This is my essay.

 山梨のリニア実験線、つまり山梨県大月市にある超電導磁気浮上式鉄道の実験線に行って、時速500キロの列車に試乗させていただいた。乗った感想をひとことで言うと、「乗り心地は、いまの新幹線と同じか又はそれ以上に快適ではないか」というものである。もちろん、走行の当初は多少は揺れる。時速160キロまではタイヤの車輪で支えているからだ。しかし、それを超えると、超電導の磁気の反発で地面から10センチ浮き上がり、安定してくる。そして500キロが8秒間続いたが、走行は非常にスムーズで、ほとんど揺れることがない。これなら、いまの新幹線「のぞみ」の方が揺れることは確かである。というわけで、25分間で実験線を行ったり来たりする試乗があっという間に終わった。

 こちらを訪問する前は、超電導の磁気で浮き上がるというなら、磁力が強すぎて時計やらスイカなどの磁気カードがやられるのではないかと心配して、そういうものを置いて行った。ところが、その心配は全くの杞憂であった。確かに、昔の宮崎での実験線の時代には、そういうことがあって、時計を外して乗車してもらっていたようである。それは、超電導コイルを床下に敷いていたので、乗客が磁力を直接受けていたらしい。ところがこの山梨の実験線では、超電導コイルは床下には置かれておらず、車両の間の、しかも外側に向けて置いてある。またそれを鉄板でシールドしてあるから、客室内の磁気は、たかだか10ガウス程度だという。ここでまず、びっくりした。



 次に、車両や線路の両脇のガイド・ウェイの超電導磁石がコンパクトなことに驚いた。これで、マイナス269度に冷やして超電導状態を作り出しているのだから。絶対零度がマイナス273度なので、これは絶対温度で4度ということになる。まったく死の世界ともいえるが、それがこんな薄っぺらい機械の中で作り出されて、しかもこれほどの高速を生み出しているなど、前世紀の前半までは誰も考え付かなかっただろう。これが、二番目にびっくりしたこと。

 推進の原理は、要するにS極とN極の磁石をガイド・ウェイに交互に並べて、通過する列車の磁石のN極とS極に引き付けさせ、また反発させて進むものである。そして浮上の原理は、ガイド・ウェイに縦に8の字に並べた磁石の下の輪で反発力を、上の輪で吸引力を作り出すという。ははぁ、そんなことで、何トンもの車両が浮き上がるものか。これでまた、びっくり。

 時速500キロなら、すれ違ったらどうなるの、という素朴な疑問が思い浮かぶが、これもちゃんと実験していた。1999年11月16日に相対速度1003キロメートルで、すれ違い試験をしたところ、それに乗っていた人の話によれば、「あっと言う間に終わり、むしろ新幹線の場合よりも揺れを感じなかった」という。新幹線と比べると、確かに車体下部はガイド・ウェイに守られているし、加えて線路の間隔が若干広いので、それも当然かもしれない。それにしても、他に何もない大空を飛ぶ航空機ならともかく、わずか2〜3メートルの距離で時速1000キロですれ違って、何も起こらないとは・・・。これもびっくり。

 多少、技術的な点が気になり、担当の工学博士・リニア本部長さんを質問攻めにしてしまったが、懇切丁寧に教えてもらった。最初に、ポイントつまりレールを分岐する部分はどうなっているのかというと、これはトラバーサ分岐装置といって、両脇のガイド・ウェイそのものを動かす方式らしい。しかし、故障したらどうなるのというと、やはり人力で動かせるようにはしているようだ。もっとも、そんなに簡単ではないらしい。空気抵抗が大きいのではと聞くと、待ってましたとばかりに答えられた。確かに成層圏上空を飛ぶ航空機と違って、レールを使わずに浮き上がって地上を500キロの速度で走ると、ほとんど空気抵抗が問題となるらしい。これについては、いろいろと試行錯誤を繰り返していて、当初はダブルカプスというアヒルのくちばし形のものと、エアロウェッジと称する新幹線の鼻先のような形のものとを導入して比較したが、結論としてはあまり変わらなかった。そこで、三番目のものとしてわれわれが乗った鼻先がずーっと長い新車両にした。どれだけ長いかというと、従来の鼻先の9メートルを23メートルもの長さにしたらしい。おかげでちょっと不恰好になったが、しかし効果は非常にあったとのこと。しかし、これではその部分にお客さんが乗れなくなってしまうので、営業車両は、この半分の長さにしようかなと、おっしゃっていた。



 運転は、両脇のガイド・ウェイに三相の電気を流してやるだけだというので、「それなら運転手は必要ないですね」と尋ねると、「まあ、技術的にはそうです。ただし、車掌さんの役をする人は最低限必要でしょう」とのこと。要するに運転に関する限り、中央指令所からすべてコントロールできるらしい。ただ、一番気になっていたことがある。「電気が停まったら、バシャンと落っこちるのか」と聞くと、いやいやと苦笑されて、「浮いたままですよ。超電導状態は無抵抗状態なので、いったん入れた電力がそのまま走り続けているわけですから」という。あぁ、なるほどね。しかし、ブレーキはどうなるのかというと、それはやっぱり列車独自に止まることができる装置が必要ということで、高速走行時に板を立てて空気抵抗を利用して止まるブレーキと、低速時に車輪で制動するディスク・ブレーキを用意しているらしい。はあ、はあ。

 「車内灯とか通信とかに、やはり電力は必要でしょ、パンタ・グラフないのに、どうされているのですか」と聞いたところ、車内に発電設備のガスタービンを置いているとのこと。普通の車両の10分の1程度の電力は必要らしい。もちろん、そのほかに、集電にパンタ・グラフを使わない誘電方式を試しているとのこと。「最近特に新しくて使いやすい超電導磁石がいろいろと開発されているけれど、それらはまだ使えないのですか」と尋ねたら、ようやく昨年当たりから性能がいいものが出回るようになってきて、徐々に使い始めているという。

 これで、やっとシステム全体を理解しかけたので技術的な質問はおしまいにして、最後に大変ぶしつけながらと前置きし、「いまどき、東京・大阪間の建設にその7兆円もかけるというのは、あまり現実的ではないのでは。むしろ、たとえば既存の新幹線の線路の両脇にこのガイド・ウェイを付ける工事を夜間にでもさせれば、いまの新幹線をグレード・アップさせられ、工事費も大幅に安くなるのでは」と聞いてしまった。

 リニア本部長さんがおっしゃるには、「いやいや、今の新幹線は、たかだか時速300キロを前提に設計しているので、線路の最小曲線半径は2,000メートルですけれども、こちらは時速500キロなので、8,000メートルは必要です。それに、もともとこの計画は、東海道新幹線の容量が満杯となることを見越して、その第二新幹線ということで計画が練られてきたという経緯があり、しかも東京・大阪間を一時間というのが基本コンセプトなので、これは譲れません。バブル直後の景気回復の過程で150兆円もの公共工事が行われたことになっていますが、それに比べれは、7〜8兆円というのはさほど大きな数字ではないし、しかもこれを何年かに分けて支出するので、たとえば一年当たりにすると1兆円ということになるわけです。」、なるほど、もっともである。

 そして続けて話されるところによると「いまは、普通の新幹線を作るのに比べれば、約三倍のコストになる計算ですが、実際に計画が決まり、全線開通するのにはたとえば10年かかるとして、この間にも、車両の改良や技術開発が続けられるので、それまでにはコストは相当に改善されることが見込まれます。現に、コスト削減のためにこの2〜3年で開発された新技術はいろいろとあり、それらはきょうの試乗車両に生かされています。だから、コスト面では、大いに希望があります。」

 「現在の新幹線を作るに当たって、在来線の一部を使ったらとか、いろいろな案がありましたが、時の国鉄総裁の決定で、『新線を作る、踏み切りを作らない』ということとなりました。それが新幹線の性能を発揮して、今日の隆盛の元となったのです。」とのこと。いや、そうだろうと思う。世界に誇る技術である。早期に着工に漕ぎ付けることを心から祈っている。

(平成16年6月19日著)
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