This is my essay.



ディオマン島の沖合いの小島に着いたところ
1, マレー半島の東海岸に、ティオマン島という小さな島がある。水滴のような形で、周囲がわずか数キロというこじんまりとしたものであるが、風光明媚な島として有名である。現に約50年前には、映画「南太平洋」のロケに使われた。そのときの舞台となった滝は、まだ島の中央に在る。有人島で、主として漁民がいるだけであったが、その映画の頃から観光開発に力を入れてきて、昔から中級クラスのホテルがある。シンガポールとクアラルンプールからセスナ機が飛んでいるし、メルシンなどの東海岸の都市からフェリーも出ていて、そのフェリー船だと2時間半で着く。

 この島の売り物は、何といってもすばらしい熱帯の珊瑚礁である。沖合いの無人島に出かけて、ちょっと海の潜れば、そこはまるで別世界のごとくであり、色とりどりの熱帯魚が泳いでいる。フエフキダイ、クマノミなどなど、何と自然は色彩豊かな魚を生み出したのかと感心するほどで、どんな水族館も、この自然にはかなわない。大きなテーブル珊瑚もあり、紫や黄色、赤というように、青く澄み切った熱帯の海の色とマッチしている。この写真自体は銀座のソニービルに置かれた水槽を撮ったものだが、ティオマン島の沖合いの小島の海は、これとまったく同じ。

 そういう海をシュノーケルを付けて泳ぎ回り、疲れきって白い砂浜に上がれば、そこには純白の砂が一面に広がっている。じりじりと照りつける太陽の下の砂浜をゆるゆると進んで、椰子の木の根元にどったりと突っ伏す。両手を伸ばし、砂まみれでそのまま一回転すれば、今度は真っ青な空と白い雲が目に飛び込んでくる。起き上がって海の方を見れば、麦藁帽子で赤い水着姿の家内が、左右に大きく手を振っている。きれいだなあと思う。ここから見ると、海の色は碧がかっていて、その上には青い空と白い雲が浮かんでいる。どこかで見た風景だなぁ・・・そうだ、資生堂のポスターと同じだ。

 そこでつかの間の休息のあと、また足ひれとシュノーケルを付けて海に潜った。もぐるといっても、プカプカ浮かびながら、シュノーケルで息をしつつ、下を眺めるという程度であるが、それでも、大いに楽しめる。視界に入ってくる熱帯魚には、フエフキダイの仲間が多い。太陽の光りが一杯届くところの珊瑚は、自然光で紫、赤、黄色などに見えるが、それより下の深いところは、次第に青くなっていって、その辺りまで来ると、さすがに怖くなって、海岸べりに近いところまで引き返す。それからまた、海の上を漂い、沖合いに出てはまた海岸方向に戻るという調子である。

 あるときは、海中で小魚の大群に出会った。たぶん鰯の仲間だと思うが、それはもうすごくて、何万匹という数である。これなら、2〜3匹くらい簡単に捕まえられそうだと思って、近づいていって両手を広げて捕獲しようとするけれど、いくらやってもさっと散ってしまって無駄に終わる。大群のくせに、全体でひとつの意思で動いているかのごとく、実に俊敏である。結局、一匹も捕まえられなかった。これでは、漁師にはなれないなぁ。
小魚の大群に取り囲まれる。ただ、この写真自体は、いつぞや雑誌の付録に付いていたCDのものだが、ティオマン島沖合いの小島の海の様子は、これと同じ。
 また、浜辺に戻った。そうすると、その無人島に船で送ってくれた漁師が、途中で吊り上げた魚を焼いていてくれた。燃料は、その辺に落ちている椰子の木の枯れ葉である。香ばしい匂いが立ち込める。一口ほおばると、ジューシィな魚肉がころりと口の中に落ち込んできて、これが本当に美味いのである。人生、至福の瞬間となった。それ以来、ティオマン島は、我が家で「南太平洋の真珠」と語り継がれている熱帯の天国なのである。

2. ところで、最近、人々の目がますます自然環境に向いているせいか、こうした熱帯の海がよくテレビで放映されている。沖縄だと慶良間諸島、海外だとモルジブや南太平洋の辺りが多い。そこには、私たちがティオマン島の海底で見たような珊瑚と熱帯魚が舞う風景が繰り広げられている。いいなあ、また行きたいと思うのだが、どうやらティオマン島のようにシュノーケルで水面をふわふわ浮かぶという程度の手軽な世界ではなく、空気ボンベを付けて本格的にダイビングをしなければ、とても見られない世界のようである。

 シュノーケルならば、単に水中眼鏡とそこから突き出たシュノーケル棒、それに足ひれだけあれば、それで何の制約なく何時間でも楽しめる。だから、水面と水中2〜3メートルの世界に留まっている限り、そんな面倒な重たい装備やライセンスなどまったくナンセンスとばかりに、私は熱帯の海に再び行っても相変わらずシュノーケル派であった。

 ところが、最近、雑誌「現代」で読んだ雑誌は、私の考えを変えるきっかけになった。それは、M物産を取締役で退任した人の実話で、家代わりにクルーザーを買って世界の海を旅しているという。そしてその人は、定年後に船舶免許をとり、63歳でダイビングのCライセンスをとり、結局、Aライセンスまでとったというものである。おっと、それなら10歳も若い私でもできるのではないかということで、スキューバ・ダイビングの体験レッスンへ参加することとした。

3.さて、プールで行われたそのレッスン当日、私はやや緊張して出かけた。最初に身に付ける器具についての説明を受ける。まず空気ボンベとジャケット。その左手側にぶら下がっている二つのメーターは、上が深度、下が残存空気量。左手側の上に付いている二つのボタンは、青いものはジャケットに空気を入れて浮き上がるためのもの、黒いものはその空気を追い出すもの。そうか、これは合理的だ、要するに浮き上がりたければ青いボタンを押すのか。

 マウス・ピースは、まずボタンを押して中の水を吐き出して、それで口にくわえるらしい。それから、もうひとつ付いている黄色いマウス・ピースは、要するに予備のもので、壊れた場合やインストラクターが咥えるものだという。これも簡単。そして、お腹に錘を巻く。当たり前だが、これは重い。10キログラムはないと思うが、しかしこれで沈まなかったら、恥だなと思いつつ、それを腹に巻き、バックルで留める。おっとっと、錘のせいで、水着が腹からずり落ちそうになる。水着の紐を締めなおした。それから、四つのコツなるものを聞いた。

 
(1)口で呼吸をし、鼻ではしないこと。
   (当たり前だ、マウス・ピースは口に咥えているんだもの)

 (2)水中眼鏡の中に水が入った場合は、やや上を向き、水中
   眼鏡の玉の接続部分を指で押さえて、それから鼻から空気
   を出して水を出す。

 (3)下へ潜るに従って、水圧で耳がツーンとするので、その
   場合はこまめに鼻を押さえて息を頭の中に出すようにする。
  (要するに、頭中空気圧を上げて、平衡を保つわけだ)

 (4)水中眼鏡のガラスが曇ったら、一度、水中眼鏡の中に水を
   半分程度入れると、曇りがとれる。それから(2)の要領で
   水を出す。


 いやいや、どれも理屈を考えれば当然のことで、深く納得した。

4.というわけで、それでは実践ということになり、重たい装備を付けるやいなや、そのままボチャンと水のなか。

 コーチは、まず
(1)をやれ、という。これは簡単至極。やや潜り、プールの壁面を眺める。おおっ、底は深い。なになに、潜れという合図は指を下に向け、上がれは指を上、それでよいOKというのは、親指と人差し指を丸くするって、わかった。次に(2)をやれだと。それなら、まず(4)の要領で水を入れなきゃ。おっとっと、水を入れすぎて水中眼鏡一杯になってしまった。これは苦しい、眼鏡の意味がないではないか、それでも鼻から水を出すと・・・あらら、出しすぎて、水中眼鏡がずれちゃった。予定外のことに、呼吸が荒くなっているのがわかる。こりゃダメだ、浮上・・・。コーチいわく、「その眼鏡、ゆるいのではないですか」・・・私より頭の大きい御仁が使ったものらしい。締めなおして、よしっと。それでは潜ってまた挑戦。今度は水中眼鏡の下部分を持ち上げ、水を半分くらい入れてっと・・・できた。それで・・・水中眼鏡の玉の接続部分つまり眼鏡の真ん中を指で押さえて・・・鼻から空気を出す。コボコボッと空気が出て水を追い出し、まずまずの成功。さあもう一度。これもまた成功。何だ、簡単ではないか。そしてそのままプールの底へと潜っていく。確かに、耳が水圧に押されてツーンとする。それで、(3)を実践。これはすぐに出来た。何せ鼻を押さえるだけだから。2〜3メートルおきに試して、プールの底に着いた。

 それから今度は、青いボタンを押してジャケットに空気を入れ、浮上しろという。プシューという音がしてジャケットが膨らみ、おおっ、浮き上がるではないか。でも、膨らんだジャケットが上半身を押し付けて、やや苦しい。プールの中央に浮き上がって下を向いてもがいていると、コーチは上を向いて水上に寝ていろという。なるほど、肺が楽になった。さて、また下に潜れというのでボタンを押したら、間違ってまた青いボタンを押してしまった。あららっ、空気がジャケット中に充満して、また苦しくなった。これは拷問状態だ。どこだ、もう一つのボタンは・・・あった・・・それを押すと、すうっと空気が抜けて、また水中に戻っていった。両手は平泳ぎの要領、両足はクロールの要領で水中を進む。なかなか、優雅である。おっと、一緒にレッスン中の高校生たちが、プールの底でじゃんけん遊びをしている。あやうくその頭を蹴りそうになった。

 途中で、水中眼鏡に水を入れてっと・・・水があんまり入らなかったけれど、まあいいっか・・・鼻から空気を出す。うまくいった。どうも、これをやると、また耳がツーンとする。頭の中の空気圧が下がるらしい。そこでまた、鼻を押さえて空気圧を高めてっと・・・OK、OK。さて、こうなると怖いものなし。プールの中を勝手気ままに泳ぎまわり、水中を観察。意外と汚いものだということを発見したりする。いろんなものが浮かんでいる。これでは、プールの水は飲み込まないほうがいい。さて、また青いボタンを押してっと・・・すうっと上昇。今度はボンベの空気を節約するために、ジャケット内にちょっとしか空気を入れないという芸の細かさを見せる。その分、足の推進力で補う。えへへっ、すぐに慣れてしまうというのが、私のいいようで悪いところである。

 そんなことで、体験レッスンは終わった。今度はいつ、ライセンスに挑戦しようか。それから、慶良間諸島にでも行って本格的にダイビングをして来ようか。しかし、何年後になるだろうか。



(平成15年1月 4日著)
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