This is my essay.


2003年11月のボージョレー・ヌボー

 私が今の職場にいた10数年前のこと、世はバブルのまっさい中であった。そのときの部長が、ヨーロッパ駐在経験のあるダンディな方で、特にフランスやスイスのいろいろな話を聞かせてくれた。そのひとつとして「フランスではその年の初物の赤ワインをボージョレー・ヌボー(Beaujolais Nouveau)といって珍重するんだよ」といって、解禁日の11月のある日に、職場へ何本かもってきてくれた。みんなでそれを飲んだところ、ちょっと酸味が強くて、生きのいいワインだがなかなかいけるということになり、それから毎年の解禁日に飲むことが恒例となった。しかしそれも、その部長の転出とともに、いつしか立ち消えとなった。そうこうしているうちに、世間でもボージョレー・ヌボーが知られだし、一時は大きなブームとなったものの、長続きせずにこれも消えてしまっていた。

 ところが今年の夏は、フランスはブルゴーニュ地方のボージョレー地区のみならず、ヨーロッパ全体が記録的な熱波に襲われて、ぶどうの収穫量こそ減少したけれども、肝心のぶどうそのものは、非常に良質のものがとれた。だから、今年はワインは例年にない高品質なボージョレー・ヌボーができたという。これを逃す手はないというわけで、職場に4本ほど持ち込み、ワイン・テースティングをしようということにした。

 一般にワインは、まず目でその色を眺め、次に香りをかぎ、そして辛口、甘口、酸味 渋み、旨味、コク、まろやかさという味を楽しめというのがその部長の持論であった。うーーむ、確かに。色があまり濃くないワインレッドのこのボージョレー・ヌボーは、いい香りがする。こういうのを、「甘いアロマの香りがほのかに漂うほどよい美香・・」などと表現できれば、私もいっぱしの通になれるかも。いざ飲んでみると、さほど酸っぱくも渋くもなく、むしろフルーティーな軽い口当たりがする。それに飲み込んだあとは、ちと甘い味が残る。これでも、当たり年なのかなぁという気がする。しかし、できたての若いワインらしくて、いささかしゃぶしゃぶ感、つまりあまりコクというものがないな、というのが私の感想である。飲んでみた皆さんも、そういう評価に賛同してくれた。

 飲んでいるうちに、10年ほど昔、たまたまこの季節に帰省したときのことを思い出した。ちょうど季節なので、ボージョレー・ヌボーを持参して、妹の亭主に差し上げた。この人は、お酒なら何でもござれで、いい気分になって飲んでくれるので、プレゼントのし甲斐があるというものである。そのときに「これは、ボージョレー・ヌボーだからね」と念を押したのである。

 その場はそれで終わり、それからやがて月日が経って、翌年の夏にまた帰省した。そのときに、父の家でパーティを開き、それに親戚一同が集まった。ところがその席でのこと、この義理の弟がやってきて「去年、お兄さんからもらったワインを開けよう」といって、そのボージョレー・ヌボーを開けだした。おっと、「ちょっと待て」という間もなく、もうひとりの飲兵衛さんと一緒にそれを飲みはじめ、しかも平気な顔をしている。

 私は、1ヶ月どころか10ヶ月も過ぎたボージョレー・ヌボーって、味はどうなってしまうのだろうと思っていたところ、妹の一人がそれを口に含み、やはり「変な味ね」といったものだから、どうにも顔を上げることができなかった。



(平成15年11月21日著)
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