This is my essay.

東京大学法科大学院第一回入学試験
目  次

 日本版法科大学院構想
 理想と現実との落差
 弁護士界や財務省からの観点
 法学界からの観点
 二つの解決策
  後 日 談 1
  1-1 法科大学院の大風呂敷
  1-2 早稲田大学の蹉跌
  後 日 談 2
  2-1 素案の検討と反発
  2-2 合格者数の落着



1.日本版法科大学院構想

 アメリカのロースクールにならって、2004年4月より、わが国に「法科大学院」なるものが開校し、法曹養成の中核機関となることが期待されている・・・と書くと、まさに良いことずくめのようである。しかしながら、残念なことに、現実はそのようなバラ色ばかりではなく、むしろ問題ばかりが目に付くようになってきたのである。もちろん法科大学院構想は、法学界にとっては活性化の旗手となったことは事実であるし、裁判所や弁護士会にとってもそれぞれ従来の立場が維持され、現行制度がさほど変わるものではない。ところが肝心の学生、とりわけ司法試験受験生にとっては、その内容を知れば知るほど、これでいいのかといいたくなるほどの、歴史的失敗作なのではないかと思えてならないのである。一言でいえば、ギルド社会の排他性に医学部入試的な嫌らしさが合わさってしまった。まあ、過渡期でしかも特殊な世界によくありがちなことと言ってしまえばそれまでであるが、どういうことになっているのか、とりまとめてみたい。

 まず、事の起こりは、いまの司法試験のあり方が、いかにも狭すぎる門をこしらえて、新規参入者を締め出していることである。少し前までは、司法試験合格者の枠は、年間わずか500人であった。そこに約25,000人ほどの受験者が殺到するので、合格率はわずかに2%という状況であった。しかし、合格後は司法研修所の修習生となって、国家から公務員並みの給与まで与えられて厚遇される。難しすぎる狭き門なので、合格すればそれこそ古の中国の科挙の合格者にもたとえられるエリートとなる有り様となる。その司法修習生の全部が判事・検事となるのであれば、公務員の研修と同じで、それほど目くじらをたてるほどのことではない。ところが、司法修習生中で民間で弁護士になるのが8〜9割近くに及ぶというのでは、いまどき何のために税金を投入しているのかという批判が出てきて当然である。ちなみに、合格枠は、最近でこそ1200人(今年及び来年は、1,500人)となったものの、肝心の受験生の数は約35,000人となったので、あまり状況は改善されていない。

 それで、その極めて狭い枠に殺到する受験生はどうしているかというと、日本の大学の法学部の授業では、全く歯が立たないので、ひたすら塾に通い、司法試験に備えることとなる。LEC、伊藤塾、早稲田ゼミなどは、しばしば宣伝をしていて著名な司法試験予備校である。これらの塾が繁盛するひとつの理由は、司法試験の質に問題があるからだと思われる。実際に、択一試験と論文試験というこれらの問題を見てみたが、特に択一試験は、法律の専門家を自称している私でも、なかなかできるものではない。民法では重箱の隅をつつくようなつまらない条文を数多く出してみたり、憲法ではもはや何の役にも立たない明治憲法を取り上げたり、刑法では学者間のどうでもよいパズルのような議論を知らなければ解けないような仕組みである。こんな程度の低い問題を解かなければならない受験生こそ、いい迷惑というものである。出題側としては「わずか2%を合格者として振り分けるためには、他に手段がない」などと言い訳をするのであろうが、こうした瑣末な知識ばかりを詰め込むことを余儀なくされた受験生が、実社会に出て一体、何の役に立つというのであろうか。本人も困惑するばかりであろう。

 その一方で、こういう趣味的な法律知識とは無関係に、実社会での専門的な法律知識の需要は、ますます大きくなっている。渉外法務、企業法務はいうに及ばず、最近では、医療訴訟、交通事故訴訟、建築物訴訟など、特殊な専門知識が必要不可欠となっている分野が多い。ところが、こういう古の科挙的な法律受験知識しか備えていない受験生が法曹となるのであるから、裁判官はもちろん弁護士も、このような理科的な素養や専門知識が元々ない人たちばかりとなる。それであるから、専門技術用語が飛び交う訴訟では裁く側も裁かれる側も内容がさっぱりわからず、いずれの訴訟は遅れに遅れてしまうこことなり、正しい判断がされているかどうかは神のみぞ知るという状況となる。

2.理想と現実との落差

 したがって、以上のような問題を一気に片付けようと、2年前の司法制度改革の一環として大いに議論がされ、その結果、法科大学院が出来上がることとなったわけである
(注1)。その骨子は、「一年で生み出す法曹の数は3,000人とし、法科大学院卒業生の8割は合格する仕組みとする」というものである。これを聞くと、まさに理想が実現したもののごとくであるが、私にいわせれば関係者間の思惑が交錯し、その結果としていかにも調整不足となったために、そのしわ寄せが受験生に及んでいるのが真相ではあるまいか。また、特に今春の開校を前にしたここしばらくの大学側の動きには、目に余るというか、教育機関として恥ずかしくないのかといいたくなるほどなのである。

 まず、「法科大学院卒業生の8割は合格する」という命題は、早々に崩れてしまった。というのは、法科大学院の設置申請が相次いだ結果、文部科学省側の「もともと20校程度を予定していた」という思惑は見事に外れて、実際には何と66校にも及び、その定員合計は、5,430人となってしまった(注2)。その一方で新司法試験の定員は、1,500人というのである。「最初から3,000人ではなかったのか」と問うと、「いやいや、それは将来の平成22年の話だ」などといわれる。そうすると、しばらくはこの定員が維持されるとして、単純に計算すると、合格率は平均でわずか25%である。ただし、もう少し詳細にみていくと、法科大学院の中でも既修者の2年コースと未修者の3年コースとがある。したがって、たぶん最初の年は、2年コースを卒業する人がおそらく約3,500人いて、それが1,500人の枠を争うのであるから、合格率は約40%強ということになる。まあまあの数字であるが、第二年目となると前年の不合格者2,000人に前年の3年コースの2,000人と、その年の2年コースの3,500人とが受験するのであるから、合格率は一挙に何と約20%へと激減してしまう。これでは、騙されたと思う受験生が多いのではないか。それではいっそのこと、3,000人という司法試験の定員を、いま直ちに増やせばすむはずであるが、それにはおそらく、弁護士界から強い反対が出るであろう。新規参入者が少ないほど、ギルド社会内の分け前が多くなるからである。

 そもそも、これまでの受験生は、予備校に通い、それに1年につき100万円ほど投資をすれば、1〜3年で合格できたのである。合格したら前述のように税金で給与か支給されるので、それまでの苦労は報われるし、学部卒業後わずか1年で合格できればそれだけ予備校費用が節約できるという仕組みであった。ところがこれからは、学部卒業後、短くて2年、長くて3年は法科大学院に通わなくてはならない。私立大学では授業料だけで1年150万円というところが多い。2年としても、入学金その他を加えれば、生活費を除く学費だけでも最低400万円は必要である。しかも、それに加えて司法研修所にまた1年半も通わなくてはいけない。法科大学院では実務教育をすることになってるというのに、である。こういうものは、法科大学院でしっかりと教育すれば、司法研修所などは、少なくとも弁護士となる者には不要であろう。

3.弁護士界や財務省からの観点

 なお、財務省などからは、司法研修所の給与はやめて、貸与制にせよとの声があがっている。弁護士など民間に進む法曹のためになぜ国家が給与を支給するのか、などという根本問題がそこにある。正しい方向と思うが、これについては特に弁護士界に異論があると聞く。その理由は法曹一元に理念に反するというものであるが、たとえ司法研修を判検事になる者に限っても、別にその理念に反するわけではあるまい。最初から弁護士となり、その中から将来、判検事となりたいという者がいれば、司法研修を受けてもらうか、あるいは認定試験でもすれば、それでよいというだけのことであろう。むしろ、この財政緊迫化の折に、3,000人にも膨れ上がる司法研修生のすべてに、給与を支給すべきと考えること自体が非現実的ではないか。

 それにまた、この問題のしわ寄せは、受験生にも及んでいる。つまり、従来はうまくいけば、高々100万円程度の予備校費ですんでいたものが、法科大学院のために2年の余計な時間と前述のとおり最低400万円はかかるようになってしまった。家計に余裕のない人は、全額を借金でまかなうことになろう。それにまた、司法研修所で貸与される額も借金として新たに加わる。いくらかは知らないが仮にそれを400万円とすれば、その修了時点で合計800万円もの借金を背負って、弁護士という人生の出発点に立たなければならない。これは、悲劇といって差し支えないだろう。その借金分を取り返すために無理をして、違法なこと、危ないことに手を出す悪徳弁護士が出なければよいがと思っている次第である。

 いずれにせよ、こういうところが、この法科大学院構想の未熟なところである。立案の過程で、関係方面の主張をひとつにとりまとめるような、しっかりとした調整が行われなかったからこそ、こういう問題があちこちで噴出してくるのである。これは、弁護士界、財務省から見た未調整の部分であるが、これを法学界からみれば、また別の問題点が透けて見えてくる。

 
4.法学界からの観点

 この法科大学院構想が示されてから、設置を名乗り出た大学の数は、当初のアンケート段階では77校あり、それらの定員を合計すれば推計で1万人にも及ぶとされた。ところが実際に2004年から開設するとして申請をしてきたのが72校で、うち66校が認可された。その定員は、5,430人である。加えて、筑波大学など来年以降も新設されるところもあろうから、たとえ司法試験の定員が3,000人となっても、合格率8割などは、夢のまた夢となる。

 ところで、法科大学院には、少人数教育が求められていることから、それなりの専任教授陣と建物が必要であるので、多大な経費がかかる。にもかかわらず、これだけの大学が手を上げてきたのはなぜか。ある私大の学長に尋ねてみた。答えはいとも簡単で、「卒業生の4割も法曹になれるということは、従来の法学部にはなかったすばらしい魅力である。しかも、他学部の者も入学できるというのであるから、単に法学部のみならず、全学にわたる波及効果がある。少子時代を迎えて、これからは法科大学院のない大学は確実に淘汰されていく」ということであった。

 まさに、そういうことであろう。であるから、こういっては失礼ながら、これまで司法試験に合格した実績などほとんどない大学からも、続々と手が上がったのである。法務行政の専門家の見方では、こういうところは、合格実績が上がらないので、そのうち自然に淘汰されていくだろうとのこと。しかし、かわいそうなのは受験生で、合格率8割という触れ込みに騙されて、法科大学院にいざ入ってみても、やっぱり受からなかったという人が、初年度で6割、次年度で8割はいるだろうという残酷な現実である。したがって、各法科大学院は、特に実績のない大学であればあるほど、新司法試験に合格させることが切実な経営課題となる。そして中には、司法試験予備校と提携していることを売り物にするところまで現れたのである。

 法科大学院の設置には、文部科学省の認可が必要である。昨年5月に72の各校は一斉に認可申請をして、秋口まで認可が検討されてきた。その結果、昨年11月21日に設置認可が発表されたのであるが、認可が66校、そのうち問題点の指摘にとどまって認可されたものが53校、認可の保留が2校(大阪大学、専修大学)、不認可が4校(愛知学院大学、北陸大学、龍谷大学、青森大学)ということになった。条件付きの中には教授が高齢であるので早急に措置すべしという笑うに笑えないものがあった。ちなみに、保留の2校は専任教授の数が足りないという理由であった。

 ここまではいいとして、問題は不認可とされた4校である。たとえば龍谷大学は、司法試験予備校である伊藤塾と提携してそのカリキュラムに沿って教えるということを堂々とホームページで公開していたが、秋口になって「当大学院は伊藤塾とは関係ない」などというホームページに変わったので、不思議に思っていた。そうしたところ、案の定11月末の設置認可では、不認可となっていた。理由は、司法試験予備校との関係が払拭されていないというものである。もともと、今回の法科大学院構想は、司法試験予備校の排除がひとつの目的であったともいえるので、そういう意味では当然の判断との見方もある一方で、「酷ではないか。あまりにも正直すぎただけだ」という見方もあるのである。事実、認可を受けた法科大学院の中には、予備校並みに教えるカリキュラムがちゃんと用意されている。これでは、正直者がバカをみたという批判が案外、的を射ているのかもしれない。こういう理由ではねつけるより、教育の内容で審査すべきであると思うが、いかがか。

 ところで、その昨年11月末の設置認可を受けて、正式認可を受けた法科大学院では、12月から次々に募集が行われた。それによると、国立大学は、今年の1月25日(日)が試験日で、授業料は80万円となっている。私立大学は千差万別であり、1月11日(日)から3月にかけてが試験日で、授業料は120万円から200万円、有力といわれるところでは150万円というものが多い
(これらは、私学助成予算が確定すれば、ひとり当たり10万円程度は下げられると予想されている)

 しかし、ホームページを見ている限り、これが最高学府か驚くような学費競争があったり、妙な奨学金がはやったり、入学試験の募集要綱がおかしかったりで、てんやわんやの騒ぎなのである。しかも、見ればみるほど、医学部入試的ないかがわしさがみてとれところもある思うのは、私だけであろうか。

 たとえば、早稲田大学の学費は、当初は200万円ということであった。それが11月のある日、検討した結果これを下げるということで、120万円にした。そうすると今度は慶応大学が、出願者が集まらなくてあわてたのであろうか、願書の提出期間がもう始まっているというのに197万円を120万円へ引き下げる特別奨学金を全員に出す、成績上位の者には全額免除するということにして、これを理由に出願期間を延ばしてしまったのである。考えれば、とても妙な理由である。出願期間の延長と何の関係があるのか。

 それから日本大学の奨学金も、眉をひそめたくなるものである。募集人員は100名であり、入学金は100万円、授業料は年200万円である。そこまでは普通である。ところが、このうち成績上位の40名は授業料をただにするというのである。さきほど、初年度の合格率はおそらく40%程度と書いたが、何となくその数値と合致しているので(もちろん2年コースと3年コースとの区別はあるのが、それをとりあえず捨象するとして)、納得してしまった。しかし、かわいそうなのは受験生で、残りの6割は、新司法試験に合格しないし他人の授業料を負担するしで、踏んだりけったりではないだろうか。こういう私学の医学部的といおうか予備校的経営をしようしているところを認可して、正直に私は予備校ですと言ったところを不認可にするとは、首尾一貫していないと思うのは私だけではないだろう。

 また、国立では、大阪大学が保留になったのは解せないところである。大きな事務的ミスだろう。それに、一橋大学の英語の試験成績をめぐるドタバタもいただけない。これは、一橋大学がTOEICやTOEFLの成績証明書を求めているところから発した問題である。それだけなら、東京大学や京都大学、慶応大学もやっていて珍しくはないが、他の大学が受験者に各試験機関から送られてくる成績のコピーでよいとしているのに、各試験機関から大学に直送することを求め、しかもそれが12月26日までの到着厳守としていたからである。たとえばTOEICの11月試験を受けた人は、試験機関からの直送が間に合わないと、大騒ぎになった。それからTOEFLを受けた人も、試験機関がニューヨークにあるため、昨今のアメリカの郵便事情ではなかなか思うとおりに着かないことが多い。というわけで、不可能だとの抗議が殺到したのが12月初中旬である。それに対して大学側が、12月19日付けで「他の受験生の不公平となるから、間に合わなかったのは仕方がない」とホームページで公告したものだから騒ぎが一層大きくなり、結局ここも、出願期間が1月に延期される始末となった。それなら、最初からコピーでよいとしておけばよかったのではないか。

 ちなみに、試験機関からの直送を求めるのは受験生が改ざんすることを防ぐためにアメリカのロースクールで行われているプラクティスである。しかしアメリカの場合は、そもそも出願期間が3ヶ月以上もある上に、その直送が到着したかどうかを知らせる仕組みがあるので問題になることはあまりない。したがってこれも、あまり事情を知らないままに、アメリカのロースクールの物まねをしようとしたツケだと思われる。

 また、これは妙だと関係者の注目を集めたのは、京都大学である。12月22日(月)が出願の締め切りだというのに、その直前のホームページ上に、19日(金)午後5時現在の出願者数が出ていたのである。それによると、2年コースは、140名の募集定員に対して、出願者数は167名であるという。「このままではほぼ全員合格ではないか」という数字である。そんなに不人気だったのであろうか
(注3)。少なくとも大学側は気をもんだだろう。そういえば、東京大学の説明会の説明(平成15年7月14日)の中にも妙な部分があった。「単に新司法試験合格を目指すためのものではありません。この目的に賛同される志の高い方々が多数入学されることを期待しております。・・・法科大学院に入学する以上は、新しい専門職学位課程を最後まで履修して修了されることを望みます。実際問題としても、予習・復習に十分な時間をかける必要がありますので、法科大学院在学中に旧来型司法試験を受験することは困難です」というものである。それを見て「やっぱり大学当局は、法科大学院に入っても従来通り予備校通いをする学生を予想しているのではないか」と思ったのである。

 しかしながら一部の公立も、ドタバタの感がある。東京都立大学
(定員65名)のケースでは、大学院本体は認可されたものの、1月になって教授が4人も辞職してしまった。このため民法では専任教員が1人もいなくなってしまい、入試を延期せざるをえなくなったのである。既存の都立4大学の再編に伴う石原知事のトップダウンの手法に反発したものという観測があるので、法科大学院自体の問題ではないようであるが、それにしてもいただけない騒ぎである。

 受験生と法科大学院の混乱は、出願の締め切りを過ぎてまだ続いている。たとえば成蹊大学は、定員がわずか50人の小規模な法科大学院を予定しているが、そのたった50人の枠に、1,520名もの出願者が押し寄せてきてしまった。大学側は、「出願者数は予想をはるかに越えるもの」といいつつ、面接試験要員の大幅拡充を試みたりして大混乱のようである。そのホームページを見ても、いったい何を言いたいのか、よくわからないほどのカオス状態となっている。

 こうした騒ぎの一方で、法科大学院が、法学部の先生に与えたインパクトも相当なものである。言葉は悪いが、あちこちで引き抜きが行われた。それに実務家教員と称し、私の知人の弁護士でも失礼ながら「あんな人が学生に教えられるのだろうか」と思ってしまうような人が某有名私大法科大学院の教授になったりして、小首をかしげたこともあった。しかしまあ総じて、先生方の活性化策にはなったと思いたい。同様の仕組みが、公認会計士や弁理士などの「
(さむらい)」世界に広がれば、それぞれのギルド的社会も、少しは開放的になるかもしれない。

5.二つの解決策

 かくして法科大学院構想は、その他もろもろ挙げればきりがないほどの様々なエピソードが積み重なって、今年4月の開校を目指して実現に近づいているが、各関係者とも、もう少し学生のためを思って、現在の制度設計を抜本的に改めるべきではないだろうか。法科大学院の質の向上はもちろんのこととして、さしずめ、

第一に  司法試験合格者を3,000人といわず、5,000人程度に大幅増加させること
第二に  弁護士には司法研修を受ける義務を免除すること

 この二つが鍵となる。早急にこれらの策を講じないと、数多くの前途有為な人材が、卒業後に途方にくれることとなる。



 
(注1) 司法制度改革推進計画(抜粋)
  「司法を担う法曹に必要な資質として、豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的な法律知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野と語学力、職業倫理等が広く求められることを踏まえ、法曹養成に特化した教育を行う法科大学院を中核とし、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた新たな法曹養成制度を整備する」
(平成14年3月19日閣議決定)

(注2) 平成16年度の法科大学院の定員
 平成15年の申請数は72校の5,950人に及んだが、11月時点の認可校の定員合計は5,430人。ただし、保留2校
(専修大学が定員減で再申請中)の定員160人を合わせれば、5,590人となる。

(注3) 京都大学の最終応募者数は、1,974人となった
(10倍)。



(後日談 1)

1−1.法科大学院の大風呂敷


 その後、こうした事情は、法科大学院の学生たちにも、徐々に知られるようになり、平成16年5月24日の日本経済新聞朝刊には、「法科大学院の大風呂敷」との見出しで、次のような記事が掲載された。

 平均合格率を推計すると、2006年終了をめざす二年コースには、今年は2,350人が入った。落第者や現行試験の合格者も出るため、実際は2,000人が受験するとしよう。大学院関係者の読みでは、合格者枠は1,300人。その場合は合格率は65%に達する。

 しかし、その後の見通しは厳しい。落ちて再挑戦する人も出るためだ。「17%にまで下落するかも」と、辰巳法律研究所(後藤守男所長)は予測する。一度落ちても三回まで受験できるため、年間受験者が17,000人程度に達する場合も考えられる。2011年以降も合格者数が3,000人なら、合格率は一割台後半に落ちる計算だ。そもそも七〜八割合格という話は、法科大学院が全国で20〜30校しかできないことを前提とした数字(大宮法科大学院大学 宮沢節生副学長)。各大学が一斉に設置に動いたため、開校数が当初予定の2〜3倍にふくらみ、誤算が生じた。合格率が低いと評判が落ちるから、学力の低い学生をとることを見送り、大幅な定員割れに陥っている大学院もある。

 関西のある法科大学院が開いたシンポ。司法試験改革にかかわった人たちがパネリストなどとして参加した。その場で学生たちから合格率への不満が噴き出した。「詐欺だと言わんばかりだった」。政府関係者は振り返る。・・・

 大学には水面下で3,000人程度への増員を求める動きがある。しかし、弁護士界には反対論がくすぶり、今後も曲折が予想される。喜んでいるのは「大学院入試対策で売り上げが大幅増」という試験予備校だけかもしれない。
 本来、一定の能力をみるはずの司法試験。しかし、改革後も定員制を維持し、中途半端な競争が残った(山口二郎北大教授)のが現状なのだ(編集委員 三宅伸吾)。



1−2.早稲田大学法科大学院の蹉跌?

 (1)「2004年度入学者選抜試験・最終合格者の概要等」と題して、2月23日付けで早稲田大学のホームページに概要、次のようなデータが掲載された。

○志願者数 4,557名
○第一次選考(書類審査)合格者数 788名
○第二次選考(面接試験)受験者数 764名
○最終合格者数 312名
 【合格者の概要】
   ◆性別 男性:183名  女性:129名
   ◆平均年齢 27.0歳 (21歳 〜 58歳 )
   ◆適性試験 平均点 84.3点 (最高点100点、最低点58点)                      ※大学入試センターを採用
   ◆属性 学部学生 116名   (37.2%)
       社 会 人 111名 (35.6%)
       大学院生他 85名   (27.2%)
   ◆出身大学
     早稲田大学  135名、
     東京大学    59名、
     慶應義塾大学  25名、
     京都大学    14名、
     一橋大学    14名、
     国際基督教大学  9名、
     神戸大学     4名、
     中央大学     4名
     3名: 大阪大学、九州大学、東京都立大学、東北大学、
        名古屋大学
     2名: 青山学院大学、上智大学、電気通信大学、
        同志社大学、横浜国立大学、立命館大学
     1名: お茶の水女子大学、学習院大学、神奈川大学、
        金沢大学、関西学院大学、京都工芸繊維大学、
        創価大学、千葉大学、津田塾大学、日本医科大学、
        広島大学、北海道大学、明治大学、名城大学、
        琉球大学、流通経済大学、立教大学
     その他 4名

   ◆職業・経歴等 医師、公認会計士、弁理士、薬剤師、国際連合、
      外国弁護士、民間企業、官公庁、自治体、法律事務所、
      マスコミ、主婦、主夫等 その他多数

  
※ 法学既修者認定試験   受験者 77名、
               内 法学既修者認定 27名


 (2)これを見て、よく志願者を 4,557名も集めたなぁとか、出身大学ば本当にばらばらだけれどやはり常連校ばかりだとか、 職業も従来の感覚だとこれらはまったく法律家とは関係ないなぁそれにしても「主夫」というのは面白いというのが、週刊誌的な見方である。そういう意味では、司法を目指す者の多様化を図るという今回の司法改革の趣旨は見事に生かされて、誠に結構なことばかりである。

 しかし、私が注目したのは、一番最後の行である。「なになに、合格者数 312名のうち、法学既修者認定試験の受験者はたった77名で、しかも実際に認定されたのは、わずかに27名だって・・・? 一割にも満たないではないか」。 これでは、最初の新司法試験が行われる年には、卒業生はたかだか27名しかいないので、それだけしか受験できないことを意味する。

 たとえば慶応大学法科大学院など他の大多数の法科大学院は、そもそも入学時に既修者と未修者とを分けて入学させたので、こういう問題は起きない。入学時から既に既修者は決まっているからである。それに私にいわせれば、これらの大多数の未修者は、それなりに一生懸命勉強をすると思うが、やはり手馴れた既修者には、かなうまい。残酷なようだが、理科系の勉強ばかりをしてきた人が、山ほどあるあのような法律の論理を、そう簡単に頭に叩き込むことができるはずもないと思うが、いかがであろうか。もちろん、3年も準備期間はあるし、中にはそうでない方もたくさんおられよう。だが大数を観察すると、私のように考えることも一理あると思われる。そういう意味では、ひょっとすると新司法試験が始まったとたん、未修者を抱えた法科大学院は、大量に不合格者を出す恐れが相当あるに違いない。しかも、私が先に述べたように、確かに第一年目の新司法試験の合格率はよくて4割程度であるから、まあ上位校出身の受験生にとってはそれなりに何とかなって、楽勝かもしれない。しかし、第二年目以降は、前年の不合格者が累積していくので、それだけ合格率は大きく下がっていくことは、間違いない。とりわけ最初の未修者が受験する3年後には、何と合格率は2割以下と推定される。

 早稲田大学法科大学院が発足して入学したその年の卒業生の大半は、そういう合格率の低い時期にわざわざ受験せざるを得ないことになってしまうのである。合格率の高い前年に受けられる卒業生は、たかだか27名しかいない。「大丈夫か、そもそも、大学として戦略を間違ったのではないか」というのが、私の率直な感想である。もちろん、こうした予想を覆して、早稲田大学法科大学院第二回卒業生の諸君が善戦されることを望んでいる。その3年後を注目したい。



(後日談 2)

2−1.素案の検討と反発

 さて、平成16年も残り少なくなった頃、新司法試験と在来型司法試験との合格者枠が法務省において検討されていたが、ついにその素案が報道されるに至った。それによると、新司法試験の合格率はたかだか3割程度ということが判明し、法科大学院生の中には「詐欺だ」という者もいるほど、大騒ぎとなった。案の定というところである。これについて、次のような有志の声明が出された。

新旧司法試験合格者数に関する声明

    東日本法科大学院研究科長等懇談会有志(2004年11月20日)

 最近の新聞報道によると、10月7日の司法試験委員会において、新旧司法試験合格者数に関する法務省素案が示された。同素案は、2006年度の
新旧司法試験の合格者数を各800名、計1600名にとどめ、2007年度については新1600名、旧400名とする。
( 略 )

 法科大学院を中心とした法曹養成システムに切り替えるという制度改革の理念を十分に反映しておらず、法科大学院制度の健全な発展を損なう危険性の高いものであり、到底賛同できない。
( 略 )

 前記素案をもとにシミュレーションすると、2006年度における新司法試験の合格率は約34%、2007年度以降は約20%になるという。しかし、これでは、上記の厳しい学修に才能ある人材を引き付けるには余りにもリスクが大きく、新たな法曹養成制度の中核と位置付けられた法科大学院制度を崩壊させかねない。
( 略 )

2−2.合格者数の落着

 法科大学院生が、国会の議員会館まで押しかけて、抗議運動を展開したということも報道されたが、その結果、法務省側も再考したようで、結局下記のとおり、初年度の新四方試験に割り当てる人数は、900ないし1100人ということになった。ちなみに、最初の卒業生が出る平成18年は、同16年に入学した2年コースの学生約2300人のうち、2000人程度が受験するものと思われる。初年度の合格率は、5割前後ということになる。

併行実施期間中の新旧司法試験合格者数について

       司法試験委員会(平成17年2月28日)


4 平成18年と同19年における合格者数

(1) 新司法試験

 新司法試験については,前述のとおり不確定要素によるところが大きいことから,その合格者の予定数は相当程度幅のある数字にならざるを得ないが,法科大学院への誘導効果や法科大学院制度を社会的に定着させることの重要性を特に勘案して,
平成18年の合格者の概数は,900人ないし1,100人程度を一応の目安とするのが適当と考える。また,同19年については,同18年の試験結果等とも関連して更に不確定要素が増えるが,受験者数の激増が予想されることに配意して,同18年の合格者についての上記概数の2倍程度の人数を一応の目安とするのが適当と考える。

(2) 旧司法試験

 旧司法試験の合格者の概数については,法曹養成検討会における意見の整理を尊重して,平成18年は500人ないし600人程度を,同19年は300人程度をそれぞれ一応の目安とするのが適当と考える。さらに,旧司法試験が新制度導入に伴う移行措置として実施されることを考慮すれば,同20年以降の合格者数は,同19年の合格者数から更に減少させたとしても,受験者に不当な不利益を与えるものではない。

5 法科大学院に期待するもの

 法科大学院は,その第一期校が平成16年4月に創設されたばかりであり,新しい法曹養成制度の理念を実現するため,現在,各校において様々な努力と工夫が積み重ねられているものと承知している。当委員会としては,法科大学院が,21世紀の我が国社会において期待される役割を十全に果たすことのできる優れた資質と能力を備えた法曹を育成する責務を担うものであると理解しており,そのためには,改革審意見が指摘しているとおり,法科大学院において,厳格な成績評価と修了認定が実施されることが不可欠の前提であり,質の高いプロセスとしての法曹教育が適切に実施される必要がある。

 当委員会としては,各法科大学院が,改革審意見に示された理念に従って,質の高い法曹を養成されることを強く期待するとともに,司法試験の実施においても,プロセスによる法曹養成制度の健全な発展の一翼を担っていく考えである。

(平成16年1月12日著、同年5月26日追記)
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