This is my essay.





目 次
 
プロローグ
 ロースクールの二つのコース
 インターネット検索
 ロースクールの選択
 TOEFLの受験
 願書の作成
 合否の通知
 ビザ取得と出発まで
 親の願い
 
卒 業 式



プロローグ

 ある日、米国の大学院に留学しようと思いついたら、いったい、どうすればいいのだろう。だれでも考えつく一番安直で確実な方法は、四谷、神田、五反田などにある留学専門の予備校に行くことである。しかし、「そんなんじゃあ、まったく面白くない。ひとつ、自力でやってみよう」という方に、ヒントを差し上げたいと思う。私の息子の場合も、結局すべて自力頼みとなってしまったので、忙しい勤務のかたわらで約一年間ほど七転八倒しながら努力し、何とか留学にこぎ着けた。それを私は脇で見ていたわけである。本人は近く、米国東部海岸に向けて旅立つことになり、心底ほっとした。まあ、これから1000万円くらいはかかるが、それはともかく、合格と出発という当面の課題は何とか乗り切ることができた。これに至るまでは、横で見ていた私にとってもなかなか得難い経験であったので、備忘録にでもと、ここに記録しておきたい。

ロースクールの二つのコース
 うちの子が、米国に留学してみようかという気に突然なったのが、昨年5月末の頃であるから、その思いつきからほぼ一年間で出発にこぎ着けたことになる。留学といえば、普通の会社員ならビジネス・スクールでMBAをとってくるというのが通り相場であるが、彼の場合は法学部であるから、ロースクール(法科大学院)ということになる。

 調べてみると、ロースクールではJD(Juris Doctor)という3年コースが一般的であるが、外国人留学生の場合はLL.M.(Laws Masterのラテン語)なる1年コースをとる場合が多いらしい。ここがひとつの分かれ目である。アメリカの法廷映画で活躍するローヤーはもちろんJDの出身である。つまり、そのままアメリカに居残って弁護士稼業をするのなら、JDは不可欠らしい。入学にはTOEFLという英語テストのほかに、LSATという共通一次試験のようなものを受けなければならない。確かに、英語も3年ほどやらないと、身に付くはずがない。

 それではLLMは何かというと、これは主として外国人ローヤー向けの1年(正確には9ヶ月)コースであって、TOEFLだけで済むし、アメリカ法の概要を教えてくれる程度で修士の資格をもらえる。そのうえ、ニューヨーク州の弁護士資格をとることができるとのこと。それも、日本の司法試験のようなラクダが針の穴を通るような合格率ではなく、普通にやっていれば日本人の場合は約40%の合格率だという。これは、なかなか魅力的であるが、果たして一年で英語が身に付くかというと、そんなはずはない。ということで、いろいろと考えた末、これが終わってから一年間、どこかのローファームで研修をさせてもらうことにした。まだ、あてはないが、何とかなるだろう。なにしろチャンスと夢と希望の国、アメリカだから、さあ気楽に行こうぜというわけである。

インターネット検索
 さて次に、どんな手続きが必要なのだろうと思って、まず、本を買いに行こうとした。しかしその前に、試しにまず、インターネットで検索してみることにした。いやいや、びっくりしたのって何のって、本当に驚いた。必要な情報はほとんど無限に何でもあったのである。これでは、本が売れないわけだ。まず、経験者のホームページをいくつか見させてもらうと、まあ懇切丁寧に手取り足取り教えていただける。あれこれ探してみたが、竹下 香さんという方のものが最も役に立った(
http://netpassport-wc.netpassport.or.jp/~wkaoritk/index.html)。その項目だけをご紹介すると、
 1.入学資格
 2.選考基準
 3.入学準備
  @ 学校の選択・絞り込み、
  A 願書の入手、
  B TOEFL受験、
  C 出身校の証明書取得、
  D 推薦状取得、
  E 願書の記入、
  F エッセーの作成、
  G その他の提出書類、
  H 受験料の払込み、
  I 書類の送付、
 4.願書提出後
  @ 渡米準備
  A ビザ取得
  B 予防接種
  C 日本から持参すべき物

 確かに、これらがすべて、超えなければならないハードルなのである。ひとつひとつ確実に、かつスケジュールに遅れることなく、そして、受験する大学のすべてについて、手続きをしなければならないという、一大プロジェクトなのである。考えただけでも「大変だ」という気になるが、実際やってみると、それどころか想像以上に大変だったというのが本人と脇で見ていた私の、正直な感想である。

 ところで、このほか参考になった日本語のものとしては、次のようなホームページがある。
 1.まずアメリカでの大学生活を生き生きと描写しているものとして、
  @ 
http://member.nifty.ne.jp/tokyo-wind/hand/index.html
  A 
http://www.suzukinet.com/
 2.合格通知が来たかなどという情報がリヤルタイムで交わされているものとして、
    
http://www.mbanavi.com/ (MBA、大学院の情報交換)
 3.全米各地の留学生活情報を知るものとして、
    
http://www.drkazu.com/index.htm 
   (これはボストン地区のもの。ロスアンゼルス地区は上記1.A参照)

 などがあり、このほかにもいろいろとあって目移りがして困るほどである。インターネットによるこのような手厚い情報がなければ、とても留学などはできなかったであろうと思う。加えて、出願先の大学から願書を取り寄せるのに、郵便はもはや必要なく、すべてインターネットのホームページからダウンロードするという形式である。ちょうど自宅にADSLを導入したことが功を奏して、その圧倒的通信能力を全面的に活用させてもらった。これがなければ、留学は不可能ではなかったかとさえ思われる。また、大学からの合否の知らせも電子メールであるし、こまごまとした打ち合わせも電子メールという具合である。東部との時差が14時間であるから、こちらが夜にパソコンを開けば、先方はその日の朝が始まるという具合で、誠に具合がよい。それにアメリカの大学の事務手続きはいいかげんなことが多くて、出願書類を紛失されるというのもザラだという。実際、息子の場合も経験した。ということで、電子メールでのやりとりは、いまや不可欠なのである。

 ところが、インターネットもいいことずくめではなく、場合によっては思いがけない事件が生まれることもある。これは今年の上記2.に載った実話であるが、3月になって、ミシガン大学からようやく待望の合格通知が送られてきた。喜んでいると、30分ほどして「すみません。あのお知らせは間違いでした」という電子メールが舞い込んでいて、呆然としているとさらに2〜3日して「あなたは不合格です」というメールが来て、遂に突き放されたと怒っている人が数人いた。人ごとながら、笑い事ではない。

ロースクールの選択
 それはともかく、英語のTOEFL試験を受ける一方で、ロースクールの選択を始めていった。これで役に立つのが、アメリカのUSニュース社のランキングである。全米183校がいろいろな尺度で数値化され、それが合計されて順にならべられている。それらは、インターネットの次のアドレスで簡単に見ることが出来る。
http://www.usnews.com/usnews/edu/grad/rankings/law/brief/lawrank_brief.php

 しかし、まずこれは、JDのランク付けであって、LLMのランキングではないことに注意すべきである。ただ、これを見ていくと、そのロースクール全体の状況が少しなりともつかめそうである。トップ校に近くなるほどGPAという学部時代の成績が猛烈に上昇しているし、学生一人あたりの教官数にも余裕が出てくる。大都市にあるところは弁護士試験の合格率も高い。それに、何と卒業生の平均初任給まである。民間に行ったトップ校出身者は、10万ドルから12万ドルだ。ところがトップ50校でも、田舎にある下位校では4万から6万ドルというところだ。こんなところまで調べるのはいささか露骨であるが、受ける側からすれば実用的で、いかにもアメリカらしい。またおもしろいことに、このUSニュース社のサイトでは、一度に四つのロースクールを横並びで比較できることが可能である。この機能を使うと、指標となるロースクールと、それと比較したいところとを横に並べてみることができる。誠に便利である(しかし、残念ながらつい最近になって、このUSニュース社のサイトを覗くと、すべてリニューアルされていて、ごく一部の上位のロースクールについてしか情報を開示してくれなくなっていた。どうやら、この件についての本を出版したので、それを買ってもらいたいらしい)。

 そういうわけで、ロースクールにある情報は、インターネット中にじゃぶじゃぶあるということが判明したので、このランキングを参考に、次の方針で選んでいった。
 @ 日本でも有名な大学であること、
 A ランキングが比較的高くて大学として評判がいいこと、
 B 教育環境としての大学所在地が良いところであること、
 C 勉強したい科目があってJDと分け隔てなく勉強できること、
 D ニューヨーク州弁護士試験が受験できそうな雰囲気であること、
 E 自分のTOEFLの英語の成績、学部時代の成績がその大学の最低ラインを上回っていること、

 といった調子である。それで15〜16校を選び、さきほどのUSニュース社のサイトからその学校の名前をクリックすれば、ダイレクトにそのホームページにつながるという便利さである。たとえば、
  ハーバード大学は、 
http://www.law.harvard.edu
  ニューヨーク大学は、
http://www.law.nyu.edu
 ちなみに、竹下香さんの情報として「日本人が行ってるとして比較的耳にするのは、Harvard, Chicago, Columbia, Michigan, UC Berkeley, NYU, Duke, Pennsylvania, Cornell, Georgetown, Northwestern, UCLA, Univ. of Illinois, Univ. of Texas at Austin, George Washington, Univ. of Washington, Boston Univ., Tulane 等です。」というのがある。

 そうやって、手分けしてそのロースクールのホームページを調べ、印刷できるものは、すべて印刷を試みた。この印刷物は大量にできてしまい、紙を1000枚以上は使ったのではなかろうか。夏の暑い時期なのでプリンターが悲鳴を挙げていたが、壊れずに何とか乗り切った。その上で、これらをひとつひとつチェックしていった。そうすると、雰囲気が少しは分かってきて、たとえば難関校のハーバード大学は、ボストンという古くからの大都会にある。ここは京都と姉妹都市で、アリー・マイ・ラブの舞台となっているところだ。ただ、この大学は、官庁出身か大学教員志望か、それとも寄付をしている特定の商社関係者ぐらいしか受け入れず、なかなかむずかしいところらしい。

 ニューヨーク大学は、もちろんニューヨークの真ん中にあるが、学費はともかく、生活費も相当かかるらしい。私費留学には鬼門である。アイビー・リーグでフィラデルフィアという都会にあるペンシンバニア大学も、なかなか捨てたものではない。コーネルもまた、イサカという田舎町だが住みやすそうだ。カール・セーガンの宇宙ばかりが有名ではないらしい。ボストンには、カレッジとユニバーシティとの二つのロースクールがある。BC、BUと言うらしい。ランキングはほぼ同じだが、名前がすこし紛らわしい。後者の方が中心部に近い。上中位校だが、ノートルダム大学というのもあるが、フランスの大学かなにかと間違われそうだ。ノースカロライナのウェイク・フォレストという大学は、文字通り森の中にあって、日本人留学生が数人在籍し、学長を囲んでどれも楽しそうにやっている。ほのぼのとした田舎の良い雰囲気が出ている。下位校ではあるが、ニューオリンズにあるチューレーン大学というのも、国際法関係では一世を風靡したことがあったなぁという調子である。

 それやこれやで、結局、9校を選択して、インターネットから募集要項の最新のものを取り出し、これらに応募することにした。ここに至るまで、大車輪でやっておよそ一ヶ月強かかった。何しろ、大枚をはたいて貴重な一年間をすごすわけであるから、慎重に選択をしなければいけない。たとえ滑り止めの学校でも、いざというときでも、どこかに取り柄があって、そこに行ってみようという気が起きるロースクールでなければいけない。ただ闇雲にランキングだけに頼るということはしない方がよいと、アドバイスしたのである。学校や留学予備校に通っているのと違って、こういうことをひとりでやっていると、横との比較ができない。それに比べてロースクールの方は、もちろん一度に大量の受験者を相手にするのだから、横並びで比較して合否を決めるわけである。そういう意味で、留学予備校に通っていない受験生は、自分の位置づけがわからないので、心配なのである。しかし逆に、金太郎飴のような他の受験者と違って、出願書類はオリジナルなものとなり、大学側に自分の個性がわかってもらえるのではないかという利点もある。

TOEFLの受験
 さて、そうした作業と併せて、本人はTOEFLの受験を進めていった。これは本人に聞くしかないが、ちょうど去年の中頃から試験の方式がコンピューター化されてしまって、日本人にはいささか厳しくなったみたいである。それまでは、私のころ(というと相当以前)と同じことが言われていた。つまり、日本人は文法で百点、ボキャブラリーでまあまあという点を取り、これらをもってリスニングの低い点を補うというものである。しかし、昨年から始まったCBT(Computer-Based Test)というコンピューター化のおかげで、試験の中身も何も、まるで一変してしまったらしい。

 まず、試験は毎日行われている。ええっと、びっくりするかもしれないが、運転免許の試験だと思えばわかりやすい。何万もの試験問題を入れ替わり立ち替わり使っているのである。それに、絶対にカンニングはできない。ななぜなら、その席に座ったコンピューターごとに問題が違うからである。それに、エッセイという作文をしなければならない。そんなもの簡単だと思うが、30分で英作文をして、それを目の前のコンピューターに打ち込むのだという。なるほど、合理的であるが、普段からキーボードへのアルファベットの打ち込みに慣れていない人には、作文だけでも大変なのに、それを綴りに間違いのないように気を付けながら30分で入力するというのは、なかなか骨が折れる課題である。分量がA4に一枚半ほどのものが必要なので、のんびりやっていると一時間はかかってしまう。しかも、その中身が大切である。

 うちの子は、まず市販の試験問題と録音テープを買いに行って、およそ二ヶ月勉強の上、受験してみた。何しろ高校以来の英語の勉強だったので、面食らったそうであるが、それでも、何とかロースクールで拾ってもらえるくらいの成績が出た。同じ月に二回の受験はできないとされているので、翌月受けたところ、今度は何と、成績が下がってしまった。原因はというと、やはりその作文にあった。前回は、たまたま出た問題が自分のフィーリングに合ったので、満足いくものが書けたそうだが、今回の問題は、そうはいかなかったらしい。しかし、作文の点は、300点満点の中で、50点以上のウェイトがあるので、この善し悪しが関ヶ原というわけである。

 何とか短期間で成績が良くなる手はないかというわけで、相談に乗った。すると、もう問題があらかじめ発表されているというではないか。その数は、たかだか300問もないらしい。「それなら、その全部を事前に作文して、頭にたたき込んでおけばいいんじゃないの」というと、「いや、それは大変だ」という。どれどれ、ということで問題をみせてもらうと、確かに、そのとおりである。問題の例をいくつかを挙げると、

 
問1. あなたは、テレビが友人や家族との話し合いの機会を奪ってしまったという見解に賛成ですか、反対ですか。具体的理由を挙げて論じなさい。

 問2. 新しい土地を訪れたときに、たいていの人は美術館や博物館に行きますが、これはなぜだと思いますか、具体例とその理由を挙げなさい。

 問3. あなたの家の近くに新しいスーパーマーケットを作る計画が明らかになりました。あなたはこの計画に反対ですか、賛成ですか。具体例と理由を挙げて説明しなさい。

 なかなか良くできた問題である。気の利いた答を日本語で書くのも難しいくらいである。人生経験と社会常識がなければ、高い点をとることはむずかしいだろう。何も思いつかなければ、あっという間に試験時間の30分くらいはすぐに経ってしまって、おしまいとなる。そこで私のアドバイスは、300問のすべてについて、@英語でなくてよいから日本語で論理の進め方を考えておくこと、A起承転結を明確に書き、とりわけアンチ・テーゼを挙げてそれとの対比で書くこと、B必ず一般論を書いてから具体例を挙げてあてはめること、の三つにし。

 たとえば問3.の場合であると、
 
(下手な答)「近くにスーパーマーケットができると、買い物が便利となり、街が活性化するので大歓迎。従業員の雇用創出効果もある。」
 ところが、これでは全く話にならない。次のように、対立する概念をぶつけることによって、論理に厚みと奥行きができる。

 
( 良い答 )「近くにスーパーマーケットができると、ワンストップ・ショッピングができるようになり、しかも新鮮、安全、合理的な価格での買い物が可能となり、とても便利となる。しかし、その反面、近くの小さな商店街が影響を受けてしまうという問題が生ずる。いままで、これらの商店街は、店主とお客との人間的なやりとりを通じて、地域コミュニティーへ貢献していたが、そのようなヒューマンな要素が全くなくなってしまうのは、いかにも惜しい。そこで私は、新しいスーパーマーケットができることは消費者利便に資するので歓迎であるが、こうした従来の商店街が果たした役割にも目を向け、たとえばそのスーパーマーケットのテナントとして入って貰うとかして、地域コミュニティーの維持発展にも気配りすべきである」とでも書けば、私だったら100点を差し上げたい。もっとも、これを英語にするのは、たいへんではあるが、論理が明確なら、わかってもらえるはずである。

 それで、うちの子は、このような作業を一ヶ月ほど続け、TOEFLを受けてみた。するとおどろいたことに、このエッセイの点数が、20点近く上がってしまった。300点満点中の20点であるから、それは大きい。しかし、後で聞くと、たまたま前々日に作った英作文の問題が出たのだという。笑い話のようであるが、まあ結構、運も実力のうちである。これで、どの学校にも大手を振って出願できるようになった。英語の勉強を5年ぶりに始めてわずか3〜4ヶ月にしては、まったくもって上出来である。

願書の作成
 それでは、ということで、集めた願書を二人で穴の空くほど見つめた。すると、どうやら、出身大学の教授の推薦状は必須で、そのほか学校によっては勤務先の上司の推薦状が求められている。それにエッセイ、つまりなぜこの大学を受け、何を勉強したいのかというものも書かなければいけないらしい。

 推薦状・・・困ったというのが実感だったらしい。うちの子の出身大学は、大教室での講義が主で、あまりゼミなるものがなくて、数は限られているらしい。国立大学にありがちな弊害である。それでも、かろうじてゼミの一つには入っていたので、教授一人にはお願いできるようだ。しかし、ロースクールによっては教授二人の推薦状が必要となっている。仕方がないので、ゼミ以外で、よく知っていただいている教授にお願いした。息子が自分の履歴と一応の素案をお持ちしてお願いしたところ、快く引き受けていただいた。しかも、そのうち、おひとりは、「何だ。こんなものは、もっと大げさに書くものだよ」と言ってくれて、全面的に書き直して送ってくれたという。有り難いことである。

 エッセイねぇ・・・またエッセイかという感じである。しかもこちらの方は、合否に直結するので真剣にならざるを得ない。息子は、どこからか、本を見つけてきた。その名も「大学院留学のためのエッセイと推薦状」(Space ALC)というものである。ちょっと古いが、これは面白い本であった。なるほど、こういう風に書くのかと、目から鱗がおちるがごとくである。中にはそのまま書き写すヤツが出てくるのではないかと思うほど、良く出来ているのである。自分の履歴、大学で何をやってきたか、今の仕事で何を身につけたか、貴ロースクールでどういう科目を勉強したいか、それは、自分の人生目標(Goal)上でいかなる意味があるのか等々の順に書くらしい。中にはお涙ちょうだいのようなものすらあって、ほろりとさせられるものすらある。息子は、これらを手本にちょっと書いてみたが、迫力のないことおびただしい。日本人の平均的大学生にやらせると、皆こうなってしまうだろう。しかしそれではアメリカの大学には通じない。舞台の上で演技するような気分で、もっと大仰に書けないか、全体を一貫するテーマで書けないかなどと模索して四苦八苦し、ようやく6頁ほどのものを書き上げた。

 ちなみに、「ネイティブ・チェック」つまり教養ある外国人に見てもらうのが普通だと聞き及んだので、書き上げてしばらく経って、私の友人で株屋さんの若いオーストリア人に見てもらったが、どうも勝手が違ったらしくて、ごく一部だけ変な英語にしてくれただけであった。結局それは、どうも豪州なまりのような気がしたので、採用しなかった。次に、日本人の留学経験者にも見てもらったところ、「ちょっと長いなぁ、できたら2〜3頁なんですけどねぇ」と言われたが、息子はもうこりごりという感じで、とても短くする気など起こらずに、そのままになってしまった。しかしこれであちこちの大学に出して合格してしまったのだから、何というか、世の中、面白いものである。なお、インターネット中に、何とこうしたエッセイを添削してあげるというサービスがあった(
http://essayedge.com/law/)。ちょっと覗いてみられたらよい。ハーバード大卒の人のチェックだという。確かに、例文はよくできているが、あまりに良く出来すぎていて、かえって使えないだろう。何しろ、合格しても、すぐメッキがはがれてしまうではないか。

 あと、細かい点ではあるが、日本の大学の場合と違って、いろいろと面食らったことがある。たとえば、GPA、アウォード(賞)それに履歴書(Resume)の書き方である。

 GPAとは、その人に学部時代の成績を計算したもので、アメリカの大学ではごく一般的なものである。これによると、USニュースランキング一位のイェール大学は、3.77〜3.93ということである。これだけだと、内容がよくわからないが、東大法学部の場合だと、A=4.0、B=3.0、C=2.0ということにして計算すると、何とこれは、ほとんどAという成績と出る。なるほど、これは面白い基準である。ただ、偏差値のような大学間の格差というものも考慮すべきだとは思うが、それはそれとして、少なくともその大学内での相対評価は判断できるので、使われているのだろう。ちなみに、日本の大学、特に国立大学では、GPAを出しているところはない。私立では、ICUと上智大学の一部の学部だけらしい。というわけで、ロースクールの願書の中にはそれを書けという欄があって、困ったが、うちの子の場合は、上記のような換算式を自主的に使ったと明記して、とりあえず計算して書いておいた。

 次に、願書の中で、これまで獲得した賞とか何かを書けという欄があった。どうやらアメリカの大学は、映画などでもあるように、学生に知的刺激を与えようと「・・・Award」(賞)というものを、何かにつけて出すらしい。これも困った。いろいろと思い出してみても、うちの子の大学は国立ということもあって、そもそもそのような栄誉をいただく機会などは全くなかった。本当に日本の大学は、教育をさぼっていると思う。世界の水準と比較して、相当に立ち後れているのは明らかだ。独立行政法人にでもなれば、少しはよくなるかもしれない。まあそれはともかくとして、仕方がないので、高校3年の受験時代にちょっと通った予備校で、成績優秀者に対する学費免除の対象となっていたことを思い出した。これは奨学金と言っても間違いではない。じゃ、それで行こうと書き込んだ。それから、全国統一模試の数学で、二番となったことも思い出した。よし、それも書こうということになった。何でロースクールで数学かという気もしたが、この際そんな贅沢は言っておられない。白紙よりはいいだろう。次に、大学時代にテニスの関東選手権でかなり上位になったことも思い出した。何だ、いろいろとあるじゃないと言いながら、これも書いた。

 それで、履歴書について、単に入学と卒業年月の羅列では、面白みがなくて、印象が残らない。何かないのかと言うと、そういえば、テニス同好会の副会長をさせられた、法律勉強会の主宰を4年間やった・・・、よし、いいぞ、というわけで、これらはリーダーシップを表す具体例だとばかりに、それらを徹底的に書き込んだ。自分で、少し気恥ずかしくなるくらいに。何しろ、アメリカは自己PRの国だから、それができないとやっていけないというわけである。

 最後に、財政証明書なるものがある。大学によっては、合格が通知されてから、I−20というビザをもらうための書類を発行する前にそれを求めるのが普通である。しかし中には気が早くて、もう出願段階から求めてくる大学もある。これは、在学中に学費が十分にあるという証明で、具体的には自分名義の銀行の預金残高証明書(英文)を揃えることである。その必要額は、当該大学が都会か田舎か公立か私立かなどで相当に違う。高くて、約6万ドル、普通なら4〜5万ドルくらいであるから、今のレートでは約600万円ということになる。足りない場合は、金策に走り回るということになるが、結局のところ私が支えるので、私と息子の間で、口座の移し換えをやっただけであった。

 さて実際に証明書を発行してもらうときには、銀行の場合は、頼んでから2〜3日もかかるし、手数料もとられる。10校ともなると、結構な額である。しかし、郵便局の場合は、行ってその場で英文証明書を発行してもらえるし、しかも無料である。唯一の欠点は、用紙が汚いということである。つまり、どうやらコピーにコピーを何回も繰り返した用紙に書き込むので、証明書が美しくないのである。そこで息子は、まずその用紙を自分できれいにタイプし直し、自分の住所氏名を既に打ち込んだ用紙を使って証明書を作ってもらった。これが一番よかった。

 かくして、いずれの学校にも出すべき書類がようやく揃い、アメリカ向けに送る段階となった。すべてを揃えて送って良いという大学には、DHLというデリバリー・サービスを使った。一件4,000円であるが、これがまた早くて面白い。電話するとすぐに取りに来て(早いと10分以内、遅くても30分以内)、もっていったと思ったら、インターネットでいまどこにその荷物があるのか、随時追跡ができるのである。次のアドレスに、ボックスがあるから、その中に送り状の10桁の番号を入れると、たとえば、以下のような表示が現れる。時差はあるものの、2日くらいで着くので驚きである。 
http://www.dhl.co.jp/

 November 19, 2001 14:37
     Tokyo - Japan Shipment picked up
 November 19, 2001 20:20
     Tokyo - Japan Departed from DHL facility in Tokyo - Japan
 November 20, 2001 04:45
     Cincinnati, OH - USA Arrived at DHL facility in Cincinnati, OH - USA
 November 20, 2002 06:55
     Boston, MA - USA Scheduled for delivery
 November 20, 2002 09:57
     Boston, MA - USA Shipment delivered


 ところが問題は、たとえば推薦状や出身大学の成績証明書は、願書とは別々に送れという指示がある大学の場合である。特に推薦状などは、本人による偽造を懸念しているらしい。それはいいのだが、別々にして送ると、郵便だからちゃんと届くのかなという一抹の心配があった。やってみるとやっぱり、ある大学からは「三人の推薦人のうちの一人からまだ届いていない」という電子メールの連絡があった。どれも、同時に出したのにと思ったわけであるが、幸いその推薦人は教授ではなかったので、「またその人にお願いするのも面倒だし、そもそも出願手続き中で必須となっている二人の教授ではないので、再送しなくていいでしょう」と打ち返したら、あなたのおっしゃる通り、それでは結構ということになったらしい。何でも言ってみるものだ。

合否の通知
 というわけで、去年11月にはほとんど出願を終えて、果報を待つのみとなった。出願書類がすべて揃うと、先方の大学からコンプリートという通知が来る。これが来ない場合は、何か問題が発生したときである。事実、TOEFLの成績がまだ来ていないというものが多かった。TOEFLのテストは、受験したときに、どこの大学に送るかという欄があって、そこに四大学分だけ記入できるようになっている。ところが受験する大学はそれ以上の数なので、その追加分を成績通知が来ると同時に、ETSというその試験実施機関のニューヨークのオフィスに電話して、送ってくれるように手配しなければならない。ところがこのETSはのんびりしたもので、いらいらさせられるという場面も少なくなかった。あるときなど、何回やっても行かないので、よく調べてみたら、その大学用のコード番号がロースクール用のものと違っていたということすらあった。これでは着かないわけである。

 そうこうしているうちに、ある中位校からは、もう12月に入ってすぐに合格の連絡が来た。電子メールである。家族全員で(といっても四人しかいないが)、お赤飯を炊いてお祝いである。ともかく、行き場所を確保したことの意味は大きい。そのうえ、そこの学部長さんからは、積極的な勧誘が電子メールで送られてきた。まったくもって有り難い限りである。ところが、せわしないことに、1月15日までにデポジットを払えという。そのメール中に書類を送ったから記入して返送せよということで、待ったがなかなか送って来ない。ようやくクリスマス前に封筒が送られてきたが、待っていた書類とは違う。ひょっとして別に送られてくるのかと思ったが、年末近くになってもまだ来ない。間違いかもしれないから、やっぱり聞いてみようということになり、その学部長さんに直接、電子メールを出して状況を説明した。すると案の定「ごめんなさい、事務の人が入れ忘れた」ということだった。年明けに、FeDexでやっとその書類が届き、返事ができたのには家族一同ほっとした。アメリカの大学は、これがあるから油断がならない。

 それから年明け後に別の大学から電子メールが入り、電話でインタビューをしたいという。息子は、何やら想定問答なるものを一生懸命に用意していた。そしていよいよ運命の日、東部時間の朝10時15分に電話せよということだったので、日本時間では真夜中の0時15分に電話をかけた。約30分のインタビューである。なぜこの大学を受験したかから始まって、最後はバスケットボール・チームの話で盛り上がって終わったらしい。というわけで、どうやら先方に気に入られたようで、翌々日、合格の知らせを電子メールで受け取った。

 それ以降は、どこからも3月まで何の連絡もなかった。3月の中旬以降、ぱらぱらと手紙やら電子メールやらで連絡が入り、合格もあれば、補欠(waiting)というのもあった。このあたりの状況は、
http://www.mbanavi.com において、詳しく情報交換がされているとおりである。最後の合否通知は、4月中旬に受け取った。当然のことであるが、ランキングの中下位校からの合格通知は早くて、相当の上位校の場合は遅い。これもセオリー通りであろう。

ビザ取得と出発まで
 さて、行きたいロースクールに対して「行きます」と返事をして200〜300ドルの預託金(デポジット)を支払うと、I−20なる書類が送られてきた。これは、在日米国大使館に対して学生ビザ(F−1)を申請する書類である。赤坂の大使館の門の前の守衛さんのところに行ってビザ申請用紙(DS−156、DS−157)をもらい、それに添付して提出するための書類である。このビザ申請用紙がまた面白い。特に、DS−157は男性だけに求められる書類で、「火器、爆発物、原子力、生物学、化学における専門的技能がありますか」「兵役の従事したこと、武力衝突に関与したことはありますか」という質問項目まである。こんな項目は、ニューヨークにおけるWTCの9月11日事件以前にもあったのだろうか。

 ロースクールからは、DS−156を書く場合の注意事項まで送られてきた。それによると、米国領事の査証審査のポイントは、この人物は学業が終了した時点でちゃんと自国に戻ってくるかどうか、換言すると将来米国に不法滞在する可能性がないかどうかということだという。そのため、家族の絆、仕事の絆、将来計画の確かさなどがチェックされるというのである。ふむ、こういうことを知らないと、確かに失敗しそうだ。というわけで、カバーレターにしっかりと「学業終了後は、日本に帰ってきてこれこれの道に進みます」と明記し、再び財政証明書を添付して出した。念のため提出書類を私もチェックしたが、間違いはなかった。約2週間弱して、ビザは交付された。

 一方、この大学では、夏期講習(サマー・スクール)というものがあり、新学期が始まる前に、法律用語を勉強させてくれるとのこと。そこで、これに申し込んで、行くこととした。そのために、海外旅行者保険とか、予防注射とか、郵便為替での学費の支払いとかの手続きをしなければならない。ところで、この郵便為替(Postal Momey Order)には参った。これまでは、出願費用やデポジットとして支払ったことしかなかったが、それらは多くても200ドル程度であったので、これで十分に用は足せた。ところが今回は、夏期講習分の4、000ドルの支払いであった。頼まれた私は、てっきりその4,000ドルの為替小切手を作ってもらえるものと信じていたが、窓口で頼むと、何と一枚の最高額が700ドルだという。これで注文の額にするには、6枚の為替小切手が必要だ。仕方がないので、6枚を作ってもらったところ、今度は、一枚一枚に、相手と自分の名称と住所を書けという。同じ事を6回も書く羽目となった。もうこれでは、たまらない。

 予防注射も、あまり時間的余裕のないときには困りものである。何回も予防注射をする場合には、一定の期間をおいて注射を受ける必要があるし、この間、体調が悪くなったりもする。しかし、母子手帳があれば、非常に助かる。これに書かれていない予防注射だけをすればよいのである。これらの書類を保健所等に持っていって、英文の証明書を作ってもらえば、それで完了する。

 あと、出発前までの期間、何やらいろいろと準備する必要がある。私は横で見ているだけだから細かくは知らないけれども、持っていきたいものが相当あったらしいが、何しろエコノミーなので預ける荷物はたった一個、そのために泣く泣く諦めざるを得ないものが相当あるらしい。まあ、旅は身軽なのが一番である。ちなみに、驚いたのが、航空券の値段である。片道を買うよりも、往復を買った方が大幅に安いということが判明した。たとえば、ニューヨーク往復の普通料金が片道22万円であるのに対し、割引運賃(JAL悟空28)往復だと8万円くらいである。結局、こちらを買って、その帰りの分を捨てることにした。

親の願い
 私としても、はじめて息子を海外へ送り出すわけである。しかし「かわいい子には旅させよ」ということわざもある。その通りに、この二年間で、大きく飛躍していってほしい。そういえば、息子が通った中高一貫校は、「世界に飛躍する人材を育てる」というものであったが、これまでなかなかその機会がなかった。

 これからは、パックス・アメリカーナの下でのグローバリゼーションの時代である。いつまでも日本独自の慣習や法制度に固執していては、時代遅れとなってしまうであろう。特に息子の年代の人たちが社会の中核を担う時代には、ますますその傾向が強まっていくものと思われる。その意味で、まだ20歳代の半ばに、そうしたアメリカの息吹に触れておけば、とりあえずは英語にまごつくこともないだろうし、将来もし何かあっても、「ああ、あれか」程度の認識で対応できる。そういう意味で、器量が広がるものと期待している。

 また、日本の教育制度の限界というものも、最近は感じ始めている。どうも皆いまの子供たちは、平等かつ飽食の時代にうまれて育ったので、現状に満足してしまって、良い意味でのハングリー精神やチャレンジ精神を持てなくなって来つつあると思う。Boys be ambitious. どころか、 Boys are sleeping.ではないかと思っている。その点、アメリカの社会は、貧富の差は激しいし、人種とは何か、幸せとは何か、どう生きるべきかなどと、深刻な問題が目の前に常に突きつけられている。こういうものをよく見て帰ってくることだけでも、意味のあることだと思うのである。どうか無事で、そしてよく学びよく遊んで来てほしい。1年かかるか2年かかるかわからないが、ともかく卒業式がとても楽しみである。


(平成14年 5月 1日著)
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(後日談)  その後、めでたく卒業に至り、卒業式の写真がインターネットで送られてきた。それをみると、まあ色々な人種がいて、こんな連中に囲まれて勉強したのか、よく卒業にこぎつけたものだと思う。角帽にガウン、深紅のカーテンにラテン語で書かれた大きくて真っ赤な卒業証書と、舞台装置は満点、加えて親類縁者、場合によっては見ず知らずの人たちを交えて盛大に卒業を祝っている。まさに、Commencement Day という名にふさわしいものだった。それにしても、私も行ってみたかった。  アメリカの大学の卒業式



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