This is my essay.








 DMR−HS1 といっても、私自身も昨日までは全く知らなかったが、これは松下電器のDVDプレーヤー兼レコーダーの型番である。従来のビデオに代わって、ハードディスクにDVDで番組を録画し、それをDVD−RWなどに焼き込むことができる機器なのである。

 7月1日からスタートレックのヴォイジャーのシリーズが再放送されるので、それをDVDで録画しておきたいと思い立ったことが、今回の騒動の始まりである。アメリカのテレビ映画としてのヴォイジャーの出来の良さとか魅力とかは、また別の機会にじっくりと触れることにして、きょうは機器との格闘のお話である。その前に、これで何ができるかというと、もちろんDVDディスクを再生するのであるが、それとともに、従来のようなVHSビデオ・テープを使わずに、録画内容を内蔵のハードディスクにDVDの画質で最大限17時間記録し、それをDVD−RWやDVD−Rのディスクに記録できるのである。

 さて、突然そういう機器を買おうと思って、どんなものがあるかをインターネットで調べてみた。そうすると、どうやら価格ドット・コムというところで、各商品の評判とか価格の比較ができるというわけで、早速それを覗いてみた。これが、まあびっくりするくらいの世界であった。

 まず、DVDプレーヤーについて、各社の製品の横断的比較ができる。私の買いたいのはハードディスク使用のDVDプレーヤーで、しかも録画ができるタイプであるが、松下、日立、パイオニア、ビクターなどから出ている。それぞれの商品につき、メーカーのホームページに直接つながっているから、細かい仕様もわかって、比較しやすい。それに、消費者からの書き込みという形で、それを買った人が、どこをどうして、何を思っているのかが、すべて情報として蓄積されている。それをいちいち見ていくと、電気製品の使い心地とか、欠点、良いところ、何でもわかってしまう。うーーん、メーカーにとっては、こわい世の中になったものだ。

 それにも増してびっくりしたのは、その価格が比較されて出ているところだ。それが、最も安い順に表示されている。もちろん各店の自己申告らしいが、それにしても、この比較表は赤裸々である。一番安いのは、三店あって、12万2400円。これらはいずれも宅配扱いで、岡山とか大阪とかの地方の店である。それから、四番目は秋葉原の店で、12万3800円。ははーん、1200円違う。それから五番目は、12万4000円となっている。これは神田にある。こんな調子で、最後のお店は、15万円を超しているではないか。これだけで、3万円近くの差が出ている。

 自由競争の結果であるが、それにしても、面白い時代になったものである。私は、電気製品は、てっきり秋葉原にでも行き、店員の説明を聞いて選ぶのがその買い方だと思って長年実践してきたのであるが、今はどうやらそうではないようである。たとえば、そのホームページには製品評価という欄がある。六角形のグラフで、価格、利用のし易さ、性能、満足度、デザインなどについて、消費者の得票を積み上げたものが上がっているのである。私が買おうとしているDMR−HS1くんは、いずれもバランスよく得票している、結構、結構。

 さて、価格の最安値が静岡のデンカドーというところで、12万2500円也。次が岡山のg~コム。変な名前だ。同じく12万2500円。群馬の会社も同じで、三位が12万3800円のローヤル、ああっ、これは東京・秋葉原の会社である。それをクリックすると、店員さんたちのお顔も出てきて微笑ましい。場所は地下鉄末広町駅ねぇ・・・。地下鉄でぐるりと周回する必要があるから、我が家からはちょっと、交通不便である。四位がアウトレット・プラザといって、これは神田である。ここなら20分もかからないで行けそうだ・・・。などと思いながら各店の価格を順次みていくと、26位が福井のitpshop.comという会社で、何と16万5000円である。これは、参加することに意味があるのかな。ホームページの最後に、「店頭購入をお考えの際は、店頭に行かれる前に店頭販売の価格・在庫を前もってご確認ください」とある。ご親切なことだ。

 ということで、半信半疑ながらも、近くだから行ってみることにした。まずは電話して、在庫を確認したところ、一台あるという。地下鉄に3分ほど乗って、数分ほど歩き、秋葉原に着いた。目指すは、そこから10分ほどのところらしい。秋葉原を通るうちに、念のためと思い、いつも行く石丸電気に立ち寄ってみた。もう、私にとっては習性のようなもので、このあたりを歩くときには必ずといってよいほどに入ってしまうお店である。テレビ、洗濯機、ビデオ、照明器具など、いつもここで買い物をしてきた。ところが残念なことに、ここにも高度情報化革命の波が押し寄せてきて、いつの間にかパソコンとインターネット関係が幅を利かせるようになって、私がその長年ひいきにしてきた家電製品売場は、三分の一程度に縮小されてしまって、見る影もない有り様だ。

 それはともかく、ただいまの関心事であるDVD機器を見ようと、オーディオ階に足が向いた。DMR−HS1はあるかな・・。ところが見渡すと、DVD再生機器が多くて、どうも再生ハードディスク録画機器は見あたらない。高すぎるからだろうか。確かに、ふつうのビデオ機器は安いものだと1万円程度だし、DVD専用でも1万8000円で買える。一昔前では考えられない値段である。それでもあるだろうと売場をしらみつぶしに探すと、あった、あった。それも、相当に端っこの棚である。えーと、値段はと見ると、びっくりした。どうやら、15万円らしい。うーん、と、うなってしまう。ここから歩いてたった10分のところでは、これより2万6200円も安い価格を提示しているというのに、である。これだけの店舗と店員を揃えているわけだから、当然といえば当然であるが、やはり、一消費者としては、納得のいかないところである。アフターサービスがあるといっても、この価格差では、太刀打ちできないだろう。

 というわけで、石丸電気には悪いが、どんな機器かを確かめたので、先に進むこととした。トコトコ歩き、上野駅横から昭和通りを越えた。ホームページからダウンロードした地図が頼りである。通りに面して赤い看板の○○銀行があり、その横の和菓子屋さんのところで右に曲がる。でも、それらしき建物がない。みな、倉庫のようなものばかりだ。「あれ、困ったなあ」と思っていたら、目の前の倉庫の横に、その店の名前が小さく掲げられている。「何だこれか、本当にここなのかな」と思って立ち止まると、中には家電製品のパッケージが山積みされている。その合間を縫って、店員というか、荷物整理係のような若い人が行き来している。ああ、これか、大丈夫かなという気がした。店先で見ていると、ひっきりなしに誰かが買いに訪れている。学生風の若い人、バイクに乗ったおにいちゃん。うーん、私のような年代の人物はいないが、まあいいかと思い。その倉庫のような店の中に入って、「電話した者ですけど、DMR−HS1はありますか」と、若い女性店員に聞いた。ジーンズをはいて、まだ二十歳前ではないかと思う子である。そんな店員がごくわずかしかいない。全員とも、窮屈になるほどに積み上げた荷物の洪水のような中で歩き回るとというか、はい回っている感じである。

 その女の子の店員は、在庫を調べ、「ありますっ」と返事をした。続いて、「いくらと聞いてますか」と質問してきた。「インターネットで、12万3800円となっとました」というと、「そうです」と答えた。でも、これ、どういう意味なんだろうか。いささか疑問であったが、まあその値段なら、こちらとしては結構だ。そして、その子は、包装を作りながら、「三日間、うちで独自の初期不良対応をします。何かあったら、ご連絡ください。これは、保証書の貼るシールです。保証書は、日付を入れませんので、何かあったら、そのときに書き込んでください。」などという。そんなことをして、いいのだろうかと心配になるが、店員さんは、いつものことだとばかりにひもを掛け、取っ手をつけてくれた。現金で支払って、取引は終了した。

 重い荷物を持って、タクシーで一気に自宅に戻る。そして夕食後、本を読んで一服し、居間のテレビの下の台の中にあるVHSビデオを片付け、DMR−HS1を据え付けた。前のものよりちょっと大きいが、ちゃんと入った。その上に、CATVのデコーダーを載せ、さて、というわけで、配線作業にとりかかった。テレビでウィンブルドン・テニスをやっていたので、それを見上げながらの仕事である。ところが、私の家ではテレビとビデオの間に、CATVのコンバーターが入っているのに、製品の取扱説明書では、その場合の説明が書かれていない。いろいろと探して、ようやく取扱説明書の最後当たりに、それらしき説明図が載っていた。それも、CATV会社やコンバーターの性能によるというあいまいなものであった。まあ、これは仕方がないにしても、問題は、どこに配線を繋げばよいのか、その肝心なところがはっきりしていないのである。とりあえず、最も単純な配線は、下のようになる。

【アンテナ】>>>>>>>>>アンテナ線>>>>>>>「アンテナ」【D V D】
【テ レ ビ】「アンテナ」>>同軸ケーブル>>「テレビ」【D V D】
【テ レ ビ】「ビ デ オ」>>黄赤白三色線>>「出力1」【D V D】


 要するに、これにCATVのコンバーターを割り込ませればよいので、単純に考えれば、これをアンテナ代わりにするのと、テレビとビデオの間に入れればできるだろうと思って、次のようにした。CATVのコンバーターとDVDとの関係は、そのやっと見つけた取扱説明書の説明図を参考にした。

【CATV回線】>>同軸ケーブル>>>>「入 力」【CATV】
【CATV】>>同軸ケーブル>>「アンテナ」【D V D】
【CATV】>>黄赤白三色線>>>>「入 力」【テ レ ビ】
【CATV】>>黄赤白三色線>>>>「出力2」【D V D】

【テ レ ビ】「アンテナ」>>同軸ケーブル>>「テレビ」【D V D】
【テ レ ビ】「ビ デ オ」>>黄赤白三色線>>「出力1」【D V D】


 これで終わりと思って、DVDとテレビのスイッチを入れてみた。ところが、最初に出てくるはずの作業画面がさっぱり出てこない。従来は、空きチャンネルの2チャンネルで、ビデオ映像が映っていたのであるが、どのチャンネルを回しても、またビデオ入力に切り替えても、さっぱり写らないのである。配線を説明図と引き比べ、またそれぞれのプラグをしっかりと差し込み、再びやってみたものの、やはりだめである。このDVDプレーヤーは壊れているのではないかと思ったが、試しにチャンネルの自動取得機能をリモコン装置で動かしてみたら、ちゃんと働いたので、どうやら、電波は来ているらしい。そうなると、他のところも正常だと思ってもいいだろうから、やはりこれは、配線のせいかと考えた。ところが、CATVコンバーターの説明書はどこか本棚の奥深くにしまってあって、それを出すのは大変である。そうかといって、DVDの説明書では、CATVコンバーターとの連結のところは自分の担当外とばかりに、肝心な接続部が曖昧模糊としていて、まったく役に立たない。こんな夜中にどうしようかと思ったが、ふと、CATVの番組表に、24時間対応で、いつでも技術的相談を受けますと出ていたので、土曜日の夜中の一時過ぎだが、電話をしてみることとした。

 電話に出たのは、おそろしく丁寧な物言いの人で、こちらが何に困っているのかを述べると、「それはお困りですね」から始まって、住所氏名電話番号を述べさせられ、私の使っているコンバーターの製造メーカーを聞かれた。ところが、本体とリモコンのどこを見ても、何も書いていないのである。さすがに相手も困って、大きさは何センチか、ボタンの色は何色かなどと聞いてきた。回りは黒で、ボタンはグレーで、電源ボタンだけ赤色だというと、それでやっと機種が特定できた。それから、DVDとコンバーターの配線をいちいちチェックしていった。そうすると、途中まできて、思わず「あれっ」と声を出してしまった。黄赤白三色線をDVDに繋げる先を、「出力2」ではなく「外部入力」にすべきであった。DVDの説明書の簡略図の方だけを見て間違ってしまったのである。

(誤)【CATV】>>黄赤白三色線>>>>「出力2」 【D V D】
(正)【CATV】>>黄赤白三色線>>>>「
外部入力」【D V D】

 ということで、お礼をいい、電話を切ってからその分の配線を繋ぎ直した。さて、と思ってリモコンを手にし、まず2チャンネルで試してみたが、やはり何の反応もない。まだ、落胆するのは早いと思い、そのまま入力切り替えでチャンネルを回していくと、あった、あった。ビデオ入力2で、DVDの初期画面が写っていたのである。時間をみると、午前2時になろうとしていた。眠いわけだ。しかし、大いに満足して床に着いた。それにしても、説明書が誤解しやすいなんて、とんだ週末の時間つぶしであった。

 それからは、DVDレコーダーDMR−HS1くんは快調そのもの。画質もよく、編集もできる。これなら、もっと早く買うべきであった。さて、スタートレックの全シリーズを揃えよう。



【後日談】

 スタートレック・ヴォイジャーは、月曜から金曜日の毎日放映しているおかげで、かなりDVDビデオがたまってきた。いずれも、非常に満足すべき画質と音質である。これなら、十分に保存する価値があると思うし、DMR−HS1には、大いに満足した。ということで、知人に聞かれた場合に備えて、インターネットでもう一度、価格ドット・コムを見た。すると、何とまあ、DMR−HS1くんの最安値は、88,000円となっていた。一ヶ月間で、約4万円弱の値下がりである。新製品が出たのであった。

(平成14年 7月28日著)
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