邯鄲の夢エッセイ








 ベトナムの水上人形劇( 写 真 )は、こちらから。


 ベトナムの水上人形劇(ムアゾイヌオック)が行われるというので、横浜の赤レンガ倉庫に行ってきた。もともとこの催しは、代々木公園で開かれるベトナムフェスティバル2014の一環だった。ところが、その開催場所の代々木公園では、今年の夏にどういうわけかデング熱のウィルスを保有する蚊が発生して、これまでに100人を超える患者が確認された。しかもその数がどんどん増えているのに、未だ蚊の駆除が確認できていないという有り様であることから、開催の1週間ほど前になって急きょ中止されたものである。

 私は、17年前にベトナムに行く機会があり、そのときにこの人形劇をハノイの劇場で観たことがあるので、今回行われる人形劇をぜひまた観てみたいと、見物を楽しみにしていた。中止になるかもしれないと一時はやきもきしていたが、嬉しいことに、場所を変えて横浜の赤レンガ倉庫において行われることになったので、家内と一緒に出掛けたというわけである。

 自宅から千代田線に乗って明治神宮前駅で副都心線に乗り換え、みなとみらい線に直通の電車で行くと、1時間ちょっとで着く。ちょうどお昼ごろに元町・中華街駅に到着したから、そのまま横浜ニューグランド・ホテルに入って食事をした。それから日本大通り駅に戻って、そこから横浜税関の脇を通り赤レンガ倉庫まで歩いた。海風が心地よく、青い空に筋雲が出ていて美しい。その中にあって赤いレンガの倉庫は、なかなか洒落た雰囲気を醸し出している。その赤レンガを背景に、水上人形劇の舞台が設えられていた。


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 ポンポコ、ビューンビュンビュンと打楽器と弦楽器の音が聞こえてきて、劇が始まった。向かって右手に楽器の奏者、左手に歌い手がいる。舞台上に目をやると、正面の簾の陰からふんどしのようなものを締めた農民のおじさん人形が出てきた。開演の口上を述べているらしい。おお、いきなり2匹の龍が出てきた。口から煙が出ているので、花火を咥えているのかもしれない。何しろ地面に当たるところが水だから、いくら火を使ってもよいようだ。

 おやおや、今度は龍がお互いに水を掛け合っている。その動きが早くて、しかも水の舞台を右から左まで広く使っているから、見ていて飽きない。まさに龍神様という気がしてきた。こういう神様に田圃が守られているのだろう。水牛に乗った笛吹童子が出てきたと思ったら、2人の農夫が水牛で田圃を耕している。次は、農民の女性が2人出て来て、腰を屈めて何やら植えている。ああ、これは田植えではないか。日本でも農村の長閑な風景であるが、それはベトナムでも同じなようで、植えたばかりの苗床を前にして、嬉しそうだ。やはり、あちらも稲作農村国家であるらしい。


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 さきほどの農夫のおじさんと、竹籠を持ったおばさんが、何やら犬のようなものを追いかけ回している。これは面白い。舞台の一方では、家鴨の一団がヒョコヒョコと出てきて、その犬が隙を突いてそれを狙っている。おじさんとおばさんが怒って追いかけっこが始まる。ああ、間違っておばさんがおじさんの頭を竹籠に入れたりして、もう滅茶苦茶だ。そうこうしているうちに、とうとう家鴨の一匹が犬に咥えられてしまった。ちなみに、私が「犬」だと思った動物は、どうやら狐だったようだ。

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 場面が変わり、一転して色々な楽器を演奏する一団が出てきた。顔からして楽しそうな雰囲気で、日本で言えば、さしずめちんどん屋というところか。ああっ、王女様のような二対の大きくて優美な女性と、その侍女というか、舞踊団の女性たちのような数体の人形が登場し、なかなか優雅な踊りを繰り広げた。礼をするのも、両手を広げて舞うのも、なかなか美しい。さきほどの2匹の龍のように、亀や麒麟のようなものまで出て来た。しかし悲しいかな、なにをやっているのかわからない。ベトナム語を少しでも解すると、もっと味わい深いものになったのにと、残念である。

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 わずか30分ほどの劇だったが、それなりに楽しめた。惜しむらくは、劇の説明がもう少し丁寧だったならば、もっと面白く感じたと思うのであるが、登場した人形は何かを言う程度のごくごく簡単なものだっただけに、いささか残念であった。見終わったあと、家内と異口同音に言い合ったことは、この人形たちをどうやって動かしているのだろうという疑問である。水の深さは浅いので、人が潜って操るには全くの不向きである。簾の中から操るにはいささか遠いし、しかも登場人物が多いと混線してしまうのではないかと心配する。そういえば、劇の最後に出て来て。挨拶をしてくれた人形操者たちは、腰から下だけが濡れていたなと思い出した。これは分からないと思ってネットで調べてみた。すると、まずこれは11世紀頃からベトナム北部の紅河デルタの農村地帯で演じられている伝統文化だという。その人形を操る方法だが、竿の先で人形を支えて糸で首や手の操作をするようだ。それだけに難しく、簡単な人形で1年、難しいもので5年の経験が必要だという。上演される物語の多くは民話や伝説に基づいているらしいが、まるで知識がない。日本の歌舞伎の筋と似たようなものであろうか。

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 最後に、少し港の雰囲気を味わおうと、シーバスに乗ってぷかり桟橋へ行った。ちょうど帆船が入港していて、その出港の様子を眺めた。そこの2階でお茶をしてベトナムについて語り合い、みなとみらい駅から乗って帰京した。

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(平成26年9月13日著)
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