This is my essay.







 娘が東京駅に行くというので、荷物を運んであげるついでに、われわれもタクシーに同乗して付いて行った。娘を見送ったあと、八重洲のパソコンショップであるアルファ・ランドに寄ってみた。ところが残念なことに、たまたま春分の日なので休みであった。仕方がないのでそのまま帰ろうかと思ったところ、家内が「あっ、そうだ。あれを買ってきましょう」という。私にはどうもピンと来なくて、それは何かなとおもっていたら「あれよ、あれよ、世界三大珍味!」。

 そういえば、以前に雑誌か何かで、東京駅に世界三大珍味である、フォアグラ、キャビア、トリュフの入った弁当が売られているという記事を読んだことがある。一日で50食限定だというので、なかなか入手はむずかしいらしい。しかし今ならお昼前の11時半なので、まだ十分に間に合う。じゃ、探そうということになった。しかし、よくそんな昔に読んだ記事を思い出したものだと思ったが、それはさておき、大丸だと覚えていたので、地下の食品売場に直行した。いやいや、弁当がいっぱいある。灘万、それにホテル何とか、中には1万5千円のものもある。しかし、いずれも日本風で、とても世界の珍味風ではない。これでは見つけるまでに時間がかかる。

 こういう場合は、人に聞くに限るということで、家内が案内嬢に尋ねた。すると、案に相違して、「大丸には、ございません。新幹線ホームの近くと聞いておりますが、まだ売られているかは承知しておりません」との由。まあ、優等生的な答えである。それで、切符を買って東京駅の改札の中に入った。新幹線のホームの前に行ったが、それらしきものは見当たらない。たまたま、駅員が通った。その人に家内が聞くと、弁当売場は左右にあるという。それで、その弁当売場に行ったが、鰻弁当だの、幕の内やサンドイッチ程度であり、ここにはないようだ。家内がその売り子さんにまた聞いた。すると、新幹線の改札の中だというわけだ。もうここまで来たなら執念に近いものがある。

 それっというわけで、東海道新幹線の改札前まで行った。たまたま、時刻表を抱えて制服を着たJRの女子職員が改札の業務用の扉を開けて、まさに入ろうとしていたところだった。家内が、その人に聞いたら、確かにここだと言ってくれ、しかもご親切に、「売り切れていないか、見てきましょうか」というのである。それで待っていたら、まだあるという。それで入場券を買って中に入り、二つ、買ってきた。やっと手に入れることができたのである。捜し物というか、まるで伝言ゲームのようなものであった。

 その世界三大珍味弁当の外見は、なかなか派手な印刷であり、手に持ったところ、とても軽い。値段は、わずか1,500円である。思ったよりはるかに安い。さあ、どんな味だろうかと楽しみして、家路についた。実は私は、フォアグラやトリュフは、フランス料理なので何回も食したことがあるが、ロシア料理とりわけキャビアに関しては、ホテルのパーティで何度か口にしたくらいで、しっかり食べたという経験がないのである。もっとも、これまでにたった一度だけ、それも口の横を通り過ぎたことがある。というのは、ロシアへ赴任した友人がいて、それが帰ってきた時の歓迎の食事の席のことである。大学時代の親しい友人が何人か集まって、ホテルの一角で食事をしようということになった。その人は、おみやげとしてロシア製のキャビアの缶詰をひとつ持参し、厨房のコックが食事用にアレンジしてくれることとなった。しかし、いつまで経っても出てこない。そのうちに、コックが走ってきて、「これ、中が腐っているようですが」とのこと。その人は、「ああ、だめなヤツだった。ごめんなさい。よくあるんだ、こんなことは」と言って、せっかくの私のキャビア経験は、未達成に終わったのである。というわけで、今回のお弁当のキャビアには期待を寄せた。さて、中を開けてみた。こういうメモがあった。


 
     「世界三大珍味BENTO」

   2000ミレニアムを記念して、20世紀を彩った
   話題の高級素材「キャビア」、「フォアグラ」、「ト
   リュフ」をはじめ、「ローストビーフ」や「ムール貝」
   などで作った新しい洋風弁当です。
      〜 Menu 〜
     ・キャビアクロワッサン
     ・フォアグラペースト
     ・マッシュルームトリュフ添え
     ・ローストビーフ
     ・ムール貝のマリネいくら添え
     ・カマンベールフライ
     ・ズワイガニのサラダ
     ・にんじんマリネ
     ・パンプキングラタン


 左下に、問題のキャビアが乗ったクロワッサン、サラダに塗られたフォアグラペーストがある。いずれも、ごく、ほんのちょっとの分量であるから、キャビアとかフォアグラの味というより、むしろそれが乗っかっているクロワッサンやサラダの味の方が口に残ってしまう。これを称して、本末転倒の味とでも言おうか。それから、トリュフであるが、この小さな茶色の四角いものがそうなのかもしれない。これも、お宿を借りているマッシュルームさんの味ばかりで、どうもよくない。残念ながらこの三大珍味というのは、実は客寄せであったらしい。

 しかし、箸を進めて、左上のローストビーフに挑戦した。厚さはもちろん薄いが、面積は大きい。それにタレと西洋ラディッシュをかけて食べた。いや、これは結構おいしいものである。その上に乗っているアスパラ二本も、味はよろしい。次に右下のムール貝は、酸っぱいが、生の味で、これも合格である。ズワイガニのサラダの量はごくわずかだが、まあまあよろしい。ただし、パンプキングラタンは、その量がすくないので、味わうとまではちょっと足りなかった。要するに、パーティおいて食前にカナッペなどデザート類を少しずつ、つまんでいる感じである。というわけで、最終的に講評をすると、三大珍味というより、これはローストビーフにパーティのおつまみを入れた弁当といった方がよろしいと思う。

 ところで家内の評はというと、「全部冷たい生ものなので、地方の旅館に行って、夕食の何時間も前から並べられて冷たくなってしまっている料理という感じ。当たると怖いわね」ということで、残念ながら、合格点以下であった。しかし、まあ、話の種にはなるかもしれない。東海道新幹線に乗る機会があったら、一度ぜひお試しあれ。


(平成13年 3月20日著)




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