1.管理会社の性格が変わる
私は、第1回の大規模修繕工事の時に理事長としてこれに携わったが、それから13年が経った。この数年、私自身が多忙のため管理組合業務にはタッチしてこなかった。 この間の大きな出来事として、管理会社の交代がある。それまでの電機会社系の管理会社が大手マンション会社の子会社(以下「新管理会社」という。)に吸収されて、担当者も一新されるなど、中身が全く別の会社になっていた。大規模修繕工事の観点からは、前者は管理や清掃業務だけの小ぢんまりとした会社で工事に関しては、何の知識も待ち合わせていなかった。だから「理事会がお好きにどうぞ」というスタイルである。従って何の干渉も誘導もなく、自分で国土交通省のマニュアルに従い、思う存分にできた。 ところが、後者の新管理会社は全く反対で、出来れば自社が主導で設計監理も工事も行いたいという姿勢であった。それというのも、親会社の傘下に大規模修繕部門があるから、当然といえば当然の動きである。要はここで、管理会社としての性格が大きく変わったと見るべきである。有り体に言えば、従来の管理業務や清掃業務では儲からないので、この修繕工事業務で儲けようとするのではないかと考えられる。 それを如実に感じたのは、2020年10月に後者の新管理会社が主導した説明会である。その場で配られた資料を見て、私は本当に驚いた。我田引水もいい加減にせよと言いたいくらいに酷いものだったからである。 2.責任施工か設計管理か それは、「責任施工方式」と称して自社が全てを請け負うことを企図し、前回私がとったような「設計管理方式」と対比する次のような図が添えられていたからである。つまり、「責任施工方式」の方が、設計監理会社が関与しない分だけ全体の工事費が安くなるという出鱈目な説明である。 だから私は反対し、「『設計監理方式』をとって、『競争入札』にするべきだ」と主張した。それだと、競争入札の分だけ安くなるから、設計監理会社に支払う費用などは、簡単にまかなえるからである。それをイメージ的に示した次の図をもって説明した。 3.競争入札の実施と結果 まずは、設計監理についての競争入札をするため、次の建築設計事務所3社からの見積もりをとって比較した。ちなみにこの3社は、大、中、小の規模で、理事会のメンバーが、それぞれのツテをたどって声をかけたものである。 (1)A 社 (Mさん推薦。大規模事務所)330万円 (2)B 社 (Sさん推薦。中規模事務所)340万円 (3)C 社 (Yさん推薦。個人の事務所)300万円 この段階で(2)が脱落して、上位2社すなわち(1)A社か(3)C社かの比較となった。ところが、もし(3)(一人事務所)を選んだ場合には、折からの新型コロナウイルス禍の中で、万が一、その先生に何かあったら設計や監理が滞るおそれがある。それに対して(1)の方は技術者が200人以上もいる大きな株式会社なので、そういう事態でも大丈夫だろうという点と、両者の差は僅かに30万円だから、それくらいは本体工事の入札で十分に取り返せるだろうという観点から、(1)A社に落札させた。まあ妥当な判断だったと思う。 そのA社が入札書類を揃えて、2021年6月から7月にかけて本体工事の競争入札を行ったところ、次のような結果となった。A社が、入札条件特に工事の実績と技術力についてかなりハードルを上げたので、結局のところ応札してきたのは、4社にとどまった。なお、この4社のうちには新管理会社が含まれているが、同社は技術力(塗装及び防水)が基準の2000点に至らない1951点だったために本来なら入札に参加できないが、これまでの経緯もあり、恩恵的に特に応札を認めたものである。 競争入札の結果は、次の通りだった(21年7月)。 (第1位)S工事会社 5,280万円 (第2位)K工事会社 5,390万円 (第3位)J工事会社 5,478万円 (第4位)新管理会社 6,017万円 このうち、第3位と第4位はこの段階で落とすこととなった。そこで、理事会のヒヤリングに呼ぶのは、(第1位)S工事会社と(第2位)K工事会社に決めた。当日、それぞれ責任者が現場監督候補者を伴って来てもらい、理事会の理事による面談と交渉を行った。すると、後者のK工事会社は、そもそも担当者クラスしか出てこなかった上、現場監督候補者が「応札書類に書いてある工事のスケジュールのようには進捗せずにもっと遅れる」というようなことを突然言い出した。加えて値引きの打診も、「当社は、ベストプライスを提示している」として、一切の値引きを断ってきた。 これに対して、(第1位)S工事会社は、最初から「スケジュールはやや遅れてこのようになる」として応札書類を正直に訂正してきたし、その内容も妥当と思われた。更に、値引き要求に対して、若干(50万円)だが、値引きに応じてくれた。また、大手ゼネコンであるS建設の100%子会社という安心感もあり、理事会としては、このS工事会社に落札させることを決定した。 ちなみに、この入札は、仮に当初の計画通り新管理会社へ工事を「丸投げ」していたとしたら、我々の管理組合がどれだけ損失をこうむったかを示す恰好のシミュレーションになった。つまり、(第1位)S工事会社に比べれば、(第4位)新管理会社の応札額は、737万円も高かったからだ。仮に当初の計画通り新管理会社に工事を「丸投げ」していたのならば、これが、そのまま管理組合の損失となったはずである。しかも今回の応札に当たり新管理会社は、他に応札企業があるということで、その分、少しは値引きして低い額を出してきたと思われるので、仮にこれが「責任施工方式」と彼らが称する単独請負だったなら、多分これ以上の額を請求してきたものと推定するのが合理的だと考える。だから、競争入札にしたことにより、おそらく1,000万円程度節約できたのは、まず間違いないものと推察される。これは、当管理組合の1年半分の修繕積立金に相当する。 そういうわけで、S工事会社に任せて工事は始まった。この段階では、もはや私は関与していなかったが、順調に進んだようで、完工した。新型コロナウイルスの時期を挟んだことから、前回の大規模修繕工事から15年が経過していた。 4.今回の入札で得た教訓 大規模修繕工事の前年初め以来、13階の部屋が上階からと思われる漏水に悩まされていた。状況からして合理的に考えると真上の14階の部屋からの漏水を先ず疑うべきなのに、新管理会社はその14階の部屋自体については当初おざなりな調査しかせず、原因はそれより外壁やベランダからの漏水だとしてそちらを修繕するように提案し、管理組合は何ら疑いもせずにそれに264万円もの支出をした。でも漏水は止まらなかった。 これを聞いた私は、その顧問という立場でたまたま出た理事会において、「それは真上の14階の部屋をまず調査すべきで、床を剥がして徹底的に調査を行うべきだ」と話したのだが、逆に理事長から「証拠があるのか。なかったらどうする」などと反論される始末。証拠がないから調べることを提案しているのにと思って呆れて放置しておいたら、その後1年近く経って、私の言う通り、14階の床を剥がして調べた結果、ようやく原因が14階の部屋の床下にある共用配管からの漏水だとわかった。長期間漏水の被害に遭った13階の人には大きな迷惑だ。 その補修を行い、それで本件は完全に解決したのだが、その費用はわずか45万円だった。つまり、新管理会社の言うがままに先に支出した外壁やベランダの防水工事費264万円は、全く無駄な支出だったのである。しかも金額が高い。今回の大規模修繕工事のうちの外壁のシーリング工事は、当マンション全体で596万円だから、14階分で割ると1階当たり42万円だ。それがなぜ264万円と、6倍近くに跳ね上がるのか、全く理解できない。 理事長も、なぜあれほど頑なに反論し、かつ解決までに長期間かかったのかと考えてみたのだが、おそらく264万円が無駄な支出だったことを認めたくなかったのかもしれない。しかし、合理的に考えると、「本命」として真上の部屋からの漏水をまず疑うべきなのに、わざわざ外壁や上階のベランダなどという「端の端」を疑ってそれから手を付けるというのは、これまた理解できないところである。 いずれにせよ、これからは、こういう補修は、たとえ小さなものでも、新管理会社に丸投げせず、個別に入札を行うか、あるいは少なくとも数社から「相見積り」をとって比較してから、工事を行わせるべきだと考える。これが、今回の大規模修繕工事の入札で得た大きな教訓である。 新管理会社は、下手に内部に修繕工事部門があるからこそ、こうして無駄な工事や過大請求をして管理組合の修繕積立金を持っていこうとする。だから、管理組合としては、心して立ち向かう必要がある。 (令和6年11月13日著) (お願い 著作権法の観点から無断での転載や引用はご遠慮ください。) |
(c) Yama san 2024, All rights reserved