I love walks at lunchtime on Saturdays.



合盛りのそば・うどん、けんちん汁を食べて20年、まだ飽きない


 私はグルメでも何でもないけれど、蕎麦・うどん、それにけんちん汁のたぐいは、この店「志な乃」以外では食べられなくなってしまった。この店に通い始めてから、もう長いもので20年近くになるかもしれない。それほど長いのに、この店の味は変わらないし、またこの店を上回るような蕎麦屋に出会ったこともない。平日のランチタイムには長蛇の列ができる。狭っこい店なので、一度に20人も入れば、もういっぱいである。どの人も頼むものはほとんど同じ。「合い盛」+「けんちん汁」か、あるいは「けんちんうどん(そば)」と相場が決まっている。

 もともと、東京は神谷町付近のサラリーマン相手の店なので、たいしたことはないといえば、その通りであるが、この店より味が上回るところがあったら、是非とも教えてほしいくらいである。狭い木戸のようなものを開けて店内に入り、小さな椅子にお尻を乗せて注文する。すぐに出てくるものは、濃い緑茶なのであるが、ひとくち飲んだら、何か渋い味が口の中に広がる。そしてちょうどその味が消える頃に、「合い盛」が運ばれてくる。これはもちろん、その名のとおり、蕎麦とうどんを一皿に盛り合わせたものである。一度これを見ると、何かほれぼれとする気持ちになる。なぜかというと、まず艶がいい。それに大きめである。蕎麦はいかにも「どうだ、食ってくれ」と言わんばかりであるし、うどんも讃岐うどん風にやや透明感があって、とってもうどんという気がしない。これらを四種類の薬味とともに、薄口の出汁につけてから口に運ぶと、本当に歯ごたえがあって、コリコリっとするかのごとくである。

 それに、私はこの店で始めて「けんちん汁」なるものを飲んだというか食べたけれども、この長野名物を始めて食べたのがこの店であったのが、あるいは不幸だったのかもしれない。他のどの店に行っても、けんちん汁がぜーんぜん、おいしくないのである。一度は長野市内で食べたけれども、こんなにまずいものかと思ってしまった。この店がなつかしく思い出される始末である。それ以来、よくよくこの店のけんちん汁を観察するに、どうやらその味の秘密は、材料の大根、にんじん、ごぼう、鳥肉などを、予め、ごま油で炒めているからではないかと思う。それから、そのみそ汁を厳選しているからだと考える。ともかく、百聞は一見、いや一味にしかず。まあ、食べて比べてみればわかるのである。

 というわけで、私は夏は冷たい「合い盛」と暖かい「けんちん汁」の組み合わせを頼み、冬はこれらが一緒になった「けんちんうどん(そば)」を注文するのである。とみかく、絶品である。けっこうな量だが、考えるだけで、口と胃の中とがおいしいと感じる。私はなかなか、東京を離れたくないが、こういう店があるのもひとつの大事な要素である。

 この店「志な乃」で提供される蕎麦うどんは、契約栽培農家から買い付けた粉を材料として、ご主人が一日7回ほど、一回に20分ほどかけて手作りをしたものである。蕎麦は、そば粉と小麦粉が8対2の割合だそうだ。どの世界でも、一生懸命に手作りすることは、今時おいそれとできるものではないが、その労力が、店の味に直結しているのは誠に良いことである。

 あるとき、まだうちの子供たちが小さい頃、この店に連れてきた。土曜日もやっているのである。息子はまだ小学校の5年生であったが、もともと蕎麦が好きなので、迷うことなく「盛り一丁」と注文していた。私はもちろん、「けんちんうどん」である。息子は、自分の頭ほどの量がある蕎麦にとりかかったと思うと、あっという間に食べてしまった。「まったく、何てヤツだ、味わって食べろという間もない」と思いつつ、私は自分のけんちんうどんをフーフーと冷ましながら食べていると、息子は、こちらをじっと見ている。「何だ、まだ食べられるのかい」と聞くと、「うん」とばかりにうれしそうに頷くではないか。そこで何を注文するのかと見ていたら、また蕎麦で、しかも大盛りを注文した。「大丈夫かいな」と心配になって見ていたら、とんでもない。また数分のうちに平らげてしまった。うーーん、恐るべし。こんな子供にも、わかってもらえる味だったとは。


(平成14年 3月 1日著)
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