悠々人生・邯鄲の夢エッセイ



協会けんぽのパンフレット「健診の概要」からその一部の健診項目




 私と同じマンションに住んでいる人で、私より数歳、年上の方がいる。誠に快活な自営業の人で、商売が上手く回っていることから、仕事はもう息子に譲って、悠々自適の生活をしておられる。自他ともに認める健康体であり、ゴルフが何よりも好きで、自分がメンバーとなっているゴルフ場に週に数回通うほか、海外にもしばしばゴルフに出かけていた。お顔も日焼けして、つやつやと黒光りしている。また、美食家の健啖家で、美味しいものとお酒には目がない。とりあえず、以下では「健康おじさん」と呼ぶことにしよう。

 たまたまこの半年ほど、その健康おじさんに会っていなかったが、つい最近、久しぶりにお会いしたと思ったら、顔がひと回り小さくなっているし、顔の艶も張りもなくなっている。「あれ、どうかされたのですか?」と聞いたところ、力なく「いやそれがね、肝臓ガンになってしまって、2回も手術を受けたのに、まだ取り切れないんですよ。」という。「あれれ、それは大変ですね。お大事になさってください。」といって別れた。

 後から、家内が健康おじさんの奥様から聞いたところによると、こういうことだったらしい。かれこれもう15年間も、近くの個人病院で健康診断を受けて、問題点は特に指摘されていなかったのに、調子が悪くなって、たまたま大学病院で診てもらった。すると、末期の肝臓ガンで、もう相当、あちらこちらに転移していることがわかったという。もちろん肝臓内でも散らばっていることから外科療法ができず、ガンの部分に薬剤を注入する「エタノール注入療法(PEI)」で対処したとのこと。

 そこまでは予想の範囲だが、問題はそこからで、「近くの個人病院で15年間も健康診断を受けていながら、分からなかったのですか?」と聞いた。すると、奥様は声を潜めて、「いや、分かっていたのよ。分かっていたから、何かその関係の薬を長期間寄越して、放って置かれたのよ。自分で治療できないのなら、さっさと大学病院へ紹介状を書いてくれれば良かったのにね。敢えてそうはしなかったようなのよ。もう本当にひどい話だわ。」と、声を潜めて言ったそうだ。なぜそうわかったのかというと、ガン保険に入っていたので、その支払いを受けようとしたところ、保険会社の方から、かかりつけの病院の記録によればガンだとずっと昔から分かっていたので、告知義務違反だから支払いはできないと言われたからだそうだ。

 ははあ、なるほど、この個人病院は、自分の顧客を取りこぼしたくなくて、顧客の健康などそっちのけで、医院の経営を優先したらしい。それが本当なら、とんでもない話ではないか。我々の言葉で言えば、信義則違反、いや、そもそも診療契約違反だろう。医師としての倫理が欠如しているどころか、医師免許の取消しにも値する行為だ。これだから、自分の健康は、自分の頭を使って守るしかないと思うのである。

 もっとも、私自身も過去15年間ほど、総合病院だが同じ病院の健康診断を継続的に受けている。そうすると、年によっては、こういうことがあった。
 「眼科で念のために精密検査を受けて下さい」と言われて検査を受けると、「ああ、なんでもありません」ということになり、
 「胆管の太さがが普通は6ミリ程度なのに、あなたは8ミリですから、専門医の診察を受けて下さい」と言われておっかなびっくり診察を受けると、1年間ほど何回も超音波検査を受けた挙句に、首を振り振り「どうもあなたは、生まれつき胆管が太いようです」と無罪放免になったり、あるいは
 「甲状腺が脹れているようですから診察を受けて下さい」と言われて診察を受けると、結局、実家から送られてきた「とろろ昆布」をたくさん食べたからだろうと、笑い話のようなことになったりした。

 こういうのは、前述の近くの個人病院の態度とは真反対であり、見方によれば前広に懸念事項を告げてくれるから安心だと思える反面、逆にこれを余りやり過ぎると、羊使いの「狼がきた」の類と同じで、受診者が高をくくってしまって効果がなくなるという気がするから、これもまた、困るのである。病院選びは、ことのほか難しいと、改めて思った次第である。





(平成29年1月4日著)
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