ニュートン:G(重力定数 )=6.7X10マイナス11乗m3/kg・s2
相対性理論:c(光の速さ )=3X10の8乗m/s
量子力学 :h(プランク定数)=6.6X10マイナス34乗J・s

 ここから、次の距離の次元を持つ量(プランク距離)などが算出できる。これらが、上記Eの根拠である。

プランク距離 :lp=ルート(Gh/c3)〜10マイナス33乗cm
プランク時間 :=5.4X10マイナス44乗s
プランクエネルギー:=1.2X10の19乗GeV

 ここでプランク距離にはプランク定数hが含まれているので、このプランク世界の重力を記述するには、量子力学が不可欠となる。換言すれば、われわれの世界の重力に関する理論が成立するのは、プランク距離までということになる。ところで、量子力学はプランク定数をゼロとすることでニュートン力学に移行することが知られている。つまり、量子力学はニュートン力学を内包しつつ、ミクロの世界まで説明できるというわけである。

 ところで、超ひも理論の基礎となる上記のプランク距離の公式において、Gとcを有限に保ちつつ、
プランク定数hをゼロに近づけてみると、当然、プランク距離lpはゼロとなる。これは、このプランク距離までのマクロの世界では一般相対性理論が働き、それ以下のミクロの世界では重力の量子力学、つまり超ひも理論をもって説明しなければならないことを意味している。逆にいえば、超ひも理論は、従来のニュートン力学、相対性理論、量子力学の延長線上にあるということである。

 さらに超ひも理論は、物質に働く基本的な4つの力(電磁力、弱い力、強い力及び重力)を説明できる。プランク距離という超微細な世界にある「超ひも」には、閉じたひもと輪ゴムのように開いたひもとがあり、それぞれ振動している。閉じたひもの振動はスピン2の重力子に対応し、開いたひもの振動はスピン1のゲージ粒子に対応するなど、その振動はすべての粒子と力に対応する。ただ、現在最も有力な考え方は、閉じたひもを伝わる振動の波が右向きか左向きかによって区別しようというもので、右向きの場合は、今述べた10次元の「超ひも」で、左向きの場合はこれとは異なり、26次元の単なる「ひも」で説明する「混成超ひも理論」である。

 この説でいくと、10次元の「超ひも」からは、重力のゲージ粒子であるグラビトン(重力子)が説明でき、さらに26次元の「ひも」からは、6種類のクォークと6種類のレプトンといった、統一理論と大統一理論の内容が自然な形で導きだされる。そして、統一理論と大統一理論ではヒッグズ機構というものをいささか無理に作り上げたが、超ひも理論では、その根拠となるヒッグズ粒子をひもの振動状態のひとつとして、合理的に説明が可能である。

 超ひも理論の難点は、@「超ひも」がプランク距離以下の超微細なミクロの存在だとするだけに、これを直接観察することができないこと、Aわれわれの世界は4次元時空であるのに、10次元だの26次元だのといっているのは、実感がわかないこと、B理論としては、まだ現実の宇宙を完全に説明できるものではないことである。いずれも、そう簡単には立証できないものだけに、すぐには完成できない理論かもしれないが、しかし、これらの問題が早く解決されて・・・できれば、私が生きている間・・・超ひも理論が本当の意味での「最終統一理論」となることを祈っている。

 そして、超ひも理論が真の「最終統一理論」となった暁には、そもそも、宇宙はどうして始まったのか、たたみ込まれている残りの6次元又は22次元とは何か、137億歳のわれわれの宇宙は今後どうなるのか、パラレル・ワールドはどんなものか、そこに繋がっているワームホールのようなものはないかなどなど、知りたいことがたくさんある。

(参考文献)

 「超ひも理論への招待」(夏梅 誠著)
 「図解雑学 超ひも理論」(広瀬立成著)
 「ワープする宇宙」(リサ・ランドール著)
 「パラレル・ワールド」(ミチオ・カク著)
 「エレガントな宇宙」(ブライアン・グリーン著)
 「ホーキング 宇宙を語る」(スティーブン・ホーキング著)

超弦理論の現状と課題





(平成20年8月 4日著)
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